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レオニダスの魔物討伐

習慣とは恐ろしい。

幼い頃からノエルに悪態をついたり悪戯をしたりして気を引いてきたので、それ以外の方法が分からない。


優しくしようと思っていても、いざノエルを前にすると照れてつい思ってもないことが口をついてでてしまったりする。

それだけでなく、ノエルがレオニダスには冷たいのにフェリックスを始めとする討伐隊の人間には優しく、時には笑顔で話すのもイライラして、ノエルに当たってしまう。


子供か、俺は。


そう思うのだが、全く治せずに時だけは過ぎていくのだった。



▷▶︎▷




このひと月、やや慣れては来ているが、魔物討伐への同行、さらに頻回の治癒魔法で明らかにノエルは疲れているようだった。

人前で弱った様子は微塵も出さないが、ふとした表情や仕草に疲れが滲み出ている。


この町の名産は、ノエルの好きそうな甘味だった。


ノエルは小さい頃から甘いものが好きだった。

レオニダスは大して甘味には興味がなかったが、昼過ぎのおやつの時間をノエルと過ごすのはお気にいりだった。

その時ばかりはノエルも稽古をやめ、にこにこしながらお菓子を頬張り、これは美味しい、あれも美味しいというノエルを見るのは楽しかった。


疲れているようだし、あの時のように少しでも笑って欲しくて。

もしかしたら少しだけでもレオニダスを好ましく思ってくれるかもしれない。そんな下心もあって、こっそりと名産というクッキーを買ってみた。


しかし、渡すタイミングが掴めず、購入からすでに3日が過ぎようとしていた。

焼き菓子で日持ちするとはいえ、早めに渡した方がいいのは明白であるし、割れないようにこっそり持ち歩くのも気を使う。


4日目にしてやっと勇気を振り絞って帰路に着いたノエルを呼び止めることに成功するが、いつものようにけんか腰での会話に落ち着いてしまい、真剣に己の性格を呪った。


横に並んでノエルと歩いているのが嬉しくて、それだけで幸せで、クッキーを渡すという簡単なこともできず、胸がいっぱいだった。

でも、2人の間に続く沈黙のせいでノエルにつまらない男と思われたらどうしようという思いで焦ったレオニダスの口から思わず、


「副隊長とは、仲がいいのか。」


という台詞がこぼれた。

確かに、ずっと気になっていたことではある。ノエルの兄であるクリフォードと同期なので顔見知りであることは不思議ではないが、それを踏まえても仲がいいので気になっていた。有り体に言えば嫉妬していた。

それにしても、なぜやっと出した話題が他の男・・・。


悔やむレオニダスを他所に、戸惑いながらもフェリックスへの親しみを述べるノエルにいらだちが湧く。もちろん八つ当たりだとわかっているが、苛立つものは仕方ない。

レオニダスはクッキーを渡したかったことを忘れて、嫉妬丸出しでノエルに詰め寄った。

その時、まさにレオニダスの苛立ちの原因ともいえるフェリックスが通りがかった。


ノエルはノエルでレオニダスには決して見せないよ笑顔を浮かべながらフェリックスと話しはじめる。しかも、フェリックスがレオニダスが渡そうとしていたのと同じクッキーをノエルに差し出して、レオニダスの気分は最悪だった。


ノエルは黙っていると大人びている顔を綻ばせて、子供のころを彷彿とさせるような喜び方をしている。レオニダスは、そんなノエルの横顔を見ているだけだ。

幼い頃と何も変わっていない立ち位置に嫌気がさす。


俺が、そんな顔をさせたかったのに。


フェリックスと話すことに夢中でノエルはこちらに視線を寄越さない。


今も昔も、レオニダスが見るのはノエルの横顔ばかりだ。


そう気づいて、レオニダスは成長していない自分が情けなくなり、ノエルとフェリックスに背を向けて歩き出した。

ここではない、どこかにいきたい。

自分を睨むノエルも、悪態に膨れるノエルも、どんなノエルでもいい。笑顔が見られなくても、ノエルがレオニダスを見てくれるならそれでいい。

今のように、他の男に微笑みながら話すのを横でただ見ているのは、レオニダスには耐えられなかった。


後ろで呼び止める声が聞こえたような気もするがレオニダスは小走りでその場を走り去って、自分の宿へと戻った。




▷▶︎▷



レオニダスの止まる宿は、聖女であるノエルの泊まる宿に比べるとランクが下だ。さらに、騎士団の中ではまだまだ下っ端のレオニダスは同期入団したライアンと同部屋である。


付き合いの長いライアンは不機嫌そうに帰ってきたレオニダスを見るとなにも言わず部屋を出ていった。

恐らく、食事にでも行くついでに1人にしてくれたんだろうと思い、レオニダスは感謝する。


口下手で不器用な自分が嫌で、今は誰とも話したくなかった。


しばらく1人でベッドの上で横になっていると、コンコン、とノックの音がした。

ライアンだろうか、自分の部屋なのだからすぐに入ればいいのにそんなに気を遣わせてしまったか、そう思いながらドアを開けると、


「こ、こんばんは。」


そこに立っていたのはノエルだった。

驚きすぎてとっさに言葉につまったレオニダスをみて、まだ怒っていると勘違いしたのかノエルは言い訳じみた釈明をはじめた。


「せっかく一応は送ってくれたのに、お礼を言う前に急に帰っちゃったでしょ。なんだか、不機嫌そうというか、変な感じだったし、もしかしたら怪我でもしてるのかなと思って。討伐に来てから、レオの怪我、まだ1度も治してないわ。」


・・・心配、してくれたのか。

胸がぎゅっと締め付けられるようだ。

痛いけど、甘くて、悪くない。


ふらふらと、部屋の中に戻る。

ずっと割れないように持ち歩いていたクッキーの袋をとって戻ってきて、ノエルへと差し出した。


「やる。」

「え?あれ?これ、ここの名産のクッキー?私に買っててくれたの?」


ノエルが目を大きく見開いて驚きの声をあげる。

そんな顔もかわいいな、と思ってみていると、


「ありがとう。」


そういって、ふわりと、花が咲くように、ノエルはレオニダスに笑いかけた。

ノエルがレオニダスに笑顔を向けるなんて何年ぶりか分からないくらい久しぶりだったので、レオニダスは思わず見とれてしまったのだった。



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