ユーティミスはため息を吐きたい
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ユーティミスは深呼吸だと誤魔化せるように小さくため息を吐いた。
なにが「最高の伴侶」だ。くそくらえと言いたい。
現在の国王は最高の伴侶を得たとか、真実の結婚だとか言われているが。
幼い頃から相思相愛で婚約していた令嬢を捨ててまで今の王妃を選んだ国王の、どこが真実の結婚なのだろうか。
それに、真実の結婚なら何で息子があんななんだとユーティミスは思う。
さっきまで隣のイスに座っていた第一王子アドリアンは筋金入りの引きこもりだ。国王夫妻が必死に隠していても、人の口には戸が立てられない。だって王子のお世話は全て使用人がやるのだから。
ユーティミスが城の廊下を歩いていると噂話はよく手に入る。
「またアドリアン殿下は野菜を残してお肉ばかり召し上がるわ」
「この前掃除に入ったらいかがわしい本がベッドの下から出てきたの。誰に買いに行かせているのかしら。だってご本人は部屋から出ないのに」
「運動されないけどよく召し上がるから服のサイズが大きくなるばかりだわ。また採寸しないと……」
「国王選定の儀の候補者に殿下が選ばれたって……他の方が国王になったら殿下は城にはいられないでしょう? どうするのかしら」
「羨ましいわ。私も税金を使ってもらって働かない生活がしたいわ」
こんな感じで不平・不満・噂は集まる。
不平・不満の根本といえば、アドリアン王子に使われるお金が税金だからだ。現在の国王も王妃も華美すぎることはないが贅沢は好きだ。ポケットマネーは残らないので、息子には適当な名目をつけて給料を出している。王子がちょっとでも仕事をしていれば、ここまで不平・不満は出ないのではないだろうか。
引きこもり始めて最初の頃は文官が仕事を持って行っていたが、王子があまりに仕事をしないので持って行くのがムダということになってしまった。
ユーティミスが最高の伴侶だの真実の結婚だのに興味を持てないのは、家族も大いに関係している。
ユーティミスの曾祖父は国王選定の儀の候補者に選ばれていた。しかし、曾祖父の連れて行った相手は最高の伴侶ではなかった。選定の儀の翌日、曾祖父の恋人は贈られた装飾品を持って消えていた。
ユーティミスとしては「曾祖父の女を見る目がなかっただけでは?」と思うのだが、曾祖父はそこから「愛よりも金」という思想に走ってしまった。よほど選定の儀に連れて行った恋人のことを好きだったのだろう。その恋人が同じように曾祖父を好きではなかっただけで。
おかげでオルグレン家の家訓はいまだに「愛よりも金」である。オルグレン家の者達は強力な人脈や権力、多大な資産を持つ相手と結婚を繰り返し……そのおかげでオルグレン家の領地は国内でトップの豊かさを誇り、領民達のところにはいつでも最新の道具が揃っている。
ユーティミスの姉は他国の貴族の元へ嫁いでいった。明らかにその貴族の領地にある金山目当ての結婚だった。
恋愛結婚が主流の中で、明らかに金のための結婚をしているオルグレン家は権力欲と強欲の権化と呼ばれているのだ。そんな家庭で育った自分に「最高の伴侶」を見つけてこいと言われても。ため息どころか舌打ちもしたくなるというものだ。
ユーティミスが候補者に選ばれてオルグレン家ではお祭り騒ぎだ。
だって他の候補者は引きこもりの第一王子と、選定の儀について知識がなかったくらいの平民なのだ。父など「ユーティミスに決まったも同然。今こそ以前の当主の無念を晴らす時!」と高い酒を空けていた。
選定の儀の候補者に平民が選ばれるのは非常に珍しい。大抵、貴族が選ばれるのだ。
ピンク髪の男爵令息が候補者に選ばれ、魅了魔法を使って王都の大半の女性を魅了して大問題になったのは2代前の国王選定の儀だっただろうか。他にも異世界からやってきた異世界人が候補者になった事もある。
ユーティミスはそんな事を思い出しながら、右も左も分からない状態で選定の儀の候補者に選ばれてしまったルークにほんの少し同情していた。