第三話
母ちゃんの加護の話は一度も聞いたことがなかったが辺境にいるのが不思議なぐらいの加護持ちだった。
親父を追いかけて実家を飛び出し結婚したのだとか。
そんなわけで母ちゃんは英才教育を施された魔法の達人だった。
ちなみにこの家、見た目は貧相な佇まいなのだが立派な地下室が存在しており村人の目を避けるように魔法の訓練は地下室で行われた。
母ちゃんは教えるのがうまく実に様々な魔法を教えてくれた。
親父も最低限の仕事をこなし残りの時間は模擬戦の相手をしてくれておかげで実力をメキメキと上げることが出来た。
5年はほぼ家に引きこもることで経過していき独り立ちの時を迎えていた。
「リール。本当にいくのか?」
「行かなかったら親父たちが困るだろう」
加護の情報は王国が管理している。
15歳になると王国から通達がきて住む場所を指定されるのだ。
そんな中、俺に来た通達は開拓村の中でも取り分けて危険な村への移住だった。
噂では毎日のように死人が出るとかそんな物騒な話しか聞かないような場所だ。
通達を無視することは重罪で破れば一家全員死罪となる。
ここまで必死に育ててくれた両親を巻き込むことはしたくなかった。
「親父、大丈夫だ。二人が鍛えてくれたおかげでそう簡単には死なないさ」
「そうか。なら、これを持っていけ。何か困った際に偉い奴に見せれば便宜を図ってくれるはずだ」
親父が渡してきたのは精巧な意匠の施されたコインだった。
「ありがたく貰っておくよ」
俺は親父と母ちゃんに見送られ家を後にした。
期日までに指定された開拓村にたどり着かなければならない。
住み慣れた故郷の村を出て森の中を歩いていく。
道中は常に魔物に狙われその度に足止めを余儀なくされた。
価値のある部位だけを回収して背中に背負った背嚢型のアイテムバックに突っ込んでいく。
これはわざわざ母ちゃんが遠出して手配してくれたものの一つだ。
常にギリギリの生活をしていた我が家のどこに買う余裕があったのかは謎だがそれでも助かっているのは確かだった。
森に入って1か月ほど経った頃、ようやっと目的の開拓村に到着した。
開拓村は四方を木で出来た塀で囲まれていた。
期日はぎりぎりだったが間に合ってほっとした。
道行く人に村長宅の場所を聞き到着の挨拶に向かう。
村長は筋肉モリモリのいかにも武人のような人だった。
「お前が加護なしか。どうせなら道中で野垂れ死んでくれればいいものの」
第一声がこれだった。
どうやら加護なしである自分はここでも歓迎されないようだった。




