EP1 出会ってしまった二人の変態異能令嬢
※毎度お下劣物でご注意願います。前作、<ジジイが間違って美少女に転生してしまったら*>の続編です。
___地球で言うならば北欧に位置するエルダート王国は、早い冬の到来を告げていた。
玉歴236年10月、緑豊かな森の木々に囲まれたユウンラムゼ伯爵の屋敷の夜明けは、流石に少し肌寒くなったが、今日だけは慌ただしい喧噪に包まれながら、熱気と活気に溢れていた。
やがて屋敷に響き渡る大きな産声を上げて、それはそれは美しい女の赤子が産まれた。
「伯爵様、おめでとうございます! 玉の無い玉のように美しいお嬢様で御座います」
「何と、玉無しであるか! こりゃたまげた」
途端にまだ薄暗い屋敷内の使用人やメイド達は、各々が燭台を手に歓喜に包まれるのだった。
「この騒ぎは、おぉ!お産まれになられたのか?御坊ちゃまか御嬢様か、果たしてどちらであろうや」
この時まだ下級の使用人達までは、伝令役の連絡は届いてはいない為、不心得者はなけなしの少ない金で懸けに興じていた。
どちらであっても、こうなれば領主ユウンラムゼ伯爵の言葉無くして、使用人達は今何をすべきかを心得ており、屋敷内を縦横無尽に走り回っている。その騒がしい事。
____それは今夜開く宴の準備であり、専属料理長ハンス・ゲルマンの腕の見せ所、出番でもある。
「腕に縒りを掛けて、最高の料理で祝福せねば!」
朝日が昇り、レンガ作りの窓から柔らかい光が差し込むと、伯爵夫人ソレイユが抱く赤子の顔を、よりはっきりと美しく映し出した。
「伯爵様、あなたと私の子がとても元気に産まれてくれました」
傍らに仕える従者のメイド達も、涙を浮かべながら誕生の喜びの言葉を次々に口にするのが聞こえたが、伯爵はただうんうんと鷹揚に頷くだけだ。最初に声をかけるのは最愛の夫人であるのだ。
____「うむ、よくやったソレイユ。世継ぎであれば、儂は勇ましいユンケルと命名したかったのだが、我が娘ともなればソレイユ、そなたが命名するが良い」
「まぁ皇帝のように逞しい名前を。ありがとう御座います。では恐れながら私が相応しい良き名を」___
臨月になる前から夫人はある確信を持っていた。それは胎動が活発で、当初は男の子だと思っていたのが、次第に女の子であると思えて来たからだ。永年屋敷に奉公してきた、産婆経験豊かな老メイド<パパイア・マンゴ>の言葉とも一致を見たからだ。
それ故に伯爵夫人ソレイユは、既に名前を決めていたのだ。
「今日産まれたあなたを、母は<フローラ>と名づけました。ずっと前からね」
◇◆◇◆◇◆
_____玉歴243年10月。フローラ17歳の誕生日に、隣国領ドン・ウェルナー伯爵令嬢が一人招待されていた。
この年齢ならば、子爵、男爵などの爵位持ちボンボンが、祝いの言葉と貢物を持って来るのは、貴族なら当然の習わしなのだが、フローラはそれすら拒否し続けて来た。
使用人すら遠ざけるフローラは、どこに問題があるのか誰にも理解されなかったが、今日は二人だけで話をしたいと言って、使用人達を部屋から遠ざけると、意を決したように秘めた話をしようと口を開くのだった。
「.....ねぇセリーナ、私、誰にも言えない秘密があるの.....驚かないで聞いて欲しいの」
フローラの隣には、17歳になるまでずっと親しい友人であるセリーナが、時折咳き込んで頷いてテーブルに着いて居る。彼女だけは、フローラにとって心を許せるただ一人の友人なのだ。
ゴフ ゴハ
「そう、何でも聞いてあげるし、絶対に驚かないと約束するわ。だから何でも話してねフローラ」
決心した筈なのに、フローラは言葉が出て来ない。とても大きな秘密だと直感したセリーナが、今度は自分の方から切り出した。
「心配しなくても大丈夫よフローラ......私にだって人に言えない秘密があるから」
そう言うとセリーナは、人が誰もいないか辺りを確認してから、喉のイガイガを取り去るような咳を一つした。
カァ~ツ ぺツ
「セリ、あんたここでタン吐く?」
「なぁフローらや、儂は異世界日本から間違って来た、平行輸入物の転移・転生者じゃぞい」
はひ?
姿はセリーナ、しかし声と喋り方は老人のそれである事に、フローラは最初、セリーナが声帯模写で私を揶揄っていると思ってしまった。
「あぁんいや~ね、セリーナったら、ここで私に気を使わなくても......でも、上手かったわよ。それ誰に教えて貰ったの? あっ分かった専属料理長のハンスでしょ?」
フローラもセリーナの誕生会には、何度もドン・ウェルナー伯爵家に招待されている。その折に、料理長のハンスとも面識があり、気さくな人柄にセリーナの次に心を許せていた。
「いや、それは違うぞいフローラや」
醸し出すセリーナの雰囲気は、完全に老人であった。流石にこれは何かがあると、フローラは考えを改め始めるのだった。
「うん、私、セリーナを信じてあげる。だって私達友達でしょ」
「即断即決か!ありがたい事じゃ、南無阿弥陀仏。17歳の若いセリーナを演じておるのは、ここ最近、慣れて来たものの中味は99歳のジジイでな、少々キツイんじゃぞこれが。精神的にも生理的にもじゃぞい」
魂という物は、肉体に引っ張られて次第に順応していく物。セリーナの中のジジイも段々と少女である事に慣れては来たが、それは完全にではなく、いつもジジイはセリーナを演じる努力をしていた。
「努力とは、女の又に力と書くのじゃ。知っておったかフローラ」
「いきなりなんですの、それは?」
....。知らんのか。まぁええ。
「儂は異世界の日本の、熱中症でポックリ転生者じゃぞい。驚いたかや?ちなみに99歳じゃぞい。あれは病と祟りに伏せたセリーナに、儂の魂が偶然入り込んでしまったのは、セリーナが17歳の時でな。ほれ、ついぞ半年前の事じゃったがな」
フローラには思い当たる事が沢山あった。セリーナにはフローラと過ごした16年間の記憶が無い。それは何者かに呪いをかけられ、重篤な状態になってから、態度と物腰がおかしいと思っていたからだ。
『男勝りの性格で、剣の修行に明け暮れていたり、甘いお菓子もお好きだったのに、今は渋いお茶と饅頭が好みになったのも変だと思ったのよ。茶柱が立ったと言って、はしゃいでたもんね』
反対に人生経験豊かかも知れない99歳の老人の感で、乗っ取ったセリーナが病の折、駆け付けた友人だと言うフローラにも、何かの秘密がある事を悟ったのだ。
以後フローラが自分から話してくれるのを、99歳老人セリーナはずっと待っていたのだった。
「じゃがフローラの誕生会には、きっと話してくれるかもしれんと、儂は楽しみにしておったんじゃぞ。なにしろ儂はセリーナの記憶がすっかり無くなって、貴族の嗜み、礼儀作法の何から何まで、一日中覚えよと、儂より年下のパパとママが煩くてな、屋敷を出られるフローラの誕生会を、待ち侘びておった儂も辛かったんじゃぞい」
「じゃあ、じゃあよ、セリーナの中に99歳、馬の骨老人Xが居て、17歳のセリーナのふりをしてたの? 私、何だか変なセリーナだとは思ってたけど」
フローラは儂の秘密を聞いて、何故かとてもええ顔と安堵を浮かべたのじゃ。
「フローラや、おまはんの秘密とやら、もうくちゃべってもええやろが。この老いぼれXに、ずぅえぇんぶ吐き出すがええぞよ」
「吐いてもいい? セリーナ、あんたさっきタン、飛ばしたもんね。この高価な絨毯の上にさ」
「タン壺が無かったからじゃ」
「どこかの馬の骨X......99歳のセリーナ、あんたを見ていると、お陰で私も何だか勇気が出たわ。次は私の番ね.....」
じゃ言うわ! 私はね、わたしは!....
「なんじゃ、はよ言わんかえ」




