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あれ?私、戦ったら強くない?

ややグロ注意?です。

昨日のレオニダスは、変だった。

いつも通り不機嫌でイライラしてると思いきや、お菓子をくれたし。それに結果的には、宿まで送ってくれた。

まさか怪我でもして調子が狂っているのかと思ったけど、そういうわけでもなさそうだった。


なんだか釈然としないけれど、ノエルもレオニダスも、もう子供ではない。

昔のようにいがみ合う関係は辞めようということだろうか。


そんなことを考えながら、まだ魔物討伐があまり進んでない森を進む。

町の人々の証言を合わせると、この森の奥には昨日戦った炎を操る魔物がまだたくさんいそう、とのことらしい。

足場もいいとは言えないが、小さいころからの鍛錬のお陰でノエルは難なく騎士たちについて行ける。

装備品が少なく軽いので、ノエルの方が身軽に動けることもあるくらいだ。

騎士になるという夢は果たせけなかったけれど、あの努力は無駄ではなかったのだと思った。


その時だった。


後ろから、なにかの気配がして反射的に右に飛ぶ。

ついさっきまでノエルのいた地面が大きくえぐれた。

振り返るとそこに居たのは、大きな魔物だった。


ぞわり。


鳥肌がたつ。


魔物退治に同行しているとはいえ、ノエルが直接魔物に明確な殺意を向けられるはこれがはじめてだった。


こんなに、禍々しい生き物なのか。

生きた魔物はいままでみたどんな生き物より生理的な拒否感を覚えるものだった。


そんな魔物がもう一撃、と今度は魔力を口にためている。

恐らく火を吹こうとしている。


まずい。


この辺りでの目撃情報もなく、毎日通っていても魔物の痕跡などなかったため、ここで戦うことになると思っていた騎士たちはまだ戦闘体勢がとれていない。

何人かはとっさに剣を構えてはいるが、魔法陣は間に合わないだろうし陣形もぐちゃぐちゃだ。

前方を歩いているだろう団長や副団長であるフェリックスの姿もない。


今こちらに炎を吹かれたら一溜りもない。


ここまで瞬時に考えて、あとはほとんど反射だった。


今から魔物に炎を吹かせないことはできない。しかし、向きをそらせることならーーー。

そう考えてノエルは足に力を込める。自分の骨が、筋肉が、軋んで悲鳴をあげるのが分かったがそれを無視して入れ続ける。

ばきっ。

自分の骨が砕ける音が聞こえる。しかしそれを瞬時に治しまた力を込める。骨が砕ける。治す。力を込める。筋肉がちぎれる。治す。

それを繰り返してノエルは跳んだ。


次は右手にさっきと同じようにして力を込める。筋肉が、骨が、限界を迎えて壊れる。しかしそれをすぐに治して力を込める。


そして、

ノエルは、


魔物の左頬をぶん殴った。


ノエルが顔を殴って向きを変えたにより魔物が炎を吐いた方向には誰もいなかった。


よし、いける。


ノエルはひるんだ魔物の隙を逃さず、今度は顎の下を全力で殴る。

魔物は脳震盪を起こしたのかふらふらと数歩よろめいて、そのまま大きな音と共に倒れてしまった。


数瞬あけて、ノエルと魔物の戦い、というかノエルの一方的な暴力に驚いて我を忘れてた騎士たちがわ

っとノエルに近づいてきた。


「すげーな!なんだいまの!」

「めっちゃくちゃとんでたぞ!」

「強いんですね!」


なんやなんやと褒められながらもみくちゃにされていると、最前列にいたであろう団長とフェリックスが近づいてきた。

なんだか気恥ずかしくて少し目をそらすと、皆から少し離れた場所に驚いたように立ちすくむレオニダスも立っているのが見えた。


「これは・・・どういうこと?」


騎士たちに囲まれるノエル、その横で伸びている魔物をみて、フェリックスが驚いてそう聞くと、一部始終を騎士たちが口々に話し始めた。




▷▶︎▷




「つまりこういうこと?」


だいたいの話をきいたフェリックスが纏める。


「魔物に襲われたノエルちゃんは、なんとかしないとと思って、自分の体の限界以上の力で戦った。体にかかる計り知れない負荷のせいで何回も骨折したり筋肉が損傷したけど、それを瞬時に治して、魔物を殴って倒した、と。」

「はい、そうです。」


改めて言葉にするとえぐいな、と他人事のように思いながら頷く。

フェリックスの横でずっと黙っていた団長が口を開いた。


「それと同じことを、俺たちにもできるか?」

「それは難しいです。」


優秀な団長だな、と思った。

実際目にしたわけでもなく、寝耳に水な話だろうに、実践的に利用できるかをすぐさま考えたようだ。


「負傷してすぐに治すには、怪我を負った部位が正確に分かっていることが大切です。それに何より、私の体には私の魔力が満ちていて、怪我を治すためにもともとある魔力の流れを少し変えて利用しているだけなんです。だから、他の人をあの速さで直すのは厳しいかと思います。」


そう理由を付け加える。

ついでにいえば、自分の怪我を治すために必要な魔力は他人を治すために必要な場合と比べてかなり少なくて済む。

そういったことが重なっただけの急拵えの戦法だった。


がっかりさせたかな、と団長の顔をちらりと伺うが顔色が読めない。横にいるフェリックスに視線を向けるとにこっと微笑まれた。

聖女として守られるだけでなく、騎士のように誰かを守れるかと思ったけれど、やはりノエルには無理なのだろうか。そう思って落ち込みそうになっていると、


「よし!作戦を変えるぞ!」


そう団長が勢いよく言い放った。




▷▶︎▷




それから、魔物討伐の陣形は大きく変わった。

いままではノエルを守るため最後尾に位置させていたため、怪我人の運搬やノエルの護衛に人数を割く必要があった。

しかし、ノエルが自分の身を守れる、それどころかある程度戦えると分かったので、ノエルを比較的全線近くに配置し、護衛の人数を減らした。怪我人を運ぶ騎士も少なくて済むようになり、魔物討伐に直接的に参加する人数が増加、それによって効率がかなり上がっていた。


戦闘に参加する人数が増えたことで、お互いのフォローが手厚くなったたため、怪我をする人も減り、ノエルの魔力消費も随分と抑えれている。


周りの様子に注意を払いつつ、左から襲ってきた魔物を切り払う。

初日と違い、ノエルには騎士たちと同じ剣が与えられた。もともと剣の扱いは嫌という程練習してきたのだ、足りていなかった筋力や体格を治癒魔法での戦い方でやや無理やりとはいえカバーすれば、ノエルの戦力は討伐隊の中ではかなりのものとなっていた。


なにも、無駄じゃなかった。


聖女に選ばれて、騎士にはなれないと分かってからも、希望が捨てられなくてずっと続けていた鍛錬。

やっても意味がないと分かっていても辞められなかったけれど、辞めなくてよかった。

ノエルは、心からそう思った。


憧れていた騎士にはなれなかったけれど、騎士たちと肩を並べて戦える、今の自分がノエルは好きだった。

本当に治癒力があればこんな戦い方できるのか?と思われるかもしれませんがそこはファンタジーなので目を瞑ってください。

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