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アホの子の模範解答



 ……………。


 ……うわあ、嘘でしょ。

 なによ今の。


 神様、もし見ているのならば、ほんの少しだけ時間を巻き戻してもらえませんか。

 どもりと上擦(うわず)りのコンボにいかがわしさ満点のセリフ回し。

 これが一世一代の告白だなんて、吐きそう。


 思わず固く目を閉じる。

 でも終わりの見えない沈黙に耐えることもできそうになくて、恐る恐る薄目を開けてみる。


 私がつまみにと出したスナック菓子を口いっぱいに頬張っていた眞輔は、もぐもぐと顎を動かしながら不思議そうに私を見ている。


「あ、そのチューハイ? 俺も好き。うまいよね」

「は?」

「すごい飲みっぷり」


 ふざけんな、このポンコツ鈍感野郎。


「そんなことより、俺の夏休みの計画聞いてください」


 そんなこと?

 私は悔しさと恥ずかしさで涙目になりながら、両手の爪を立てて缶を握りしめた。


「――残りの2週間弱、フルに使って放浪の旅に出ます」


 突拍子もない話だった。

 原付に寝袋を背負わせて北海道を一周するという。

 よもや正気とは思えない。

 たかだが50㏄の排気量のスクーターでツーリングまがいの冒険だなんて、壮大より先に無謀という二文字が浮かぶ。


「そもそも北海道までどうやって行くのよ」

「県内の港町からフェリーが出てるんですよ。船内で一泊して、翌日には向こうに到着するみたいです」


 そのまま海岸伝いに輪郭を描くように道内を一周し、同じ港から復路のフェリーで帰ってくるんだって。


 開いた口が塞がらない私の心情を眞輔が代弁してくれた。


「馬鹿なこと言ってるって顔してる」


 そうして無邪気に笑う顔を見て、私が何を言ってもその計画を思い留まらせることはできないのだろうと判った。


「……ねえ、なんの目的でそんなことするの?」

「目的?」


 予想外の質問だったみたいで、眞輔はしばし考え込んだ。


「原付で走ることが好きだし、たぶん北海道って良い所だと思うし、あと夏休みっぽいからかな」


 アホの子の模範解答みたい。


 そこで唐突に思い出した。

 眞輔には都市の離れたお兄さんがいて、その影響でバイクに興味を持ったっていう話。


「そうそう。北海道、兄貴も踏破してるんです。どんな景色を見たんだろうって、俺もそれを自分の目で見てみたくて」


 つくづく、ブラコンなのねえと言うと、眞輔はブラブラと手首を振った。

 すごく恥ずかしそうだったけど、私にはとても誇らしいことだって思えた。

 たとえ誰かの影響だとでも、試したいと思えるものがあって、臆することなく前に踏み出そうとしてる。

 そんな眩しい彼を見るほどに私の胸はときめいてしまって、その一方で、自分への劣等感に押し潰されそう。


 なんにもない私はやっぱり、この子の隣は似合わないのかな……。



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