レオニダス・ロバーツは騎士である。
レオニダス視線です。
拗らせてる人が男女問わず好きです。笑
レオニダス・ロバーツは騎士である。
この国の騎士は、魔物討伐を行い、その脅威から国民を守っているため、国民からの支持がとても高いのが特徴だ。
レオニダスは多くの騎士を輩出している名家に産まれた。レオニダスは両親を始めとした全ての周りの人間から騎士になることを期待されていた。
レオニダスは祖父や父に似て体格に恵まれており、剣の扱いのみならず、炎の魔法も得意とし、騎士となるための条件は完璧に揃っているといって過言ではなかった。
でも、だからこそ、レオニダスは騎士になりたくなかった。騎士という仕事を嫌っていた。
常に命を危険に晒されながら魔物と戦い国民を守らなくてはならないのも、それを騎士だから当然だと思われるも。
何もかもが嫌で、騎士になりたいとは微塵も思わなかった。
そもそも守らなくてはいけない様なか弱い存在は、淘汰されて然るべきであり、強者がわざわざ守る価値はない。レオニダスは本気でそう考えていた。
しかし、周りの期待を裏切ることも出来ず騎士とるための鍛錬を適当に続けているだけの青年。
それがレオニダス・ロバーツだった。
それなのに、レオニダスの従兄弟のノエル・リリエンタールは違った。
自分と同じ様な環境、どころかノエルは貴族令嬢であり、騎士として生きずとも優雅に暮らせる選択肢を選べるにも関わらず、騎士になりたいという夢にどこまでもひたむきでまっすぐだった。
年に何度かあるノエルと会う機会では、ノエルはいつも鍛錬に勤しんでいた。
髪の毛を高い位置で無造作に結わえ、令嬢とは思えないほど汗と泥にまみれながら己を高めていた。
それだけでなく、治癒魔法も勉強しているらしい。
レオニダスは、鍛錬や勉強ばかりに夢中になってレオニダスの方を見もしないノエルの横顔ばかり眺めていた。
イライラする。
騎士になりたいと思える、そしてひたむきな努力を重ねられるノエルを見るとレオニダスはいつもいら立ちを覚えた。
もっと2人とも幼い時は仲良く一緒に遊んだりもしたのに、兄たちが騎士になってからは、刺激でも受けたのかさらに鍛錬の量を増やし、ノエルはレオニダスとはほとんど遊ばなくなった。それもレオニダスをイライラさせる一因だった。
せっかく、たまに会えたのに。
俺が、遊んでやるって言ってるのに。
幼い頃は2人で一日中遊ぶことも珍しくなかったのに、この頃のノエルはずっと剣や魔法の練習ばかりで端的にいって面白くない。
やり場のない気持ちを解消するために、ノエルに悪態をついて子供じみた嫌がらせをしてみると、負けず嫌いのノエルはやっとその瞳にレオニダスを映して反応してくれる。もちろん、レオニダスの嫌がらせに対しての行動なので、雰囲気は殺伐としたものになるのだが、レオニダスはなんとなく満足するのだった。
そんな拙いコミュ二ケーションしか取れていなかったし、あまり好かれていない自覚はあった。
それでもノエルに構うのを辞められず、会う度に嫌がらせと取られても仕方ないようなことばかりしてしまうのだった。
▷▶︎▷
そんなある日。
レオニダスとノエルが14歳の冬だった。
親の都合もあって、かなり久しぶりにノエルに会えると思ってレオニダスは無自覚に浮かれていた。
それなのに、ノエルはレオニダスのほうに一瞥もくれず、剣を振り回して稽古をしている。
つまらない。
楽しみにしていたのは、自分だけだったのか。
剣ばかり振り回すノエルへの苛立ちを我慢し、興味のありそうな乗馬に誘ってみても断られてしまった。
むっとして、剣の打ち合いをして、負けた方が勝った方の言うことを聞く、という勝負を持ちかけた。
レオニダスが剣を持つところなど見たことの無いノエルは、レオニダスをさっさと追い払いたかったのか一も二もなく勝負を受けた。
そして、ノエルは負けた。
正直、ノエルは強かった。
しかし、レオニダスもノエルと会う時以外は嫌々ながらも鍛錬は欠かしていないし、最近は体つきもしっかりしてきている。努力ではノエルに敵わないし、剣のセンスに関してもノエルはレオニダスに勝るとも劣らずと言ったところだろうが、これが埋められない男女の違いというものなのか。
ノエルはあっけなく負けたのがショックなのか俯いている。
散々自分を放っていたくせにこの程度か、と底意地の悪い気持ちが沸いて、レオニダスは余計なことを言った。
「なんだ、お前あんなに剣振り回してるくせに大したことないのな。全然本気だしてなかったのに、もう終わりかよ。」
本当は結構ぎりぎりだったし、当然全力で挑んでいたが、レオニダスは嘘をついた。レオニダスはノエルに、強くて頼れるんだと、思って欲しかったのだ。
「別に、たまたまだもの!それに、レオなんかより兄様たちのがすごいんだから!次は絶対に負けない!」
ノエルがすぐさま反論する。ノエルの兄たちを引き合いに出されて、レオニダスは鼻白んだ。
そして、思わず言ってしまったのだ。
「なんだよ、あんなに努力だけしてて全然強くなれてないくせに。
お前なんか、騎士になれるわけねーよ!」
思わず口をついて出た言葉は、しかし今までレオニダスが発したどの言葉よりノエルを傷つけたようだった。いつもはすぐに反撃にでるノエルが、だまってその宝石のような蒼い瞳に今にも零れそうなほど涙を溜めるのを見た瞬間、レオニダスは心を鷲掴みにされたように感じた。
なんだこれ。
こんなの、しらない。
しらない、けれど。
ノエルのこんな顔を見れるのは、レオニダスだけがいい。
『国民』とやらを守るのは御免だが、ノエルを守りたい。
笑顔を向けて欲しい。
これが好きということなら、
ノエルにも、レオニダスを、好きになって欲しい。
その時からレオニダスはノエルへの幼い恋心を自覚し、不器用なりにノエルに優しくしようと努力した。しかし、嫌われてしまったものはどうしようも無く、避けられてしまってばかりだった。
唯一変わったことは、守りたい存在ができたため、騎士になる為の鍛錬に熱心になったことくらいだろうか。
15歳になって騎士団に入団してからは忙しく、さらにノエルとは疎遠になってしまったのだった。
次はヒロイン目線に戻ります。