抗う術などないのだと
私にとって名都は爽やかに吹き抜ける風だった。
自由気ままに揺れる姿に思わず一緒に回ってしまいたくなって、サアッと流れて消えたあとも周囲にぼんやりとくすぶる何かを残していく。
騒がしい余韻を濁らせる薫風。
そんな中に埋もれて、胸の奥にさりげなくも確かな不協和音を響かせていた。
そういう匂いをも孕んでいたんだっていうことに、私はいつの時点で気付いたんだろう。
私は昔からぐずぐずした人間だった。
教室の中で不格好にも輪を紡いでいく子たちを他人事のように眺めていて、気が付けばもう入りそびれている。
ややあって溶け込み始める頃には年が変わってクラス替え。
常に後手だらけの学生生活だった。
息苦しかった。
心底嫌気がさしていた。
だからこの大学へ来て足枷を外されたような気がした。
今だってほら、空き時間を使ってまるで放し飼いのようにお気楽な徘徊。
誰々のグループに、狭間に、なんてポジション取りを考える必要はない。
去年の春、映画研究部の新歓に名都が来なければどうなっていただろう。
私は惰性で入部したのかな。
それもすぐに行かなくなったんだろう。
名都がいて、バドミントンサークルというコミュニティにささやかな居場所があって、それだけで私には十分だった。
十分だったのに。
そんなことを考えていたからだろうか、遠くからガヤガヤと集団が向かってくる声を聞いて、この道をジョギングの周回コースに利用する運動部が多いことを思いだした。
そして、今まさに近づいてくるのがバドサークルの面々かもしれないと思い至った。
私はとっさに茂みの中に身を隠していた。
どうして?
ただ普通にしてすれ違えばいい。
見知った顔があれば会釈なり手を上げるなりして、何食わぬ顔でいればいい。
それだけのことなのに、それがあまりにも難しいことに思えるのは、私の中にある後ろめたさのせいだろう。
予想は的中した。
視界に現れた一団の先頭にいたのは保科さん。
この前会ったときと同様にメガネを外して、髪を後ろでひとつにまとめている。
白色のジャージに身を包むすっきりとした出で立ちは健康的な女性を思わせた。
時折後ろを振り返って、新入部員らしい子たちに気遣うように声を掛けている。
彼女たちは一定のペースを保ちながら私に気付くことなく道路を渡り、視界の先に消えていった。
無自覚に息を止めていたようで、おそるおそる空気を吸い込む。
屈んでいた態勢を立て直すときに膝がぼきっと鳴って、私、走らなくなってからもう随分と経つなって、運動不足を痛感する。
「保科さん、先輩だったな……」
もしまだ私があのサークルにいたなら、私も先輩になっていた。
与えられて楽しんでいただけだったときと違い、何かに責任を負って、何かを与えられる存在になっていたかもしれない。
私、そういう経験をしないまま、このまま大学生を終えてしまうんだろうか。
列島に滞留する梅雨雲の中に垣間現れた晴れの日。
その日差しの強さは一丁前で、着実に夏が近づいていると感じさせる。
私の気分などお構いなしに季節は進んでいくのだと、それに抗う術などないのだと思い知らせるみたいに。




