レオニダスは聖女を守りたい。
ノエルが新たな戦い方を編み出すその日、レオニダスは隊列の前の方を歩いていた。
誰かの焦った声がして、後方で魔物がでた、と聞こえた時には走り出していた。
狭い道を進んで居たため隊列は細く、長い。
道を引き返そうとするが騎士たちが邪魔でできない。
舌打ちしそうになるのをこらえ、草の生い茂る道の脇へと迷いなく突き進む。
木の枝や葉が全身にぶつかるがレオニダスは微塵も気にならなかった。
と、いうより頭の中がノエルでいっぱいで気付かなかった。
ノエル。
もし、ノエルの身に、何かあったら。
そう考えてぞっとする。
さらに足をはやめてやっと最後尾についたレオニダスがみたものは、ノエルが自分の2倍はあるであろう魔物に拳で打ち勝つ姿だった。
▷▶︎▷
それからの日々は、レオニダスにとっては心労の連続だった。
団長の発案により、ノエルが前線に近い位置に配置されたのだ。
確かに、魔物討伐の効率は格段に上がったし、怪我人がでてもすぐにノエルに見てもらえるため重症化のリスクも減った。
しかし、ノエルが無茶な戦い方をしているのを見ていると心配で気が気ではない。
魔物討伐に慣れていないため危なかっかしいこともあるノエルが気がかりで、見ていることしか出来ない自分に苛立ちが募るばかりだ。
それだけでなく、まわりの騎士たちがノエルの動きに合わせてうまく戦えていないのを目にする度、レオニダスは歯がゆい思いをしていた。
(ノエルがこういうとき、次は右から攻めるのが一緒に戦っててまだ分からないのか?)
(今は左が空いてるんだからだれかカバーしろよ。)
そう思いながら自分の討伐もこなさねばならず、ストレスが溜まる。
そんなサポートしかできないなら変われよ。
何度そう言いそうになったか分からない。
そもそもレオニダスが守りたいと思っているのは昔も今もノエルだけだ。
しかし、レオニダスはノエルの護衛や補助を命じられていないし、ノエルはレオニダスに守って欲しいなどと思ってはいないだろう。
それでも、本当は、こんな所で戦っていて欲しくはない。
真綿に包むようにして、家の奥で汚いものは見ず触れず、ただ笑っていて欲しかった。
ちら、と見やるとノエルは泥だらけになりながら戦っている。
その顔は真剣そのものだが、どこか楽しそうにも見える。
ずっと騎士になりたいと言っていたから、聖女のままではあるが騎士と肩を並べて戦えるのが嬉しいのだろう。
そんなノエルの心情は察しながらも、レオニダスはどうしてもノエルの事が気がかりで、出来れば戦って欲しくないと思ってしまうのだった。
▷▶︎▷
そんなある日。
討伐も終わり、明日の予定を団長が確認してから解散となった。
すぐに宿に帰って休もうとするもの、飲みに行こうと誘い合うもの、明日の朝までは各々の自由時間なので様々な思惑が飛び交っている。
そんな中、ノエルはいつも通り宿へと帰るようだ。
もともと討伐の後は寄り道せず宿に戻って休んでいることが多かったが、戦闘自体に参加するようになってからはますますその傾向が顕著になっていた。
もともと鍛えていたとはいえ実戦経験は全くなかったのだ、負担が大きいのだろう。
挨拶をすませて、ノエルが帰路に着く。
その後ろをレオニダスはそっと追う。
レオニダスは、毎日こうして帰るノエルの後ろを付けていた。
傍から見るとストーカーのようだと、冷静な自分が自分を嘲る。
別に、レオニダスだって、用もなくノエルの後ろを受けている訳では無い。
(今日こそ、飯に誘う。)
何とも思ってないように、構えず誘えばいいのは分かっているのだが、いざ声をかけようとすると緊張してしまい、話しかけることすらできない。
ましてノエルに好かれてはいないであろうレオニダスの誘いを受け、断られるだけならまだしも万一嫌そうな顔をされたら立ち直れない。
そんなことを考えてしまいうじうじと誘えず、宿へ帰っていくノエルをただ見ているだけの日々が続いていた。
しかし、今日は違う。
先程、ふと耳に入った飲みに行こうとする騎士たちの会話がレオニダスを焦らせていた。
「今日こそノエルちゃんさそおーぜ!」
「お前早く誘ってこいよ〜。」
結局ノエルは誘われる前にさっさと帰ってしまったが、明日はどうなるか分からない。
ノエルは綺麗だし、優しい。
すぐに誰とでも打ち解ける気さくさはないが、話しかけられると丁寧に答えるし、団員の名前も覚えているようだ。
何より、討伐に我が身を省みずに参加する姿には所詮は貴族の箱入り娘、と侮っていた奴らもその認識を改めざるを得なかったようで、討伐隊内でのノエルの人気は日増しに高まっていた。今はまだ本当に思いを寄せる男はいないかもしれないが、ノエルとの距離がこのまま縮まれば、そういう男が出てきてもおかしくは無い。
ノエルを取られたくない。そんな焦りに突き動かされて、レオニダスは前を歩くノエルに声をかけた。
愛が重いですがノエルは全然気づいていません。