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傲慢が過ぎるとも思うけど



 ◇


 今学期のために組んだ時間割の再確認をするにあたり、ペラペラとシラバスを捲っていて気付いたことがある。

 他学科の授業ばかりで単位を埋めるという荒稼ぎが通用するのはせいぜい2年生までだろうということ。

 3年からは専門的な講義が増えるため、さすがに自分の学科の開設授業を基軸にせざるを得なくなる。


 今さらあのクラスの輪の中に戻っていくなんて、想像するだけで気が沈むな。


 夏休みが明けて2週目。

 今日も淡々と授業を聴き終えて、これからそそくさと自宅に戻るというルーティーンをこなすところ。


 キャンパスの区域に接する道路には銭湯や床屋、弁当屋さんなど、学生生活には切っても切れない必需的な商店が並んでいる。

 その通りの一角にある自転車屋は無料でタイヤの空気入れを貸し出していて、この日も持参したチャリンコに懸命に空気を押し込んでいる学生の姿が見える。

 夏休み明けで本来の活気が戻ったといえど、そこに1学期の頃の初々しさはもうなくなって、妙に生活に根差したというか、日常に馴染んだ大学生たちの風景に変わっていた。


 歩道脇の生垣からだらしなく徒長(とちょう)した枝が飛び出していて、少し冷たい空気に乗って香る草木の匂いはどことなく濃い。

 どうやら夏の日差しで光合成をしすぎたらしく、涼しくなった外気を前に、溜め込まれたエネルギーがうまく発散されないまま滞っているみたい。


 年度初めからずっと、気温の上昇に後押しされるように勢いで日々を駆け抜けて来られたけど、秋を手前にしたここに至って一息ついたという気がする。

 息切れってやつかな。

 物事は無限に続きはしないということを心に留めておかないと、いつの間にかみるみる失速してしまいそう。

 そんな不安を湧き起こすような、少し物悲しく思える季節の変わり目。


 去年の私は多くのものを見逃しながら日々を過ごしていたと思う。

 もっと早く名都の異変に気付いて適切な行動を取れていたなら、今も彼女は私の隣にいてくれたのかもしれない。

 そう考えるのは傲慢が過ぎるとも思うけど。


 キャンパスと市街は一部で虫食い状に敷地が入り乱れるところがある。

 街を歩いていたはずなのに、気付くとまたキャンパスに入っている、なんて不思議な構造。

 ふと顔を上げると、普段は関わりのない学部のエリアに差し掛かっていた。


 図書館の分館の標識を見つけて、なんとなく、ふらっと立ち寄ってみるのもいいかなと思った。

 多くの学生たちはサークル等の活動に勤しんでいる時間帯、このまままっすぐ帰宅するのが味気なく思えたんだ。


 だけど、これがいけなかった。

 エントランスに入ってすぐに何者かに呼び止められた。


「か~ほちゃん」


 この呼び方と声のトーンで相手が誰か悟った私は、ひとまずこの場をフルシカトでやり過ごすことにした。


「おいこら、聞こえてんだろ」


 私が盲目でもなければ説明がつかないほど大振りに手を動かしながら目の前に立ち塞がったのは、長谷(はせ)(たつみ)

 こんな所でコイツにエンカウントしてしまうなんて。




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