黒、動く
何やってんの02
というサブタイトルでもよかったもしれない。
でも多分蛇と義弟が出てくるのはこの話くらいなので。
匡角に保護された瑠華は早速あいうえおの表や店のお品書きをお手本に読み書きと算術を、麗華の女官たちが行っていたのを視ていたので要領よく会得した。
刺繍や華道も蓮華から花丸を貰い受け、むしろ閃華の先生役である。
「……じ、自分は刺繍とか細かいものは…」
「破邪の意味をもつ刺繍とかはどうですか?武人の人にも馴染みのある刺繍のはずです」
「そうよ閃華ちゃん、昂角帝の鬼紋とか、それぐらいは縫えるようになりましょうね」
「はい…」
むしろ閃華の行儀習いのような護衛任務に嬉しい誤算だと灸角や楼閣も喜んだ。
彼女は戦鬼という戦いに特化した鬼人の家に生まれた鬼女である。
故に三つの頃から大岩でお手玉をしては森を駆けまわり、川に住み着いていた白い大蛇をギャン泣きさせては長生きしている親戚の灸角の手を焼かせていた。四角の紅を手にいれ将鬼に名を連ねるのも、翡翠の双子より早かった。
「「あの閃華がお淑やかしてる…っ!」」
「でも作品はどれも何処か勇ましいのよね…」
「閃華さんらしくていいと思います」
「私だってこれぐらい出来るのです!」
何処か誇らしげに紅の角持つ鬼女は胸を張るが、得意な料理も自分で狩った牡丹鍋。
とても美味しく、酒に合う。
因みに瑠華はまだ幼いので店長と糠漬けを頑張っている。
「米を炊くのもまだ不安があってな~お前らも、何歳ぐらいから火を取り扱ってもいいと思う?」
「鬼火があるとしてもな~…せめて十歳…か?」
「針仕事はともかく火はなぁ……」
そうやって手習いの傍ら、鬼術も正しく皆で教えた。
「鬼術に欠かせないのが鬼の力、角から体中に染渡る鬼力である」
「瑠華も紫色の力があります!」
「おっし!じゃあ初歩中の初歩、鬼火を手に作ってみるぞ」
「出来ました!」
「出来てるな~因みに何個ぐらい作れる?」
千個ぐらいを出現させ、夜空で渦まかせる幼女の底知れなさ。
様子を見ていたかつての鬼帝たちも呆けてしまった。
「……一つ一つはそんな大した鬼力が込められたわけでもないんだが…」
「何あの精密な操作、引く」
「これ都の防衛陣とか一人で出来る技量だな?」
「おい見ろよ父親の奴……娘の鬼才に嬉しがってんのがわかるぜ」
「あ~…そっか楼角喜んじゃうか~」
昂角帝と党角はわかりやすく引いている。
無理もない。最上位の術師が十人がかりで維持し続けている都の護りを、瑠華は一人で賄える。
しかも意識を他に向けても支障なし。
他の術の練習に入っているのに、渦は生じたままである。
「……本物の華女と言うのはここまで凄いのか…」
「じゃあ次この灯で一杯の中隠れん坊」
瑠華の姿は消えたが、影は残った。
「……あれ?」
「まあ姿は消えてるし、練習あるのみだな…じゃあ次影鬼……ってコラ」
『「ぎゃぁ!!」』
「ふぁっ!」
影に潜り込んだ匡角の右腕から迸った鬼火が、潜んでいた何かを焼き殺した。
「はい影鬼禁止!なんか狙われてたぞ今!?」
「おい潜るぞ!今の鬼食いの何かだったら大事だ!」
「瑠華ちゃん一人で影鬼しちゃ駄目だからね!蓮華さんともお約束よ!」
「はい…」
双子と蒼の鬼人たちが影に潜り何かの悲鳴が続いたので、鬼術の練習は一旦中止となった。
「正直ここまで出来るとは俺も思ってなかった」
「宮廷には匠の皆さんがいっぱいでした」
「それを見様見真似ってか…見鬼の能力サマサマだな」
「この眼はお父様から受け継ぎました」
「うっわぁお父さん滅茶苦茶嬉しそうじゃん…顔変わってないのに」
「お前意外と分かりやすい男じゃの……」
娘限定であるが、とにかく楼閣は浮かれていた。
「下手したら防衛陣のためにとかいう名目で軟禁生活だぞ?」
一気に膨れ上がった殺意に、鬼帝はしないしないと必死に叫んだ。
ただしその気がないのは昂角と党角のみで、他の官位持ちがどう思うかは不明である。
「瑠華は少なくとも十年は隠しておく!本当だ!」
「そうじゃ楼閣!麗華のいなくなった華の宮は丁度いいので建て直す!つまり華女を迎え入れる準備を我々はしておらんのじゃ!」
「……」
「お妃様の方はいま凄い勢いで準備が進められているみたいだがな」
「……最弱帝などこっちが願い下げだとか言ってた口でさぁ…」
「あんな一撃で沈む馬鹿とか最弱でおかしくねーよ」
顔を覆った昂角帝を慰めるのは党角と灸角ぐらいで、蓮華や楼閣は凶行犯に同意していた。
「戻ったぜ店長~」
「ありゃ駄目だ、荒神の一部で瑠華の事食べたがってる」
「つーかよく店長も気付いたな」
「ああ、呪角が瑠華に持たせたお守りが反応してた」
「はああ??あの男がお守り持たせてた??」
「意味わかんない」
煮えくり返る所業しか味わった事のない楽角と蒼の鬼たちが変な顔をしたが、幼女は嬉しそうに貰ったお守りを自慢し始めた。
「勾玉です!綺麗!」
「あら~滅茶苦茶加護が込められてるじゃない」
「んも~これ下手な荒神が手を出したらメッされる奴~」
「滅される奴…」
今代の鬼帝さえ恐ろしいと震えるが、瑠華には確かに必要なお守りである。
「……党角、呪角郎とは本当に黒駄鬼なのか?」
「黒駄鬼です昂角帝……かの方は、母殺しの―」
「党角」
「しっ失礼しました初帝!!」
それ以上は匡角が許さなかった。
昂角を始めとした閃華や双子も身構えたが、お守りを衣服の中に戻した瑠華がそれでと皆に尋ねた。
「瑠華の鬼術はどうでしたか?」
「威力よりその精密性を重視し続けた方がいいな」
「戦闘より、結界術とか護りの方を重視だな」
「荒神の件もあるし」
「んだ」
そうして、瑠華の教育方針は固まった。
雛祭りには気合いの入った楼閣が立派な雛壇を買いに行こうとして周りに止められ、雪が解け一年で一番桜が咲き乱れる頃には鬼都も桜まつりで賑わいだしたので、瑠香もおめかしをして匡角たちと遊びに行った。
楽角に肩車をしてもらった際に術で紛れこんでいた呪角と目が合ったので手を振ったが、嫌な顔をされ立ち去られた。
「お兄ちゃん何か不機嫌…」
「うおぉぉ……呪角郎いたの…?」
「もう影鬼で行っちゃった……」
「……そか…」
桜ん坊を実らせながら少しだけ花を咲かせる狂い桜は、夏に少量の花をつけながら蕾を膨らませ、秋桜をまた満開にさせた後、冬には雪を積もらせる。
そうやって四季折々の姿を見せる桜と共に、瑠華は健やかに成長していった。
幼いからまだダメと言われた料理も本格的に教わり、豚の角煮や肉じゃがは店の看板料理となっていた。
「卵焼きでどうしても店長に勝てません…」
「や…五個同時に作る店長は伊達に店長やってないし…」
「んだ」
「むむ…」
「魚の煮付けとかも美味いぜ瑠華」
『おかわり』
居酒屋鬼角郎は鬼術で隠されているために客の顔ぶれは決まっている。
二代、三代、そして楽角を間に挟んで四代目の鬼帝となった蒼の三代に、幼い閃華に散々泣かされたことがあるとか言う翅のある白い大蛇。
視た事のない服を纏いたまに来る蒼い眼の吸血鬼。
顔立ちや黒髪は東洋風というらしくなんの変哲もないが、角がない。鬼人とは少し違うらしい血を糧にする鬼だと言う。店の料理を嬉々として食べているのだが。
実はこの吸血鬼、蛇や店長と同じくらい凄い事を見鬼の親子のみが知っていた。次点が呪角で、歴代鬼帝はその後ろだ。
「……皆さんは店長と何処で知り合ったのですか?」
『我?ん~、本体から零れ落ちて~流れ着いて初っ端に目があったのが匡角』
「僕も霧の中を彷徨ってたらこのお店に辿り着くね~」
「だからお酒飲んでる場合じゃなくって……ってあれ?」
『やっぱいた我!!』
『あ!出たな本体の蛇な我!』
こうやって、よくわからない常連客は少しずつ増えていく。角のない人間も、猫や犬の耳を付ける人間も。
神もよく来る。あの蛇が実はかなりの大物だと皆が知った時、閃華が幼少時元気よく振り回している過去を共有され本当に偉い奴なのがみんなで首を傾げたりもした。もはやこれも蛇足である。
あとどんちゃん騒ぎが好きなので彼がいると店が慌ただしくなる。
一番楽なのは隠れと呼ばれる一人で静かに飲む客だ。たまに親子喧嘩が勃発する蒼の三代もいるが、すごい気迫であっても最後は蓮華が張り倒して止めるので瑠華も慣れた。
お店の手伝いは、お堂にいた頃よりとても楽しい。そして瑠華はお客さんからとても可愛がられていた。
呪角の勾玉を通すために組紐を嗜んでいると聞き、新顔はやっぱり勾玉のデザインは個人のセンスが要らなくていいよねとよくわからない言葉を重ねたが、彼はとても力の籠った金の糸をくれた。
丁度昼間からやって来ていた楽角が匡角と顔を引きつらせる程度には加護が籠っているので、とても大事に編み込ませてもらっている。元は金の髪飾りとか重くて面倒だからこれにしたいと言った所、却下された在庫だとか。太もものポーチにずっと入れたまま忘れていたもので、男の力が染み込んでいるのが瑠華にも視えた。
「瑠華、自分以外にその金の糸使わせるなよ!?」
『そらそうだ、瑠華専用』
「……ありがとうございます?」
偶然出会った呪角も自分の勾玉がとんでもない組紐に通されていて兄のような顔をした。
他にも、獣人の一種だと言う楽角より輝いているような白さのある美男から、針仕事は自分も兄もそんなしないからと糸切鋏と針を何本か。
「折れても勝手に直る…女が使え」
「あら便利」
「ありがとうございます」
これにも店長と青い彼らが微妙な顔をしたが、閃華にもおすそ分けして針仕事を教え込んだ。
他にも女の子はキラキラが好きだからと新顔がくれた異世界の魔石で、発光するだけだからまだ安全だと日照石の小さなものを一つ。
、コレが凄かった。
「見鬼の瑠華ちゃんならお手本の日照石あるし、この世界の似たようなもの探せるんじゃないかな?」
「そうですね……あ、それっぽい石ありました」
昂角帝にこの話は持ち込まれ、照明石発見に繋がった。
これが文明開化の第一歩。
夜道も街頭で照らされた鬼都の街は、さらなる発展を遂げていく。
転移門と合わせ交通の発達、さらに開発された冷蔵庫による食の開拓。
『和ゴスを命じられた…これだからあの女神は……』
「姉さんが作った本なんだけど…蓮華さんわかる?」
「すぐに流行らせてみせましょう」
『うわーガチだー』
瑠華も早速補足した呪角にお披露目してみたが、服よりとある赤トカゲの皮で出来ているとか言うブーツに興味を持たれた。
「真冬に裸足だったお前ならよくわかるだろ…足怪我したら本当に不便だぞ」
何だったら自分以外は脱がせられないよう施しといて、森の中に一人で捨て置かれた時ように対策しておけと助言ももらった、十一歳。
「…」
「…店長も子供を口説く弟は知りたくないなー…」
「でも似合ってると言って欲しかった…」
「あーうん、その程度なら……」
「黒駄鬼に自分から近づくな」
父がしっかり釘を刺したが、ブーツの話はそれもそうだと思ったので楼閣も特注品を用意した。
しかし革ベルトや革靴の知識も増えた衣服は多種多様なもので溢れかえった。
蛇は文明開化の音がすると異国でもあった事を教えてくれたが、鬼都はまさにその最中。
激変する時代、少女の隠された紫の角は見破られることはなく三角に増えた。
白色で一角だけだと欺いた少女は蓮華のお手伝いで閃華の妹分として、都の端の方に溶け込んでいたので問題はなかったが、十一歳で三角持ちは滅多にいない。
この広大な鬼都でも千人に一人いるかいないか。絶対に隠し通せと、店長も口を酸っぱくして厳命した。
所で鬼都はとにかく四角に広がっている。
東西南北に他の三つの門と繋がる巨大な転移門が設置されたが、それがなければ東西の果てまで瑠華は歩いて二日かかる。
飛び都と呼ばれる北海都や西都と繋がる転移門は北と西に第四の門として設置され、さらに流通を活性させた。
全ては居酒屋鬼角郎の常連が酔っていい気分になった際、鬼人に齎した異界の知識である。
「あいつも最弱帝から文明帝か…まああの宮廷内で発言が通って転移門やら街灯を設置できた労力は凄いと思う」
「畑荒らし、街灯と監視の術で激減、よくやった」
「北と西が繋がったのもでけぇよな、見ろよこの酒、西でしか手に入らなかった奴だぜ」
「流石は異界の蛇」
『我神』
鬼術によって貿易船が空を飛べるようになるといよいよ昂角帝の采配が評価され、望まれるのは妃と世継ぎである。蒼の三代の様に、鬼帝を望める力ある子を皆が欲した。
麗華が消えて早五年。今更華女に夢を見ている訳もなく、とうとう男も意を決した。
「妃になってくれ、閃華!」
「え、私?」
悪漢をその怪力に物言わせぶん投げる姿の方が印象的だった将鬼が一人、紅の閃華。
瑠華と蓮華のおかげで刺繍は昂角帝の角と焔を掛けあわせた鬼紋が得意になった。
料理も肉料理ばかりだったが、夜食に胃への負担も少ない薬膳粥を他の将鬼達からも望まれよく作り、昂角帝も仕事を終えたあとの店で振る舞われた。凄く染渡る美味しさであった。
身分も申し分ない。親族には同じ将鬼である黄炎の灸角がいる。
そして何より、瑠華の雅楽の手習いで琴の音と共に一緒に舞う姿が美しかった。
鬼帝が惚れてくれたのには灸角たちも喜んだ。将鬼に名を連ねている彼女に婚姻の話はなしのつぶてで、身内は常に嘆いていた。
『丁度ツルギ祭りが近いぞ?そこで剣の舞をお披露目し、ウチの嫁さん凄かろう宣伝をすればいい』
「いいこと言った蛇!」
『我神』
「あらやだ衣装の準備をしなくっちゃ!」
「え?え?え?」
あれよあれよという間に閃華と昂角帝の婚姻が確定し、都は大いに賑わった。
号外もばら撒かれ、妃候補の準備をしていた父と娘を驚愕させ、しかし口を挟むのも憚られる将鬼達の後ろ盾に尻込みし。
話は順調に進んでいった。
瑠華も姉のように慕っている閃華の良縁に喜んだが、それでも店の片付けをしている時に匡角へ忠告する。
「……呪角さんとは違う動きの黒駄鬼達がいます」
「その眼は本当に便利だな…昂角の方も流石に分かってる…」
「…ツルギ祭り」
鬼人の角を、その腕の爪より鋭い剣で切り落とすことが出来ると初めてわかった日。
悪鬼、角喰い童子を初帝が斬り伏せ鬼人の太平を実現し。
兄をいまわの呪詛から庇った弟が、最初の黒駄鬼に成ってしまった日。
「よりによってあの祭り選ぶ当たりあの蛇も食えねぇな…」
「神剣…破邪の白桜……黒い人たち折りたがってます」
「色狩りの兄弟刀で今じゃ国宝…昂角が舞い手の閃華と一緒に守るだろ」
「店長がいいって神社で暴れてます」
「何やってんだ国宝…」
その日、都で一番大きな神宮で雷が大量発生していたのだが、毎年この時期になると苛立つ奉納物のいつもの癇癪だとして宮司の誰も気にしなかった。
さすがに祭り当日は快晴だったが、閃華の舞が始まるまでその国宝からは不穏な気配が漂っていた。
「去年の舞い手が酷かったもんな~」
昂角の妃候補で、箔付けのために選ばれたのがお気に召さなかったらしい。
舞の途中で自分の重さを調整すると言う「お前刀剣なのに何してんの?」という事をして祭の大舞台を台無しにしてくれた。
赤っ恥の鬼女も、候補から外れ今年はまだマシなのが選ばれるかと思ったらまた妃。
滅茶苦茶出だしから邪魔をする気しかなかったが、自分を握る手が武人のものだとわかった途端気配が変わったのを瑠華も視た。
今は自分から煌めいている。
「店長店長、もう来年も閃華さんと舞うのを夢見てます」
「白桜……」
舞台の裏から参拝者とは違う角度で見守る居酒屋の一行は、今年は大成功に終われそうな空気に安堵した。
観客も、宝剣の認める閃華の勇ましい舞いに肯定的だ。昂角など帝の席で誰よりも見惚れている。
「ダメだありゃ、ぞっこん」
「お前が言うなよ蓮華の夫が…」
「婆さんもアレやったんだよな…?」
「閃華ちゃんの方が綺麗よ~」
「んにゃ、蓮華だ」
「も~」
黒駄鬼に祭りを滅茶苦茶にされてなるものかと、店の常連も五角の輝きに宮司たちを唖然とさせた後見守っているが…祭りは問題なさそうだ。
「じゃあ行くか…侵入した黒駄鬼の元へ」
「宝物庫で、何か仕掛けてます」
大方元の場所に安置される白桜を破壊するための時限爆弾を仕込んでいるのだろうが、見鬼の瞳は見逃さない。
閃華の晴れ舞台を邪魔する無粋に容赦はいらぬと、まずは蓮華が宝物庫の扉を力任せに開けた。鉄製なのに扉はひしゃげた。
「あ!?何だ!?」
「女!?」
「いや待てあの角!五角持ちだと!?」
侵入していた黒駄鬼は皆一角だけの、大した力もない鬼人であった。蓮華が単純に首根っこを掴んで外へ放り出すのも容易い輩で、受け身も取れなかったのは気絶した。
「おいおいおい…鬼火もまともに操れねぇ雑魚じゃねーか…」
「よく忍び込めたな…」
「げぇっ五角持ち!?」
「逃げるぞ!邪魔だそこの一角持ち!」
角の数を見て選んだその青年が初帝であることも知らないらしい雑魚どもは、匡角の拳一つで容易く片付いた。
「よっわ…」
「お~い、蔵の中はまだ何も施されとらんぞ~」
「爆弾も起動前」
「侵入したばかりでした」
神社の鬼人たちに捕縛は任せさて戻るかと言った空気の中で、瑠華がふいに塀を見た。
つられて匡角も金の眼で後を追うが、塀の上でこちらを覗き込むように座っていたのは駄黒を四角も持つ殺人鬼。
「驚いた、見つかった」
「隠れ童子の独角だ!構えろ!」
「おっと」
すかさず青の三代による鬼火集中砲火が放たれたが、綺麗に避けて楽角の拳も通る前に影へ沈んだ。
「んもぅまた逃げた!」
「店長!どこ行った!?」
「完全に離脱しやがった…瑠華の眼を確認しに来ただけだろ…」
「そうね…アレをすぐに視つけたあたりかなり優秀ね…」
蓮華もそれには同意した。
気付けば隣を歩いていた女官が独角によって首をねじ切られた事もある彼女からしてみても、瑠華の彼を発見する速度は速かった。
「俺最初からあんな遠くにいた独角初めて見た…」
「こりゃ瑠華の事殺しに来るぞ店長…」
「てかその前に父親…」
「……キレるよなぁそりゃ……」
何事もなかったとしても、凶悪な黒駄鬼に娘が目を付けられた事実は覆せない。
案の定、報告され鬼力が暴発した楼角によって鬼帝も吹き飛ばされた。
解せぬと顔が言っていたが、先代たちに「いやその前に鬼帝が吹き飛ばされんなよ」という御尤もな意見を頂いた。
後に一人になったと同時、顔を覆って泣いてしまう貧弱精神。
そんな鬼帝でも名のある黒駄鬼の出現を重く捉え、何とか立ち直り戦鬼衆をかき集めるのだった。
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「いやはやどうしてなかなか……本物の華女は実に厄介!」
「ハッ!華女とはいえガキに見つかるとは!お前も腑抜けになったなぁ独角よ!」
「言うな暴角…自分もぬるま湯に浸かりすぎたと思うた所よ」
岩場の間に生じた温泉のたまり場にて、宝物庫から逃げおおせた独角は大柄な四つ角を持つ黒駄鬼と酒を飲みかわす。朱色の大きな盃で樽から直接掬い取っている豪快なことこの上ない。
呪角は一人温泉に身を浸かり、宙に球体としたお湯をさらに鬼火で熱し、徳利の酒を熱燗にしてちびちびと楽しんでいた。
「……お前ホント酒飲まねーなー……まじでその徳利だけでいいのか?」
「西からの極上品だろうに勿体無い…」
「いらん、お前らで飲め…」
「ごちで~す!」
「ありがたや…」
調子のいい事である。
しかし隠れ鬼といえばこの男とまで歴史的にも名を挙げられる独角でさえも視つけてしまった瑠華の見鬼を侮っていた。
「……俺は北海で色狩りをするが…お前らはどうする?」
「北海~?寒いからこっち残る」
「暴角に同意」
「そーかい……」
「……おい呪角?のぼせてね?」
「まだのぼせてねぇ…」
「まだ」
それから暫くして、呪角が北海都に拠点を移したと鬼都にも知れ渡り。
人の行き来が激しくなった頃。
暴角が、都の一角を半壊させた。
はいこれで一旦話を停止します。




