宰相のありがたいお話
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「わが国では神の教えの通り、国王でも貴族でも恋愛結婚が主流です。伴侶や家庭を大切にできない者に国を富ませることはできません。家庭は最小サイズの国家なのです。その最小サイズの国家さえうまくいかない者に国を任せるわけにはいきません。そのための国王選定の儀です」
昨日と同じだだっ広い部屋にまた三人で集められ、宰相の話を聞く。この話をする宰相は得意げだ。
「候補者の中で最高の伴侶を見つけた者が国王になります。最高の伴侶とはすなわち、自身の半身で運命の相手。一年後、自身にとっての最高の伴侶とともにまたここに集まって頂きます。最高の伴侶かどうかは御使い様のお部屋に置いてある鏡で分かります。ここまで質問はありますか?」
第一王子アドリアンは話を聞いているのかいないのか……暗い様子で爪を噛んでいる。ユーティミスは背筋をシャンと伸ばしたまま首を横に振った。
「あのぅ……最高の伴侶はみなさんどのように見つけるのでしょうか?」
ルークは恐る恐る質問する。
「ルークくんだったね。分からないことはどんどん質問して欲しい。最高の伴侶かどうかは……そうだな……一番多いのは会った時に片方は分かるそうだよ。もう片方は分からないそうだ」
「そうなんですか……」
「私は妻と会った時に何も感じなかったが、妻は分かったそうだよ。私が運命の相手だと。それで逆プロポーズを五回されて全て断った時に私も思い出したんだ。彼女は私の運命の相手だと」
眼鏡と黒髪でクールに見える宰相の怜悧な瞳が嬉しそうに細められる。
「えっと、宰相様も選定の儀に参加されたんですか?」
「あぁ。私と現在の国王陛下ともう三人ほど候補がいた。私は期限までに最高の伴侶を見つけられなかった。彼女を……いや自分を信じ切れなくてね、彼女の逆プロポーズを断っている最中だったのさ」
宰相は妻のことを話す時は雰囲気が柔らかくなる。
「すみません。連れてきた相手が最高の伴侶ではない場合もあるんですか?」
「ある。よくある。期限までに見つけられず焦って異性を連れてくる者もいるし、贅沢をしたいという邪な気持ちだけで伴侶だと偽って近づいてきた異性に騙される者もいる。本当の伴侶と出会いたいと思っているかどうか。結局は自分次第だよ。会いたいと思っていれば必ず出会える」
分かったような分からないような。ルークの質問はひとまずなくなったので頷いて同意を示す。
「出会いの場はこちらでも用意している。城で定期的に夜会を開催するし、広場でイベントもやる。もし旅に出て探したいなら馬車や資金も手配しよう。まぁこれまでの候補者達は全員王都で出会っているが。質問があればいつでも私のところに来て欲しい。使用人達に声をかけてくれれば私の執務室まで連れてきてくれるだろう。ひとまずこれからは候補者達に、順番に御使い様に会ってもらう。御使い様に分からないことを質問しても大丈夫だ。御使い様といっても大変気さくな方なんだ。マナーが悪ければ首を刎ねるなどということはないので安心してほしい」
宰相はパンパンと手を叩くと、第一王子アドリアンを連れて部屋から出て行ってしまった。