腕が落ちるのは嫌だよね
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隣に座っていたユーティミスが御使い様のところに連れられて行くのを横目で見て、ルークはそっと息を吐いた。
隣から何となく感じる同情を含んだ視線を浴び続けるのはキツかった。
ルークはメルヘンな男子ではないので、この状況で浮かれるほどおめでたくはないのだ。
宰相は急ぎの仕事があるのかユーティミスの先導を他に任せ、文官に指示を飛ばしている。
ルークはふと目の前を行き来する文官の一人が気になった。その文官は歩き方がちょっとおかしかった。
「足どうかされたんですか?」
ルークは話しかけていいのか迷いつつも、その文官が急いでいない様子なのを見て声をかけた。
「え? あぁ、私はドジでよく足を挫いてしまうんですよ。1ヵ月以上前にこちらの足を挫いたんですが、まだなんだか歩きにくくて」
「それは折れてるんじゃないか?」
話を聞いていると他の文官も話に入ってきた。
「ちょっと見てもいいですか?」
文官たちは顔を見合わせたが、ルークの職業を思い出したらしく頷いてくれた。
「腫れがないので折れてはいないと思います。ただ、僕は医師ではないので不安だったら医師に診てもらった方が良いでしょう。ただ、捻挫した方の足を固めて庇って歩いていたので、筋肉が固まってますね。だからまだ歩きにくいんです」
「なるほど。そういえば、朝ベッドから下りる時が一番痛いなって思います」
「階段を下りるときも痛くないですか? つま先から先に地面につけている動作が痛いんじゃないかなと」
「あ、確かに階段下りる時も痛いです! 上がる時は全然」
「踵から地面につける様にすると痛みはかなり違いますよ」
「ほんとだ!」
文官はその場でつま先から下ろしたり、踵から下ろしたりして動作を確認している。
「あとは挫いた足の筋力が落ちていますね。こちらの足の方が細いです。さらに、挫くと体のバランスも崩れるので挫き癖がつきやすくなります。足のストレッチをして筋力を戻していくといいですよ」
ルークは興味を持ったらしい文官二人に簡単なストレッチを教える。
「うわ、ちょっと足の甲が痛い」
「じゃあちょっと角度を変えてみましょう。そうそう。ちょっとつま先を下ろして引っかけてみましょう」
「このあたりなら痛くないかな」
「無理しない範囲がいいですよ」
「スクワットとかしないといけないのかと思ってたけど、これならやりやすいな」
「あはは、スクワットもした方がいいんですけどね」
少し雑談をした後、彼らは仕事に戻っていく。
「じゃあ、次は君の番だよ。行こうか」
指示や確認を一通り終えた宰相がルークの側に立っていた。彼に付き従って城の奥へと歩いていく。
「すみません。お待たせしてしまいましたか?」
「いや、待ってはいない。部下の健康状態に気を配ってくれてありがとう」
「職業病のようなものです」
「選定の期間、店をできないのは辛いかな?」
「店というかマッサージの腕が落ちないか心配で。感覚が鈍ってしまいますから。さすがにお城にこれまでのお客さんを呼ぶわけにもいきません」
「ふむ、それもそうだな。文官たちも肩こり・腰痛持ちが多いし、騎士団では捻挫などもしょっちゅうだ。もし君さえ良ければそういった者達にマッサージをしてもらうのもいいかもしれないな。それに、君の店には常連客がいたわけだ。急に店が閉まると常連客達も困るだろう。うーん、だが城に一般人がホイホイ入れるのも問題だな。何か考えておこう。出張もいいかもしれんが警備がな。また騒ぎになるのも……」
「あ、ありがとうございます」
最後の方はブツブツ独り言のように考え込む宰相にルークは慌てて礼を述べた。それにしても廊下が長い。どこまで続くのだろうか。
「御使い様は城にいらっしゃるんですか? 神殿に行くのかと思っていました」
「御使い様は神殿と仲が悪いからな。まぁ今の神殿は違う神を信仰していると思ってもいい」
「えぇ!?」
「まぁこの話は追々だな。そろそろだ」
長く廊下を歩いてきたが、人気がないわりに寂れた様子もなく掃除も隅々まで行き届いている。
「あちらだ」
扉一つない廊下を歩いてきてやっと奥に扉が見えた。宰相がノックすると、すぐに扉が開いて大柄な男性が出てくる。
「ビリー。三人目の候補者のルークだ。後はよろしく頼むよ」