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ノエル・リリエンタールは聖女である。

初投稿です。8話くらいまでは執筆済です。

とりあえず7話までは毎日22時に投稿予定です。

よろしくお願いします。

ノエル・リリエンタールは聖女である。


この国における聖女とは、治癒魔法のすぐれた使い手であることを前提条件として、あとはルックスで選ばれる。主な仕事は各地を巡回しての魔物退治の補助、そしてそれを通じての王国の支持率を維持もしくは上昇させる事だ。歴代聖女は全員ずば抜けて美しい容姿を持っていたとされており、その聖女達が魔物から人々を守り傷ついた騎士たちに献身的に尽くす姿は国民の心を打ったという。


ノエルは治癒魔法の才能を幼い頃から発揮し、周囲の期待に応えてきた。他人の傷病を治すことは勿論、自らの怪我であれば受傷と同時に治すことすら出来るほどの力だった。

それに加え、きらきらと光る陽の光のような金の髪、そして同じ色の烟るような長いまつ毛を透き通った大きな蒼い瞳に冠したその容姿は見るものを虜にした。つやつやとした唇から発せられる声は鈴の音に、シミひとつない肌は絹に例えられた。

能力でも容姿でも、ノエルは聖女として選ばれる前からちょっとした有名人であった。


しかし。

ノエルにとってはそんなことは重要ではなく。




「なんで!わたしは!騎士にはなれないのですか!!」


「なんでって…そりゃなあ」


リリエンタール家の本邸、兄の書斎でリリエンタールは怒りを顕にしていた。

そんなノエルになだめるようにして答えるのは長兄のクリフォードだ。

リリエンタール家は由緒正しい騎士を輩出してきた伯爵家で、例に漏れずクリフォードは王国に使える騎士である。


ノエルはそんなリリエンタール家の4人兄妹の末っ子であり、兄は3人とも騎士として王国を支えている。

そんな兄達の背中をみて育ったノエルは、いつか自分も騎士になることを夢見て、幼い頃から武術に打ち込んでいた。実際、この国には少ないが女性騎士も存在しており、男性騎士に劣らない活躍を見せているため、ノエルの夢は決して実現不可能な夢ではなかったはずだった。


それなのに、だ。


「聖女に選ばれたから、騎士にはなれないなんておかしいです!」


先月のことである。先代の聖女の引退を機に、国中の治癒魔法の使い手が集められた。

ノエルも召集がかけられたためにしぶしぶ参加したものの、やる気は微塵もなく、まさか選ばれるとは思っていなかったのだ。


しかし、ノエルは選ばれた。


17歳の夏だった。

辞退するなどという選択肢は用意されておらず、ノエルの名はあっというまに聖女として王国中に広まってしまった。

一縷の望みにかけ、兄に頼んで聖女と騎士を兼任できないか騎士団に問い合わせてもらったが、結果は当然のように否だった。


騎士になる道は閉ざされてしまったのだ。


(ずっと、騎士になりたくて努力していたのに。)

そう思うと、じわりと涙が滲んでしまう。

誤魔化そうと目を豆だらけの手で擦る。騎士になれないというのに長年続けた習慣は辞められず、ノエルは未だに毎日の鍛錬を続けていた。


そんなノエルを見ながらクリスフォードも複雑な気持ちだった。聖女に選ばれる名誉さは分かるが、ノエルが産まれてからずっと近くで騎士になるために頑張っているのを見てきたし、兄様のように騎士になりたいんです、とまっすぐな瞳でいわれるのはくすぐったくも嬉しいものだったのだ。

しかし、そんな気持ちはおさえこみ、励ますためにノエルを諭した。


「仕方がない、もう決まったことだ。聖女はその時々で1人しか選ばれないのに、それに選ばれるなんてとても名誉なことなんだ。

それに、来週から魔物討伐に同行するんだろう?」


何回も、何十回も同じようなことを言われた。

しかし、今のノエルにとっては誰の言葉も、ましてや兄の言葉は虚しく響くだけだ。

兄はなんだかんだ言っても騎士で、憧れて努力して騎士に慣れなかったノエルとは違う。

自分のためを思い慰めてくれているのは分かっているが、じりじりと劣等感を刺激される。優しい兄に対してそんな気持ちを抱いてしまうことに嫌気がさし、ますます気分が落ちこみそうだ。


「ああ、そういえばレオも参加するって」

「なんですって」


涙ぐんでいたノエルだったが、兄の言葉を耳にするなり、涙がぴたりと止まった。


レオことレオニダス・ロバーツは公爵家の長男である。ロバーツ家はリリエンタール家と比肩する騎士を排出する名家だ。昔は仲が良くなく、両家の交流も無かったようだが、ノエルの父の妹がレオの父と結婚してからはぎこちないながらも交流が始まり、ノエルとレオニダスは同い年の従兄弟としてことある事に顔を合わせてきた。


しかし、ノエルとレオニダスは決して仲がいい訳では無い。




「お前なんか、騎士になれるわけねーよ!」




ずっと昔、レオニダスにそう言われたことを思い出す。

丁度、兄たちに力や体格が劣っていることに焦り、もしかしたら自分は騎士になれないのでは、と焦っていた頃だった。

そんな時に大して鍛錬もしていないレオニダスとの打ち合いに負け、悔しくて情けなくて思わず泣きそうになってしまったのを覚えている。

まあ、しおらしい気持ちになったのも束の間、レオをぶん殴ってやった結果取っ組み合いの喧嘩になったが。

2人ともボロボロになってメイドに散々怒られたのが懐かしい。


昔から何かと突っかかってくるムカつくやつだったが、それ以来、顔を合わせるのは更に憂鬱になった。

レオニダスもノエルを嫌っているなら近寄って来なければいいのにわざわざ探しては嫌がらせに興じるのだからどうかしていると言わざるを得ない。


言われた通りに実際騎士にはなれなかった自分と違い、当然のように騎士となっているレオニダス。

心底会いたくないとノエルが思うのは当然とも言えた。

誤字脱字あれば教えていただけると嬉しく思います!

感想、評価、ブクマもすごくうれしいです。

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