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私たちは18歳の女の子



 長く苦しい期末テストを終えれば待ちに待った夏休みが始まる。

 手始めに何をしようかってなると、とりあえず集まって呑むというのが大学生のセオリー。


 去年は試験日程の最終日にサークルでテスト明けコンパなる飲み会が催されて、私も名都(なつ)も揃って参加したのだった。

 居酒屋でしこたま呑んで騒いで、二次会として近くの子のアパートに場所を移し、残った4,5人で朝までチビチビと飲み直す。

 そこでの話題はサークル内の恋愛事情とか、夏休みにどんなことをやろうとか。


 大学生の夏休みって、本当に長い。

 7月の初めから8月末まで2ヶ月間も続くっていうのは、私たちの学校が特殊な3学期制だからというのもあるんだろうけど。


『俺は地元に帰って長期バイトやら免許教習やら。ほぼほぼ埋まってるな』


 同期生の中辻(なかつじ)(よう)、通称〝代行〟は既に休暇の予定をぎっしり詰めているようだった。


『つまんないな。もっと遊び呆けなよ。海や花火大会でナンパとか、やることはいくらでもあるでしょ?』


 悪酔いした名都がウザ絡みをした。


『ひと夏のアバンチュールを楽しんでこい、健全な男子学生』


 バシンと豪快に代行の背中を叩く。


『そういう名都は何をやるんだよ』

『そりゃもう、夏らしいことなら全部』

『お前の思う夏らしいことって、具体的に何?』


 そう言われてしばらく思案した名都は、やがて閃いたように悪巧みの顔をした。


『業務用のアイスあるでしょ。2リットルの箱型容器にバニラアイスが詰まってる』

『掬って別売りのコーンに乗せるタイプの?』

『あれをひと箱膝に抱えて、スプーンでひとり食い』


 実家暮らしの頃に抑圧されてきた欲望を思う存分実現できるというのが一人暮らしの醍醐味だろう。

 それが如実に現れるもののひとつが、暴飲暴食。


『3本入りの串団子も、特用ポテチも、兄弟で分け合わなくたっていいんだぜ。夢みたいだよなぁ』


 そんな話題はいくらでも溢れ出して、私たちは夢中になって各々が胸中に秘める背徳行為について語り合うのだった。


 朝方に解散して、どうにも眠気が限界だった私は近場の名都の部屋で休ませてもらった。

 2人して目が覚めたのはその日の昼過ぎ。

 グダグダな夏休み初日だ。

 ひとまず腹ごしらえをするかって、外に食べに出ることにした。


 この頃名都は伯母の知人から安く譲ってもらったという型落ちの軽を持っていた。

 一応免許はあるけどペーパードライバー貸していて、感覚を取り戻すようにソロソロ運転してたのがおかしかった。


 近くのハンバーガーチェーンでのドライブスルー。

 商品の入りの紙袋を受け取ると車内に油の匂いが充満して、窓を開けたままにして走った。

 速度に乗って乾いた夏の空気が流れ込む。


 むくむくとした質感の入道雲。

 白と灰の濃淡が立体感を際立たせて、どこまでも青い空に堂々と浮かんでいる。

 その下には伸び伸びと葉を長くした稲の草原。


 開けた風景の中で、寄り添った数本の高木が群れからはぐれたようにポツンと佇んでいるのが見えた。

 目の眩むような日射を浴びてさわさわと気持ちよさそうに枝葉を揺らす、その姿がひどくノスタルジーを呼び起こした。


『このままどこかに行っちゃおうか』


 私たちを縛るものは何もなかった。

 私たちは夏休みで、大学生で、18歳の女の子。

 この解放感の中でどこへでも行ける気がした。


『どこに行こう?』

『夏らしいところと言えば?』

『……サンシャインビーチ』


 呆れるくらい広大な田園を横目に、私たちを乗せた軽は走り続ける。

 18年のあいだで最高の夏休み初日だと思った。



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