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極めるということとは違う



 スーパーに着いたのは閉店時間の少し手前。

 店内には数人のお客さんがいるだけで、広い売り場はガランとしていて寂し気だ。


 野菜コーナーから始まって、鮮魚コーナーくらいまでは一緒に歩いたかな。

 でもその先は思い思いの場所をブラついて、しばし個人行動。

 ひととおり物色し終えて眞輔と合流したのは和菓子とか菓子パンが置いてあるエリアだった。


「日本拳法?」


 眞輔の入ろうとしている部活。

 彼のガッシリした体型は確かに拳法ってフレーズにしっくりくる。

 でも数あるスポーツの中で武術っていうのはちょっと変化球だよね。


「去年まで学外のジムに通って、格闘技を習ってたんです」


 なるほどって、それで合点がいく。

 彼に感じるどことなく浮世離れしたような、落ち着いた雰囲気の正体にも。


「俺、兄がいるんですけどね。兄貴も昔やってて、いろいろ鍛えてもらったんですよ」

「ふうん。年、何歳差?」

「7つ。いや、6つだったな」


 心なしか、照れたような横顔。


「兄貴はバイクにも乗っててね。いつも休日はふらっとどこかへ走りに行っちゃって。そんなに楽しいもんかと思って、俺も入学前に免許取りました」


 よほどのブラコンみたいだね。

 でもだからって、さっそく百キロもの大移動を実行しちゃうなんてスケール感がおかしいよ。

 この様子だとお兄さんも同じように無鉄砲な人なんだろうな。


 雑談しながら陳列棚を見回っていると、最近私のお気に入りのプリンデザートが目に入った。

 濃厚なカスタード生地の上に生クリームとカラメルソースが惜しみなく乗っていて、しかもその中に味付き白玉が潜っているという贅沢仕様。

 得意げになって教えてやった。


「これ、私のオススメリストのトップ3に入るよ。絶品だから食べてみてよね」

「高いなぁ。大して量もないくせに」

「スイーツってのはね、コスパじゃなく満足度を求めるものなのよ」

「俺は高カロリーならなんだって満足するんだけどな」


 こうしてワイワイ戯れていると周りにはカップルに見えるのかもね。

 そんなことを思って、こういう想像をするのは相手に失礼なんだろうと、人知れず自分を戒める。


 眞輔の短く刈り上げた髪と幼さの残る優しげな顔立ちは、きっと胴着姿に似合うのだろう。

 どこかマイペースで人懐こい性格は同世代の女子から大層モテるに違いない。

 ましてやここは恋をしたい盛りの若者が集う大学なのだから。


 これからの彼にとって青春というものの舞台、学生生活のメインとなる場は、おそらく部活動にある。

 それは拳法を極めるということとは違う。

 同じものに興味を持つ人で集まり、同じものに取り組みながら気持ちを共有する。

 そういうことに時間を費やすことがきっと青春なんだろう。


 かつての私がそうであったように。


 店内のBGMが〝蛍の光〟に切り替わって、思いのほか音量も大きくなった気がする。

 この曲、ご存知?

 もうレジを閉めたいからさっさと会計済ませちゃってって、お店側の暗黙の主張ソング。


 この曲を聞くと妙にハラハラしちゃうんだけど、そんな私の焦燥を知ってか知らずか、眞輔は変わらない調子で、


「付き合わせた詫びにジュース一本奢りますよ」


 なんて。


 じゃあコレ、って、冗談交じりに二リットルペットボトルのコーラを指差した。


「そんなんだから、体重百キロ超えてるんでしょ」

「はあ? その半分もないわよ」


 とっさにそう切り返しながらも、そういえば先月受けた健康診断の結果がそろそろ返される頃だなって。

 唐突な体重イジりはちょっと焦るから、勘弁してほしい。



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