会える口実を探してました
指定の場所でぼーっと突っ立っていると、小走りでこちらに近づいて来る大柄な人影があった。
「……花帆?」
ひと月半ぶりに聞いたその声は、現実に過ぎた時間よりずっと懐かしく感じた。
蛍光灯の明かりの下に現れた眞輔の顔は日に焼けて浅黒く、それと対比して彫り深い眉の下の双眼がより際立って見えた。
眞輔は少し戸惑ったようだけど、それ以上に狼狽していたのは私の方だった。
いつか偶然に鉢合すこともあるだろうと心構えをしていたはずなのに。
「こんなとこで、どうしたんですか? 誰かと待ち合わせ?」
「うん、まあ……」
緊張で声帯の振れがぎこちない。
静かにうつむく私の隣で、眞輔は何か合点がいったように眉を持ち上げた。
「たぶんだけど、そっちの待ち人、来ないと思うよ」
「え……?」
「俺も同じ人に呼び出されてると思うから」
……茉以の奴、図ったな。
反撃ってわけ? やってくれんじゃない。
肌寒い夜風と紅葉したカツラの葉の、まるで綿菓子を思わせる甘い香り。
ここ最近であっという間に気温が落ちて、季節の移ろいの早さには驚くばかり。
たったひと月前までは連日続く熱帯夜に悩まされていたっていうのに、この迅速な手の平返し、腑に落ちないな。
そこかしこに人工的な明かりが点いてせわしないキャンパスの中を、私と眞輔は肩を並べて歩く。
いつもと同じように。
でもこれまでとは違う気まずく冷えた空気を、確かめるでもなく互いに感じ取っていた。
「話したいこと、いろいろありました」
眞輔は力を抜くように笑って言った。
「でも断られるとそれ以上は踏み込めなくて。会える口実を、ずっと探してました」
私は下唇に歯を立てて、ぎゅっと力を込める。
「花帆が抱えてるゴタゴタが全部解決したら、また呑みましょう。北海道の旅の話も聞いてほしいしな」
なんの説明もなく、これだけ杜撰な突き放し方をした私のことを、待っててくれると眞輔は言った。
その底なしの優しさに唇が震えた。
この気持ちに折り合いが付くのは何年先になるか知れない。
でもそのときになって眞輔と再会したとしても、彼はとっくに違う環境にいる。
それはもう今の私たちとは違う。
19歳という時間の中で、軽口を叩いて、笑い合って、密かに片想いをした。
その関係は終わってしまう。
「拳法部は中央広場の先でフランクフルトやってるんで、腹減ったら来てください」
「ううん、私は……」
「学祭は、来ない? なら普通に3連休だね。どこかに遊びに行くんですか?」
そのときとっさに口をついて出た私の言葉は、どういう心境から発せられたものだったのか。
「……お願いがあるの」
頭で考えたわけじゃなく、淀みなく口から零れた願望だった。
「週末のあいだ、君の原付を貸してくれないかな」
私の思いがけない申し出に、眞輔の瞳が少し見開いたようだった。




