表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/80

もう、どうでもいいんだって



 そのまま夕方過ぎまで学食に残って無駄話をして、茉以と別れたあとの私はひとりPC室へ向かった。

 何十台ものパソコンが整然と並べられているだけの殺風景な部屋。

 24時間開放で学生ならいつでも出入り自由というのは使い勝手がいいけど、飲食もお喋りも厳禁という殺伐とした空気は少し重たい。


 入室すると数人の学生がいて、レポートでも書いているのか、皆が黙々と作業をしている。

 お勤めご苦労様ですって、邪魔にならないよう気配を消して隅っこの席に腰掛ける。


 ここへ来たのには目的があったからだけど、なんとなくすぐに手を付ける気にはならなくて、とりあえずブラウザを立ち上げてみる。

 行きつけの動画サイトへ跳んで気になっていた邦楽のPVを検索したりしていると、画面の右端にオススメの動画サムネイルがずらっと並んで、そのどれもが気になって止まらない。


 こういうのって、ほんと時間泥棒。

 グダグダとサーフィンしているだけでいつの間にか時刻は20時。

 気付けばはやくも部屋には私しか残っていない。


 ふっと短く息を吐いて、ようやく本来の目的に立ち戻る。

 学内のサイトを開き、〝各種申請書〟というリンクを踏む。

 一覧からお目当ての書式を探し出すと、PDFファイルを開いて印刷ボタンを押す。

 次いで私は立ち上がり、部屋の対面に置かれた数台のプリンターの元へ。

 学生証を機械にかざすとカードに埋め込まれたチップが読み取られて、あとは勝手に印刷が始まってくれる。


 一枚のコピー紙が吐き出されて、そこには〝退部届〟の文字。

 たったこれだけのことに、なぜこれほど時間を掛けたのか。



 エントランスに差し掛かると、曇天だったはずの空が雨模様に逆戻りしているのが見えた。

 しかも雨脚は今朝より激しくなっているみたい。


 しまった、まだ傘を買っていなかったと気付いて、視界の端には傘立てと数本の取り残されたビニール傘。


 借りてしまおうか。

 そんな囁きが頭に響いて、思わず手を伸ばしそうになる。


『そうやって世界は回ってるんだよ』


 傘が無いのは私のせいじゃないし、雨にだって濡れたくはないんだから、私は別の傘を盗るの。

 すると私に盗られた人はまた別のを盗って。

 まるでバトンだね。


 いつもどこかで誰かがほんの少しの横着を働いて、そうやって世界中が繋がっていく。

 だから後ろめたく思うことなんてない。

 名都(なつ)ならそんな壮大めいた台詞で誤魔化して、躊躇なく傘を抜き取るんだろう。



 ――――去年の5月13日は金曜だった。

 だからジェイソン祭りだねって。


 〝13日の金曜日〟というタイトルのホラー洋画を知ってるだろうか。

 ホッケーマスクを被った怪人が調子こいた若者たちを次々と惨殺していくって、スプラッター映画の金字塔みたいな作品。

 その題名を示す日付けと曜日の重なりを祝して、レンタルビデオ店で無名のホラー映画を三本借り、名都と部屋にこもって朝まで耐久観賞会と洒落込んだ。


 この手の映画は定石のパターンがあって、まず主人公側は大人数の男女混成グループ。

 人物ごとに明瞭なキャラ付けがされていて、それがあの手この手で一人ずつ、凄惨な見せ場を披露しながら殺されていく。


 これがとても理にかなった構成で。

 というのも人が死ぬっていうのはホラー的に盛り上がる場面なわけで、それが定期的に挿入されるのだから、よほどストーリーが破綻してない限り観ていて退屈することは稀だ。


 本筋からは外れるのだろうけど、私は特に極限状態の中で育まれる友情とか恋愛とか、そんな付け足し程度の青春要素も楽しみだった。

 安っぽいホラーものの中にも意外にも良質なほろ(あま)シーンが隠れていたりするものなのだ。


 観ていて思わず胸がキュンとくる展開があって、こんなロマンス、いいなぁって呟いたら、隣でそれを聞いた名都がバカ笑いをした。


『ホラー映画のような恋をしたいって……!』


 ひとしきり笑ったあとで、どちらともなく、私たちでB級映画専門のサークルでも立ち上げようよって話になった。

 でもネットで軽く調べてみると、どうやらこの大学には既にそういう同好会があるらしい。


 じゃあやめた、で、その会に顔を出してみようという流れにならなかったあたり、詰まるところ私も名都も好きなことを好きなようにやりたかっただけなんだろう。


 そんな私たちがなぜバドミントンサークルに入ったのか。理由はもう覚えていない――――。



 置かれたままの傘。私が手に取ることで誰かが困るのかもしれない。

 そう思うとやっぱり持ち出せなくて、結局雨に打たれながら帰路を急ぐ。


 背負ったバッグに雨水が染み込むのを感じて、せっかくプリントした退部届の用紙が濡れてしまうかと気になったけど、途中からはもうどうでもよくなった。


 グショグショの髪、服、靴。もう、どうでもいいんだって。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ