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新天地は鬼人の都

これは女性向けで投稿してますが、他の関連作品はBLです。

ご注意ください。

 その昔。

 この額の角に色を持ち“鬼術(きじゅつ)”なる摩訶不思議な術を操る鬼人が戦乱に明け暮れた千年以上も昔の事。

 一人の鬼人がその圧倒的な力をもって鬼人の全てを掌握し、都を築いた。

 それが鬼都(きと)

 鬼帝(きてい)が治め、彼の愛する狂い桜が、永遠に散る愛しき都。

 その宮中の一角に瑠華はいた。

 女は“華”の文字を、男は幼少期なら“鬼”を、成人したら“角”を名前に入れるらしい。

 だから瑠華(るか)は女であると認識できた。

 寒いから、硬くて汚くて本当は嫌だけど掛布一枚の布を使っている。他に布など存在しない。

 首に付けられた頑丈な枷は物心ついた頃から一度も取られることはなく、埃の積もったお堂の中で息をしていた。

 式神という、紙で出来た使いがたまに食事を持ってくるだけで瑠華と会う鬼人はいない。


 ただ瑠華の額から生えた一本角は特別なものらしい。鬼人は基本乳白色の白い角を持つが、力があると個々の色に染まっていく。

 紫色の角を持つのは女の鬼人でも稀に現れるが、彼女たちの産む鬼人のその悉くが力ある強い子になる。


 始まりの鬼帝もその一人だった。


 故に瑠華は閉じ込められ、自分の角で“染まった”鬼女を通して瑠華は知識を蓄えた。角を通して彼女と繋がっているらしく、色々な事を見聞きした。

 人の声も、美味しい食事も、算術も、作法も、何もかも。

 宮中で彼女は次期帝妃として、さまざまな人から敬わられていた。

 たまに会う鬼帝と言う人物も彼女の角を褒めたたえる。結ばれた黒髪を前の方に流した、美しい深紅の角を五角も有する野美を湛える美丈夫である。

 色ある角を五角持つ鬼も滅多にいない。角の数だけ鬼人は強い。

 紫の角をもつ“華女(かじょ)”と出会えた鬼帝は滅多におらず、その幸福を得られたことに感謝する、と。

 鬼帝の彼は、宮中で一番力のある鬼人であるはずなのに見破れずにいた。

 二人は温かいお茶と菓子を女官たちに用意され、とても楽しそうに談笑し始める。

 瑠華は今日、何も食べていない。


「……お腹空いた…」


 瑠華はお堂で、ただ一人。

 空腹だと鳴る腹を止めることも出来ず、虚しくなる景色から意識を戻した。

 季節は冬。外は粉雪。

 ただそれだけ。


「……ご飯まだかな…」

「もう来ないぞ、ここにいる限り」


 眼を見開いてお堂の入口を見ると、果たしてそこに鬼人がいた。

 初めて出会った、浅黒い肌に赤い眼で角が黒く…六角持ち。


「……あ、こんにちは!私は瑠華です」

「“黒駄鬼(こくだき)”に吞気に挨拶するとか馬鹿なのか?」

「馬鹿じゃないもん、挨拶は大事だって“視てた”もん」

「……お前何歳?」

「多分五歳?わからない」


 男は盛大にため息をつき、そして気だるげに瑠華の方へ近づいた。

 初めて直に見た他の鬼人に、幼子は好奇心の拭えない大きな目で見上げている。

 怯えはない。


「……角の黒い鬼人も知らないのか?」

「知ってるよ?“こくだき”って言う、悪い鬼さん達だって」

「そうだ、つまり殺人鬼だ」


 そういって男は瑠華の首を片手で掴んだ。

 錆さえ見える枷は男の片手でさえ砕くには十分なものだった。


「……このまま首の骨折ってやろうか?」

「ホント?」

「喜ばれた…何でだよ…」

「………ねえお兄ちゃん、まだ?」

「あーーーーーー!もうっ!」


 たまらず叫んだ男はそのまま、瑠華を抱えてお堂を飛んだ。

 跳躍は高く勇ましいものだったが、誰にも止められることなく塀を飛び越えて宮中を後にした。


「わああ……っ!」

「舌噛むなよ」


 屋根をかける男の腕の中、瑠華は初めて見る外に目を輝かせた。真白い雪が積もる屋根なのに男は足を取られる事もなく、すぐに景色は変わりゆく。

 鬼人の中でも男は肉体能力が凄まじい。それもそうだ。乳白色の角を三角持つだけでも巡回中の兵に隊長と言われているのだ。宮廷も二角持ちが仕えるための最低条件であり、男のような六角持ちなど見た事もない。

 男は男で腕に抱えた瑠華が思ったより臭う事に顔をしかめた。


「……お前はよくそんなぼろ布一枚で生きていられたな」

「“炎鬼の術”っていう鬼火だせたから…お腹凄い減るけど」

「…角で繋がった女の見聞きしたものだけで出来たのか?すげぇな?」


 流石は本物の華女だと男は呟いたが、瑠華は街の方に夢中であった。

 やがて男は街はずれの、とある一軒家に到着した。

 看板の文字は“居酒屋 鬼角郎(きかくろう)” 。

 引き戸には張り紙一つ。


 “外出中”


「……いなくてよかった」

「?」


 男は上物の上着を瑠華に被せてここにいろと命じた。


「ここの店主なら信用していい」

「……うん、綺麗な鬼力で一杯だね…」

「……よく視えるな」

「お兄ちゃんもすごく綺麗」

「………俺が…?……はははは!!この俺に綺麗!?呪角郎(じゅかくろう)たる、この俺にっ!?」

「ココと同じ鬼力で護られてる…このお家の店主さん、お兄ちゃんのこと大好きだって」

「………」


 一気に萎れた男は肩を落としたまま踵を返した。


「もう二度と俺に会うなよ……」

「服を返さなきゃだからまたね、お兄ちゃん」

「……しなくていい」


 気力も削がれた男は影から溢れた闇に飲まれて姿を消す。隠れ鬼というこれも鬼術だ。

 やる事もなく、取り合えず引き戸に背を預けしゃがみ込んだ瑠華だったが、すぐさま突風も置き去って帰って来た男に悲鳴を上げた。


「呪角っ!!!」

「ふぁっ」

「あ!?子供!?紫!?華女!?何でというか裸足じゃん寒い寒い!!」


 先の男と似た顔立ちの、角は白い一角のみの騒がしい男である。

 成人した鬼人にしては小柄で、先ほどの彼の方がずっと背が高かった。

 そう見せているだけの男だと、瑠華には視えた。


「……店主さんはお兄ちゃんのお兄ちゃん?」

「その上着くれた兄ちゃんが、黒い角を六角も持ってて褐色の肌に赤い眼だったら俺の弟だな…」

「呪角郎とか、言ってた」

「間違いなく俺の弟だ」


 温かいお風呂に入れてもらい、身の丈を超す髪の毛を切る床屋という人を準備してもらいながら、瑠華は七輪のおかげでずっと温かい薬膳粥を食べ続けていた。

 走り書きされた折り鶴が店主の手から飛び立って、空いた窓から外に行く。


「式神の鬼術だ……」

「これで床屋と衣服は良しとして…瑠華は何を知っているんだ?」

「?」

「や、そのなんつーか…俺も何を聞けばいいんだ?」

「……お兄ちゃんは、店主さんは信用していいって言ってた」

「うん…店主さんの名前は匡角(きょうかく)だぞ…もうメンドクサイし過去見していいか?」

「うん」

「素直~…じゃあやるぞ」


 黒髪黒目に白い角が一角だけの平凡な一般人から、金の目だけが元に戻った。

 家猫より獰猛でいて知性のある瞳は、鎖に繋がれた六年間を全て見知った。


「……そっかぁ…」

「うん、そうなんです」

「そっかぁ……お前も自分の過去視えるんだ……」

「瑠華も華女だから色々出来るんです、お腹すくけど」


 出来る鬼は希少であるというのに、言い切ってくれた。


「…………事案じゃねーか」

「全くだこの幼女趣味の下種野郎っ!」

「ごふっ!」

蓮華(れんげ)に続けぇっ!」

「親父確実に仕留めるぞ!この男は手強い!」

「爺纏めて拘束するぞ!」

「ふぁっ!」


 折り鶴を受け取ったのは引き戸の出入り口から覗き込んでいる全体的に白い、五角の黄金色が派手である巨漢であったが、文の内容を見て援軍と共にここにいた。

 皆が額に五角もの…色彩は異なるが美しい角を持っていた。

 うち三人は青系統で、顔もそっくりなため三世代だとよくわかる。


「こんな辺鄙に幼女、何事…っ!」

「あんたまさか攫ってきたとか言うんじゃないでしょうね!?」

「俺じゃねーよ蓮華!攫ったの呪角だよ!」

「余計事態が悪化したわよ!」

「呪角!?呪角来たのココ!?何で!?」

「説明すっから首を絞めんのやめろぉ…っ!」


 上品な着物を着こなした翡翠の角を持つ鬼女の指示で、髪も角も色味が異なり、それでようやく見分けがついた蒼の男たちも匡角を解放してやった。


「ざけんなよこの“蒼の三代”…っげほ!」

「言ってる場合か“初代” 」

「呪角だと?動いたのか?」

「や、どっちかっつーと暇すぎて宮廷で隠れん坊してたら見つけちゃった感が強い」

「あ~…そういう事…」


 のそのそ白い巨漢も何とか店の中に入って来た所で、とりあえずお着換えしましょと鬼女は瑠華と奥へ引っ込んだ。


 残された男たちは酒も取り出し話し込む。


「店長干物炙って」

「金は払えよ」

「「「「えー」」」」

「帰れ」


 とは言うものの、この男たちも都の中心にある宮廷を知っているために帰る気がさらさらない。


「今代の鬼帝は賢帝だとか言われてるけどよ、ありゃ嘘か?」

「法律や刑の執行は無難にやってるらしいぜ…ただ華女を盲愛してるらしい」

「華女ここにいるじゃん」

「角の色を移し替える邪法があるだろ?」

「なるほど?」

「本当は瑠華の色もっと鮮やかだし、繋がっている娘から鬼力を拝借して生き延びてた」

「華女だと言われる娘の体が弱いとか言う話は、それか……」


 一本の、まっすぐ天に伸びた紫の角は確かに少し色が濁っていた。


「…衰弱していた瑠華ちゃん、回復」

「邪法を利用して知識を逆に得ていた程だ……逆転した力関係にあっちはどう動くか」

「その前に俺が今から殴りこむから楽角(らっかく)、店頼んだ」

「だから呼んだの??」


 スルメを噛み締める事に夢中になっていた白の巨漢は、それでも仕方ないなと前掛けを託され調理場に立った。もう枝豆を茹でる準備に入っている。

 蒼い集団は嬉々として折り鶴を懐から取り出し鬼力を注ぐ。式紙を通して見物し、酒の肴にするらしい。

 そうして店の外に出た匡角は、影に潜り込み桜の木の下で浮上した。

 宮廷内の、最初にこの地に植えられた狂い桜の下である。

 粉雪で花弁も白く覆われるこれを中心にして宮廷は作られたのだが、最も警戒されて当然な場所に現れた男はしかし気付かれなかった。


「俺の隠れ鬼にも反応なしかよ…蓮華なんて俺よりすげぇぞ…」


 腹掛けに股引きな、飛脚のようでいて足元は鎧の脛あてなどでしっかりと防護した男は堂々とした足取りで王の間に向かう。何処にその部屋があるかなど、誰よりも知っていた。

 女官を何人も従えた姫鬼も、文官らしき巻物を持ちすぎて前方が見えない男も、衛兵たちさえ誰も止めない。


「……」


 辿り着いた王の間など、扉を守る男たちが暇だと欠伸をしてくれた。


「そら呪角も歩き回れるっつの……」

「何か言ったか?」

「いや何も?」

「ざっけんなぁ阿保んだらぁぁっ!!」


 扉を盛大にぶち抜いて現れた匡角にようやく、中で執務を行っていた鬼帝も気が付いた。


「なっ……何者だ!」

「遅いんだよ馬鹿野郎!!」

「っ!」


 鬼人の肉体は基本的に屈強だ。二階の執務室から離れた訓練場にまで殴り飛ばされても、鬼帝ともなれば両腕で直撃を防ぐことはできる。

 立ち上がれても反動で両腕は垂れ下がり、滝のような汗をかいていようとも。

 彼はそれでも自己再生で、回復した。


「こっ昂角帝(こうかくてい)!?」

「なぜ吹き飛んできたのが鬼帝なのだ!?」

「敵襲!敵襲ぅ!」

「―――があっ!」

「うわっ!」


 激情のままに溢れた赤い鬼力で周りの兵士が吹き飛んだが、構わず鬼帝は仇に走った。ただし迎え撃つ匡角も只者ではない。


「ただ鬼力放出を上げただけじゃねぇか!」


 今までは本当に、ただそれだけで済んでいたらしい。

 確かに鬼帝になれるだけの鬼力量であると匡角も認めよう。これだけならば自分にも引けを取らない。


「だからどうした…っ!」


 ただぶつかって来た所を躱し顔面に一撃。

 顔を潰された帝はその場に崩れ落ちてしまった。


「……おい…おい、マジかよ…お前…」


 弱すぎる。あまりにもあっさり倒せてしまった鬼帝に匡角も絶句したが、このままでは埒が明かない。


「ぜいっぜぃっ……しょ…匡角殿!これは一体何事か!?」

「おう党角(とうかく)の爺さん、まだくたばっちゃいなかったのか」

「そこに倒れているのは鬼帝では!?いったい何があったのです!!」

「呪角がここで鎖に繋がれてた華女の五歳児保護して俺の店の前に置いてった」


 まだ一時間も経ってないぞと追加され、翁は手に持っていた杖を落としてしまった。


「呆けている場合か、馬鹿……黒駄鬼(こくだき)が、この宮廷を闊歩していたんだぞ」

「……っ鬼都の防衛陣の再確認を急げ!黒駄鬼が宮廷に入り込んだぞ!!」

「ですが党角様…っ鬼帝が……!」

「儂とこの方がおるので心配ない!早ういかんか!」


 いえその男が凶行犯ですと言えぬ剣幕で、兵士たちは追い立てられた。


「ふーっふーっ……本当に、ご説明願いますぞ……初帝…匡角帝…!!」


 額の角は隠れをやめた一角の金剛石。数多の色彩をもつ鬼人の角だが、ただ一人が保有する最も美しい鬼の角。色持つ五角のさらに先。

 神の領域に行きついた鬼神の角。


 始まりの鬼帝、その名も匡角。

 またの名を、“初帝”。

 それがこの、都の端で居酒屋を営む男の過去だった。




 ~~~~~~




「おう、ようやく起きたかクソ雑魚が」

「昂角帝!まだ顔の再生が終わっておりませぬ、御安静にっ」

「……話には聞いていた」

「ん?」


 千年以上も昔に武力で鬼人の頂点に立った男はしかし、生きたまま帝位を退いた。

 自分の側近が一人にして、都の基盤を作った青の鬼に帝の位を授けたという初帝。

 実は今も生きていると言う話を、昂角も初帝からずっと帝に仕えるというこの党角の名を持つ老鬼から聞かされていた。

 建都帝の名を持つ潤角帝(じゅんかくてい)も。

 獄卒帝の名を持つ漸角帝(ぜんかくてい)も。

 豊穣帝の名を持つ楽角帝(らっかくてい)も。

 再生帝の名を持つ浄角帝(じょうかくてい)も。


 最初期の帝になった五角の鬼人、その殆どが。

 今も何処かで生きていると。

 だから、この金剛の一角を有する男がそうなのだと昂角も理解した。外見は自分より若いが侮るなかれ。そこの老いた党角よりも長い年月を生きた“鬼神”である。

 不老であっても不思議じゃない。


「初帝の方に殴り飛ばされるような愚かを、自分は一体…」

「呪角の奴が宮廷歩き回ったのに気づけよバーカ」

「……宮廷内にて封印していた呪物が……紛失しておりました…」

「ばーーーーか」


 何も言い返せなかった。


「何たる、無様な…っ!」

「都の防衛陣には何もされてはおりませぬが、戦角衆の将鬼(しょうき)に召集をかけました」

「すぐに会議を」

「後もう一個、こっちが大事」

「左様でございます鬼帝よ…お気を確かに」

「これ以上の厄ネタだと!?一体なんだ!?」


 そしてまだあった最大級が、匡角から投下された。


「監禁されてた本物の華女を、呪角が保護して俺の元に連れてきた」


 すれ違いで直接会っていないと言われてもどうでもよかった。

 華女が二人も実在した。

 否。そんな奇跡、監禁されていたと言う言葉が覆す。


 つまり、今まで自分が華女だと思っていたあの美しき鬼女は―


 一瞬目の前が暗くなったが、匡角の容赦ない平手で現実に戻された。


「お前のお気に入りが角の色が元に戻ったらしくて籠城決め込んでよぉ…お前が直接行って引導渡してこい」

「……麗華(れいか)の角が…偽りだった……?」

「あ~も~面倒くさいな~」

「匡角殿!!」


 鬼帝の胸元を鷲掴み引きづっていく男に宮廷内の者が皆目を見張ったが、昂角は茫然自失に陥っており、周りに気を配る余裕もない。


「こ、昂角帝!?」

「と、誰だ!?」

「困ります鬼帝!先触れもない訪問など…っ!」

「おっす俺元鬼帝こと匡角!はいお邪魔しまっす!!」


 蹴り破って中に入った匡角に護衛も槍を向けたのだが、角の発した光を浴びて身動きが取れなくなった。


「こ、これは……影踏み鬼…なんて強力な!?」

「そんな!?宮中でもこれ程の金縛りを操る者など!戦鬼衆の将鬼にも―っ」

「はい発見」

「きゃあああああっ!」


 部屋の隅で、女官たちに囲まれていた麗しい鬼女がいた。

 ただし角の色は黒に近い、灰。

 元はただの白い一角でしかなかったことも窺える。


「んだよ黒駄鬼に成りかけじゃねーか」

「違います!麗華様はそのような邪な輩とはっ」

「……お前、幼子を鎖でつないで監禁してた事知ってたな?」

「…け、見鬼(けんき)の眼…っ!?」


 金の眼で捉えた匡角の鋭い声に、女は肩を跳ねさせた。


「……獄門に連れていけ」

「き、鬼帝!?」


 まず包帯だらけの男が昂角帝だと気が付いていなかったらしい女官は、違うのですと何やら言い訳を開始した。

 しかし金の眼がさらに睨み付けると押し黙り、衛兵たちが拘束して連れ出した。

 角を必死に隠しながら、麗華も目を泳がして必死に言う。


「こ、子供など、私には何の話であるか…」

「色を通してお前と繋がり、全てを見聞きしていた子だ」


 それを抜きにしても、堕ちかけている鬼人が宮廷にいる事実が最早許されない。


「黒駄の角は殺戮衝動を持つ殺人鬼の証である……ほら言ってる傍から、また角が黒ずんだ」


 本当に何も知らない女官たちが女から距離を取り、金縛りから解放された衛兵たちも鬼女を囲って鬼帝を守る。

 泣き叫ぶ鬼女を情け容赦ない手刀で匡角が沈め、封印の札などを手に面をつけた術師たちが後を引き継ぐ。


「じゃ、俺は帰る」

「帰る??」

「ここまでしておいて??」

「そうだよ、俺んちに本物の華女が保護されてんだよ帰って俺が守るんだよ」


 文句あっかと言う匡角に、二人もそれ以上何も言えない。

 そうして影を使い帰った鬼神と入れ違いに、国の五人の精鋭たちが集結した。

 いずれは鬼妃にと、あの鬼帝に溺愛されていた鬼女が実は黒駄鬼に成りかけの忌むべき存在。

 突然都の各地から呼び出された戦鬼衆の名だたる四角持ちの武人も、これには何名か絶句した。


「…それで…盗まれた呪具と言うのは?」

「……流石だな、楼角(ろうかく)将鬼…」


 まだ鼻の上に包帯を巻いている鬼帝にも眉一つ寄せなかった総大将に、昂角帝も力なく笑った。


「すまないな皆の者……私の不始末を皆に押し付ける事になってしまった…特に楼角…」

「私はあの鬼女は何かキナ臭いと百回は言いました」

「……実にすまない…」

「それで?盗まれた呪具と言うのは?」

「……“色狩り”だ」


 その呪具を知らぬものはここにいなかった。

 党角は少し安堵した。同じ顔をしたまだ少年の二人など、知らない可能性もあった。


「色狩り…っ!千もの色を持つ角を切り落としたと言われる妖刀ではありませぬか!」

「折れたと言う話を聞きましたが、現存していたのですか!?」

「太刀だった色狩りなら確かに折れた…盗まれたのは短刀じゃ」

「誰がそんなものわざわざ短刀にしたので??」

「呪角本人じゃ……何とか奪取し、破壊困難故に厳重に封印していたのじゃが…」


 己が愛刀を取り戻しに、呪角が自ら侵入していた。

 ついでに華女を見つけて保護をした。


「「……何で?」」

「そうですよ党角老!こればかりは私も泉鬼(せんき)鋼鬼(こうき)に同意します」

閃華(せんか)、それに双子も口を慎め」

「何ですか灸角(きゅうかく)、党角老程ではないとはいえ浄角帝時代から生きている余裕ですか、腹正しいのでやめてください」

「「そうだそうだー」」

「……最近の若いのは扱いづらいな、楼角よ」

「他には何か?」


 総大将はそんな部下たちを捨て置いた。


獄死供花(ごくしきょうか)は…狙われていなかったのですか?」

「……初帝曰く、かの黒駄鬼はもう所持している、と……」

「鬼の死を具現化したとか言う徒花ですよ!?」

「「なんで持ってて死なないの!?」」

「………あの華に触れても死なぬ鬼もいるのじゃ…」

「だから紫の角を持つ鬼女を“華女”と言うのは知っておりますが…呪角もですか…」


 それさえ初耳な三人は楼角を見つめたが、それが事実だ。


「獄死供花はともかく、五角持ちだった初帝の四角を切り落とした色狩りは何としても回収しなければならん」

「初帝の話は私も初耳だぞ党角…っ」

「秘匿しておりました昂角帝……とにかく!なんとしてでも色狩りを呪角より奪還せよ!」

「御意」


 楼角以外、無茶を言うなとばかりの顔だった。

 退室し通路で共に歩く彼らはとんでもないと早速言葉にしてみせた。


「呪角郎…千年を生き、万の鬼人を殺したと言われる最初の黒駄鬼…」

「かの初帝の腹違いな弟で…黒駄鬼の将となり都を攻め落とさんとした忌まわしき敵大将とか…」

「都の再建時、浄角帝に加勢した多くの鬼帝たちからも逃げおおせた厄介な男だ…」

「「しかも宮中に侵入してるし」」


 そんな男とどう戦うのだと楼角に皆の視線が集まるが、彼は物怖じしていない。


「……まず初帝に話を聞いてこよう」

「そうきたかウチの総大将…」

「まあ私も妙案かと思いますよ?」

「「賛成~」」


 そうして五人は都の外れに向かったのだが、そこで待ち受けていたのは一人の幼い少女であった。

 少女である。散髪も済ませて身綺麗になった少女である。

 だがどうしても。


 とても楼角に似た、少女であった。


 まだ幼子故に愛らしく、気難しそうな雰囲気もない。

 それでもとても、よく似ていた。

 そして昂角帝と党角も、別の道を使い店にやって来ていた。

 見つめ合う男と少女に、多くの者が固唾を飲んだ。


「……瑠華と名付けたものが誰かを知っているのか?」

「母様です」

「……母の名は」

春華(はるか)です」

「…………母と共に…死産だと、私は…」

「因みに産婆さんが麗華さんのおばあさんです」


 父様と、少女はトドメを刺してきた。

 ついでに鬼帝も、父と一緒に息の根を止めていた。


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