青い瞳
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扉を開けて中に案内してくれたビリーの体格は護衛のようにも見えたが、彼の服装は文官のそれだ。秘書的な立ち位置なのかとルークは考える。
案内されているのはどこもかしこも白い空間だ。壁や天井、床も白、調度品も白という白で統一された部屋だ。何が言いたいかというと、汚したら絶対にまずそうということだ。あと、とても部屋が広い。
十人ほどが一緒にディナーを取れそうな大きなテーブルまで案内されると、座って待つように指示された。
しばらくしてビリーから紅茶が出されたが、こんな真っ白い状況で紅茶を飲める気分ではない。こぼしたら絶対にマズイ。この下の絨毯など汚したらどれだけお金が飛ぶだろうか。
ビリーは壁際に控えたまま、一言も口を利かない。宰相は入口までで帰ってしまったし、部屋を沈黙が支配する。
ルークはビリーをちょっと観察した。彼は大柄で肌は日によく焼けている。騎士服を着たら騎士と言われても違和感はない。王宮では王様たちはそもそも外に長時間いないのか日に焼けていない肌だったし、引きこもりだとウワサの王子もユーティミスもまったく日に焼けていない真っ白な肌だった。ユーティミスは高位貴族だからもしかしたら手入れをめちゃくちゃしているのかもしれない。
ぽけーとそんなことを考えながら手元の紅茶に目を落とす。さすがにカップまで白ではなかった。ただ、カップが金色というのもどうなのだろうか。これってまさか金箔を使っているとかそんなことないよね?
ルークが高そうな調度品や部屋の雰囲気にただただ居心地悪くしていると、壁が開いた。
間違えた。壁が開いたように見えたが、そこは扉だったようだ。長髪の男性が軽い足取りで入ってくる。
「お待たせ~。よく来たね」
紅茶の香りをかき消し、部屋にぶわっと香水が香る。この香水、確かやたら高いお店の香水だ。なぜ知っているかというと客の一人に使っている人がいるからだ。目薬よりも小さい瓶に入っているのにお値段は万能薬なのかと思うほど高い。
そして部屋と同じ白い服装。しれっと「ビリオネア」のマークがついている。「ビリオネア」というのは超富裕層向けの服のブランドだ。ウワサでは店に入ると、客は座ったまま飲み物を飲みながら優雅にお買い物ができるらしい。ルークには一生縁がなさそうな店だ。
あとは絶対に水たまりや泥など踏んだことがなさそうな鈍く茶色に輝く靴。
ルークはここまでで瞬時に判断した。この人、おそらく御使い様は超金持ちである、と。
いつもの癖で他人の持ち物チェックを終えたところで、相手と目が合った。
その瞬間、この人は金持ちだろうという邪な考えは飛んだ。
その人の目は、今まで見てきたどの青よりも青かった。こんなに真っ青な目の人をルークは初めて見た。まるで透明度の高い海に投げ込まれたように、どこまでも澄み渡る青。
全てを見透かすような色だった。
「君がルークくんやね。ま、楽にして座って」
いつの間にか立ち上がっていたらしいルークは慌てて腰を下ろす。
相手もウェーブした濃いブラウンの髪を楽しそうに揺らしてルークの向かいに腰かけた。男性にしては髪が長い。腰の手前まで髪が届いている。
それにしても、この人さっきから訛っていないか?