お城にやってきた!
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馬車に揺られ、城で下りた後しばらく歩いて到着したのはとても豪華な部屋だった。
百人は余裕で入るほど広い。天井は高く、見上げると天使やらペガサスやら神々しい絵が描かれている。
視線を戻すと、豪華なイスが三脚並べられていた。
すでに左端のイスには一人腰かけているが、その人物は猫背で贅肉がイスからはみ出していた。つまり、太っている。しかし着ている服はルークより格段に上等だ。
先導してくれた騎士はルークに右端のイスに座るよう促すと、その騎士は中央のイスに座った。
体がイスに沈み込むのを感じながらルークは所在なくチラチラと横の二人を窺った。
左端の男性は何やら暗い様子で独り言をつぶやいているので早々に視界から外した。ルークを迎えに来てくれた細身の騎士はしっかり背筋を伸ばしてイスに座っている。
それにしてもこの三人だけならもっと狭い部屋でも良かったんじゃないだろうか……。
そんな雑念だらけの思考の中、ラッパの音が響いた。大きな扉が開いて男女が入ってくる。王冠やらマントを着けているので国王陛下と王妃殿下だろう。
「さて、候補者が揃ったようだな」
王妃はゆったりした動作で腰かけ、国王は興味深そうに候補者一人一人に視線をやった。
「我が息子アドリアン、オルグレン公爵家のユーティミス、そしてルーク。君達は国王選定の儀の候補者として御使い様によって選ばれた。私の様に最高の伴侶を見つけた者が次期国王となる。期限は今から一年だ」
どうも左端の太った男性は王子様だったようだ。ルークは顔を動かさず視線だけで左を見る。この国王も最高の伴侶を見つけて国王になったのに、子供がコレってどういうことなんだ? 国王と王妃は幸せそうだが、子供は明らかに幸せそうじゃないのは一体どういうことだろう?
ルークはマッサージをしながらおばちゃん達の愚痴を延々聞いてきている。外面は良く、外では仲良く見せていても、家では口もきかない、あるいは怒鳴り合いをする夫婦がたくさんいるということをルークは知っている。まさか最高の伴侶って言ってるのにそういうことはないよな?
そして、嫌でも視界に映って目を惹く輝く細身の騎士。貴族事情に疎い平民でも知らない者はいないだろう、権力欲と強欲の権化と呼ばれるオルグレン公爵家。
なんでこの人たちに混じって僕が候補者なんて選ばれちゃったのかなぁ……ルークはため息をつきそうになるのを、空気を読んで頑張ってこらえる。
国王の話はうんたらかんたら続いていた。どうやら国王選定の儀の期間は、国から給料をもらえるようだ。城に部屋も用意してもらえるという好待遇。選定というか伴侶探しに集中しろということだ。
「今夜から部屋は用意させよう。選定について細かいことは明日、宰相から話を聞いてくれ。じゃあ三人とも頑張ってくれたまえ」
国王は長いこと喋って満足したように王妃と退場した。
慣例かもしれないが、こんな仕事帰りに急に呼び出すより明日呼び出した方が効率的では?と思わなくもない。まぁ国王と王妃をこんな近距離で見ることができる機会なんて平民にはないから、自慢にはなる。おばちゃんたちに土産話ができるなぁ。
「君」
「はい?」
国王の背中をぼんやり見送って、大きな扉が閉まるのを見ていると横から声がかかる。
「明日からはきっと大変なことになるから今日から城に泊まった方が良い」
迎えに来てくれた美形騎士ユーティミス・オルグレンがルークに話しかけていた。アドリアン王子の座っていたイスにはもう誰もいない。意外と素早いようだ。
「ええっと、でも洗濯も店の掃除もできてませんし。服も持ってきていないのでいったん帰ります」
「服などは城で用意してもらえるはずだ。荷物も必要なものは取りに行かせることもできる」
ユーティミスは無表情だが、気遣ってくれているのだろうか。美形は無表情でも美形である。むしろ迫力があって怖い。
「店を休業にするとか……何の貼り紙もしていませんし……やっぱりいったん帰らないと落ち着かないと言いますか……国王選定の儀と言ってもよく分かりませんから」
「そうか、分かった。店までは送らせよう。ではまた明日」
ユーティミスは騎士を呼んでルークを託すと、きびきびと広間を出て行った。
この時、ルークは国王選定の儀について軽く考えていた。翌日、それがよく分かることになる。