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あの頃の私たちは


 ◆


 私の学科がメインで使う講義棟までは徒歩で20分くらいかかるけど、大学の敷地自体には3分もあれば到達する。そんな距離に私のアパートはある。

 日が暮れても窓の向こうからは外飲みを愉しむ賑やかな若者たちのはしゃぎ声が途切れない。

 この感じ、地方の学生街特有の夜の雰囲気。


 私は部屋に閉じこもって去年の今ごろの生活に想いを馳せる。


 初めての一人暮らし。

 独りきりの買い物、独りきりの自炊、独りきりの就寝。

 そのすべてが逃げ出したいくらい孤独で、だからことさらに人と過ごすようにいた。

 隣にはいつも名都がいた。


 名都との初めての出会いは映画研究部の新歓だった。


 新入生と上級生が合わせて十数人、連れ立って駅前の大型ショッピングモールを訪れ、併設されている映画館へ。公開中のものから多数決で観賞するものを決める。

 時期が悪かったみたいで、ラインナップは甘ったるそうな恋愛ものやアクション要素のない堅苦しげな政治スパイものなどなど。

 その中でそそられたのは、触手付きの巨大なシャンプーハットみたいな化け物がお色気美女たちを襲うという、いかにもすぎるB級パニックムービー。


『これ見たい奴、いる?』


 おずおずと手を挙げたのは私とすぐ隣の女子の2人だけ。

 先輩たちはよもや票が入ると思っていなかったようで、どこか引いたように私たちを見た。

 結局みんなの意見に従って恋愛映画を観たんだけど、お決まりのタルい展開の連続に鼻でもほじりたくなった。


 終わったあとの帰り道で、例の子がそっと私の横に並んで、


『クソつまんなかったね』


 って。

 他の子たちには聞こえないようにひっそりと、いかにその映画が凡作であったかのポイントを指摘し合っていると、死ぬほど楽しかった。

 そんなことよりあのシャンプーハットが気になるから、よかったら今度一緒に観ようよと、誘ってくれたその子が名都。

 私たちはそれから毎日のように放課後に落ち合ってタダメシにありつくためにいろんな部の新歓に乗り込んだ。


 アルコールと夜更かし、そして友達。

 あの頃の私たちは大学生というものを謳歌していたと思う。



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