何やってんのホント
黒駄鬼が駄黒鬼で書かれてたらすみません。
純粋にミスです。
「僕泉鬼!」
「僕が鋼鬼!」
「「よろしくね!」」
「ヤダです。嘘つく人は父様を騙して悲しませたし瑠華を鎖につなぐ人たちなので嫌いです」
「「ごめんなさい…」」
やせ細り青白い顔をしていた瑠華は幼くとも鬼女である。
薬草たっぷりの薬膳粥や串焼きで満腹になり体力も回復し、本来の色を取り戻した角も美しく愛らしい顔でそっぽを向いて双子を撃沈させていた。
「う~ん流石儂の嫁、裁縫上手……」
「呪角が寒そうだからってくれたんですってあの上着、ほら見てこれ」
「ぼっろ」
「これで六年間生きていたとか言われちゃ、私も張り切って作り替えちゃった」
袖の方に金糸の刺繍や飾りのついていた黒い上着を改造した瑠華の服。丈の短い桜色の袴ともよく似合い、可愛らしいと思っていた他の者達も複雑な顔になる。
「……潤角帝…」
「親父………」
「祖母さんを止めろよ…」
「馬鹿野郎…出来るか」
初めての衣服とはしゃぐ瑠華に、楽角は泣き崩れた。
で、そんな店のもう一方。
長い台と調理場が対面している席の方では、昂角帝が党角と楼角の間で縮こまっていた。
対面の調理場には包丁で色々捌く最初の鬼帝。
捌かれている野菜が自分を見つめているような錯覚さえ抱く、気迫があった。
右隣も似たようなものである。
「………角を折る際には、是非私を」
「待て待て待て楼閣!極刑をさらりと出すな!」
「華女を騙り、鬼帝を欺いていただけでも十分なのでしょう?」
「黒駄鬼を宮中で野放していた事実を何としても払拭したいよなぁ党角?刑罰がはっきりした漸角の時代からそんな感じで執行されてたし」
「ぐぅ…」
匡角の主張を翁も否定できず、二人は同じ机に座る男を見た。
楼角。
漸角帝在位時から宮廷につかえる蘇芳の四角を持つ鬼人。
獄卒帝の二つ名を持つ鬼帝により罪への刑罰が確定した時代、彼は刑の執行人として何千何万もの鬼人の角を落としてきた。
鬼術の核たる角を落とした鬼人は術を失い自己回復能力も衰える。
稀に角が再生しさらに鬼力を増大させるが、目の前で豚汁を作るこの男ぐらいだ。
それほど角を刈り取られると言うのは恐ろしい行為であり、執行人は鬼人の畏怖と恐怖の象徴。同じ鬼の角を切り落とす事に、角を黒く染める者も多かった。
楼角はその執行人の中でもただ一人、黒駄鬼に堕ちる事も心を病むこともなく生き残った。
氷の様に凍てついた感情が揺れ動くことはなく、常に見鬼の金の眼で罪の全てを把握した彼に同情も憐みも何もなく、面白そうだからと都に火を放った鬼の子の角も、捨てられたからと男の一家を皆殺しにした遊女の角も全て、落としてきた。
鬼の死神。
それがこの短髪の黒髪を後ろの方に流しているので額もよく見えると言うのに、表情の変化が今も見られない偉丈夫の二つ名だ。
楼閣の見鬼の眼からは、鬼帝ほどの実力も無ければ逃れられない。
今は戦鬼衆なる都を守護する鬼人の総大将という地位にいながらも、縁談などが一切ないのもこのためだ。
そんな男が、自ら進んで妻にした鬼女がいた。
それが春華だ。
「……産婆は、本当に死産だと…」
「婆さん自身そう思い込まされてたらしいな、二か月後には本当に老衰で亡くなったし」
「……」
鬼都の守護が戦鬼総大将を傀儡に出来るのではと、産婆の手伝いを称し随行していた息子によって、瑠華は隠された。
高官の一人で麗華の父。
買い取った奴隷の角に自分の黒色を移し替える邪法をもってその地位に昇りつめていた。
熟練の鬼術によって娘の角を紫に染める事に成功し、そして今日に至ったと見鬼の金の眼を瑠璃色に戻して幼女は言う。
「…………」
「待つのじゃ楼角!」
「麗華の父も拘束してある!邪法をどこで知ったのかとか、聞きたいことは山ほどあるからお前は待ってくれ!!」
「すげぇ…あの楼角が激怒してるとわかる日が来るなんて…」
「親父も?俺もだよ」
呑気な蒼鬼たちはともかくとして、灸角と楽角も慌てて昂角と一緒に取り押さえなければならない程彼の中の鬼力は荒れ狂っていた。
「んなこたぁ後でいいだろ、ほら豚汁…で、瑠華は俺がこの店で保護する方針でいいのか?」
「それはっ……それは、確かに私は、父として何も……」
「女の子のための衣服とかまずお前用意できんの?」
「というかあなた家に帰ったりしてる?漸角や浄角に仕えていた頃とそう変わらないでしょ?家だったものが崩れ落ちてない?大丈夫?」
「蓮華様……」
何一つ間違っていないので楼角も勢いが衰えた。
実際春華亡き後は帰っていないし、当時も屋根瓦がと言われた気がする。
もちろん修理もしていない。
「私も娘を育てて見たかったのよ~」
「御袋~めっちゃ口出しする気だな~」
「当たり前じゃない、こんな幼気な子を黒駄鬼の跋扈していた宮中の近くで育てるなんて……私は断固反対です!」
「他に宮中とか戦鬼衆総大将の家はやめとけと思う奴」
はいと、昂角と党角を除く全員が挙手をした。
瑠華も挙手した。
「本当に色々、私視てました」
「「「……」」」
見鬼の眼がいかに強力かをよく知る三人も押し黙った。
「あらじゃあ瑠華ちゃんはココで育てるの決定ね!じゃあ他の服とか今から買いに行きましょう!」
「お供致します蓮華様!!」
すかさず閃華が挙手をして、鬼女の三人は店を出た。
金子は党角が懐からすぐに出した膨んだ財布である。俄然張り切った鬼女の二人に、面白がって双子もついて行く。
「……それで初帝よ…呪角郎…弟君について教えて欲しいのですが」
楼閣たち将鬼はもともとそのためにここに来た。
かの殺人鬼が手にした妖刀、色狩り。
この一角のみだと言うのに、その角を鬼人最強にまで磨き上げ鬼帝となった男以上にあの黒駄鬼を知る者はいない。
「……俺以外の鬼帝は解釈違いらしい」
「すみません意味が解りません」
「俺より弱いくせに同じ鬼帝を名乗る奴が嫌すぎて嫌がらせ……それが王都炎上までやらかすんだもんな~…」
「それで済まされた俺は今だ解せねぇよ店長」
「んだ」
こればかりは浄角と楽角も不平不満の横やりである。当然だ。
彼らこそ炎上した都を復興させるのに必死になった当事者なのだから。
「農業発展の何が悪い!?」
「鬼帝が自ら鍬もって畑耕すのは何か違うって言ってた」
「それ俺もちょっと思ってたんスけど先代」
「お前だって大工さん!」
「宮廷が焼けたんじゃしょうがなくない!?」
鬼帝の中でも特に色物と言われる二人が言い争うのを横にして、匡角は続けた。
「お前もだよ昂角」
「はい?」
「色狩りを知らぬ間に奪還されてよぉ……瑠華を呪角が見つけて俺に預けてなければ、黒駄鬼になった鬼妃による突然の大量虐殺が始まって大混乱じゃねーか」
「……」
あったかもしれない未来に、今更昂角も震え上がった。後手に回るにしても程がある。
そしてここに、最大の疑問が生じる。
「…………なぜ呪角郎は瑠華を放置せず、あなたの元に?」
そこなのだ。
呪角こと厄災の呪角郎。
兄の匡角共々千年以上を生きる鬼神にして、神出鬼没な屍の山を築く者。
返り血で赤く染まり高笑う彼をここにいる多くの者が見てきたが、子どもを保護するような男かと言われれば微妙である。
「……そう言えば子供は嫌いだと避けてるところは見たことが…」
「赤ちゃんギャン泣き、嫌がって席を立つ男」
「んだんだ」
楽角もじつは潤角と同様に初帝の臣下であった鬼人である。
かつてを知る二人に匡角もまあ同意する。
「といってもまだ角が黒くない頃の話だろ…まあ多分今もそうだと思うが」
「……子供でも情け容赦ない話が……」
「昂角帝、あの話の真実は後でご説明いたします…とにかくアレは…子供の皮を被ったバケモノです」
これはいよいよ子供には無害な男の気配が濃厚になって来た。
「華女って部分もデカいだろうな……御袋と同じ、な」
というか華女と言う存在を一番拗らせているのは間違いなく呪角だと、兄でさえこんな認識。
「華女を娶れるとか浮かれ切っている鬼帝とか……よくまだ生きてるよなお前」
そして昂角帝にもこの認識。他の鬼帝だった者達も頷いている。
「……ちょっと穴掘って埋まってくる」
「昂角帝お気を確かに!楼角!灸角!」
「御意」
「まあ…あ奴らだけでなく、儂でさえあの鬼女はないと思っとりましたが」
「灸角!!」
将鬼の全員が毛嫌いしていた麗華という鬼女。全く、恋は盲目というが凄まじい。
「まあ蓮華に勝る鬼女はそういないがな!不老の域に到達した上、息子の嫁どころか孫嫁まで見送る側!仙女も同然ないい女!」
言い切りやがった潤角に、息子と孫は微妙な顔をした。
昂角の羞恥心による奇行もようやく落ち着き、机に突っ伏した。
「……色狩りを取り戻した呪角郎が昂角帝を殺しにくる可能性は?」
「弱すぎる、まず鬼帝だと思われてない」
まだ鼻に包帯を巻く鬼帝は床に落ちた。楼角も実は思っていたのでそれを無視した。
「それよかコレが鬼帝を名乗っても許される今の時代を攻撃してくるぞ」
「……また、黒駄鬼の軍隊を率いて都を焼くと…っ!?」
「色狩りを取り戻したなんて事実をひっさげて…今回はどんなヤベェの仲間にすんのかねぇ…」
前回を知っている党角や蒼鬼たちは勿論、昂角も顔を上げ最悪の想定に青ざめた。
あり得ないとは、言い切れない。
黒駄鬼夜行。
殺戮衝動に飲み込まれた鬼人たちの都の蹂躙。
歴史に刻まれた最悪の業。
「…戦鬼衆に獄門の黒駄鬼の数を再確認させよ!」
「は!」
灸角が店を飛び出し、鬼帝たちも顔を突きあわせ話だす。
「おう蒼いの、色町の方も連絡してやれ」
「祖母さん取り合って負けたせいで、あの元締め俺達も嫌ってるっつの」
「俺、平気」
「おし楽角頼んだ」
「あと墓守やってる礼角帝」
「墓に収めた角は狙わないだろ」
「取り巻きの馬鹿はやりかねない」
宮廷の事で手一杯な昂角と党角は聞かないふりをして、店を後にした。
なんかまた一人最初期の鬼帝がいたけど。
そして鬼帝に置いていかれた将鬼たち。
「閃華をこのまま姉のふりをして、瑠華の護衛になってもらいます」
「双子も年が近いので何かと遊びに来る兄気取りの体で…定期的に」
「……酒飲んでけっこう金払える客も時々来い」
元々店に来る客はそこの鬼帝だった奴らやそれに近しい強者ぐらいしかいなかった。
客としてなら来てもいいと、冬になり余計客足が途絶え出した店長は譲歩した。
そうして、冬は慌ただしくなった。
「号外!号外ぃぃ!!」
「あの黒駄鬼最強最悪の呪角郎!宮廷に入り込み愛刀色狩り奪還せりぃぃ!!」
「手引きしたのは何と華女の父君!」
「あまりの事実に華の君!なんと自室で服毒自殺ぅ!」
「華の君が服毒自殺ぅぅ!」
「呪角郎動き出すぅっ!!」
ばら撒かれた号外に誰もが手を伸ばし、大変だと叫び合う。
角を白く欺き笠を被った呪角本人も拾い上げ読み込むが、偽の華女とその父親の顔をこの号外で初めて知った。
「ふぅん……そうしたか…」
別に殺人を擦り付けられるのはこれが初めてではないので別にいいのだが、本物の華女については何も記されていない。
瑠華の存在は秘匿されるらしい。
「…まあ妥当か」
表に現れるのは恐らく十年後。
年頃となり、作法も十分教え込んだ所で紫の角を宮廷に招くといった所だろう。
「丁度いい」
それだけあれば、此方も十分な駒を揃えられる。
「精々楽しめ、このぬるま湯の平穏―」
「あ、お兄ちゃんだ」
ばったり、街中で遭遇した瑠華は金の眼で呪角を捉えた。
そこの呉服店が何やら騒がしい事は解っていたが、まさか蓮華と閃華による大量購入に天手古舞になっているのが理由だとは呪角も思わなかった。
「あのねお兄ちゃん、くれた着物を蓮華さんがね」
「~~~来い!」
たった一人で外に出た瑠華に、店の中はまだ気づかない。角の色は欺いて白いと言っても、見鬼の瞳が発動中は金の瞳も偽れない。
慌てて店の中に戻したが、それでも彼女たちは気付かない。
「~~~すぐそばだとしても!一人でうろつくな!!」
「……ごめんなさい?」
「あいつらも馬鹿かよ!?瑠華を忘れる程夢中とか…っ!」
「……お兄ちゃん本当に悪い人?」
「あ!?」
「……うん、何でもない…」
完全に良い人の行いなのだが、角は六角全てが漆黒である。
「よく分からない……」
「あ~もう!これやるから絶対無くすな!もう一人で歩くなよ!?」
「またねお兄ちゃん」
「もう会わねぇよ!!」
「あ!瑠華ちゃんちょっとこの柄合せてみて!」
それでも彼女たちは気付かなかった。
呪角にも怒られたので、瑠華も出会ったことを言わずに終えた。
ただし皆が帰り、二人きりになった所で居酒屋鬼角郎の店長はすぐ話題とする。
綺麗な赤の勾玉である。
「蓮華がくれたのか?かなりの守りの加護が込められたお守りだな?」
「お兄ちゃんがくれたの」
「おっと呪角の犯行だったか~店長に詳しく教えてくれよ」
「あのね!」
そして共有される呪角の行動に、兄も思わず微妙になった。
「……本当華女だからって贔屓が過ぎるなアイツ…」
「瑠華お兄ちゃん大好き!」
「そうだな~お兄ちゃんが助けてくれたもんな~」
丁度報告する事もあって楼閣を連れ引き戸を開けた昂角は、青ざめた。
後ろの死神は地獄の業火もかくやと言う鬼力を迸らせているのだが、怖くて振り向く度胸もなかった。
”こくだき”と”だこくき”でずっと悩んでたんです……。




