悲鳴
俺たちは中央広場を抜け、門扉を越えて郊外へと向かっているようだ。
道中、多くの王国民が選定の参加者を見送ろうと列をなしていた。
「デュリックくん、強くても勇者にはふさわしくないかも、です……」
前を行く参加者は皆国民に手を振られ、緊張した面持ちで手を挙げている。
しかし、いざ俺が前に行くと、多くの民は怯えて声も出ないでいる。
「おい、魔王さまのお出ましだ……」
「ライツ様を蹴り飛ばしたらしいぞ……」
「お、俺たちも殺されちまうんだぁ……」
……酷い言われようだ。
俺のことを何だと思っているのだ。
「失礼なことを言う」
俺が目を向けると、皆一様に顔を逸らす。
「ひ、ひぇっ……。俺、目を合わせちまった……」
「い、石にされるらしいぞ……」
「しっ、声を出すな……! 下を向いてやり過ごすんだ……」
……俺に目を合わせただけで相手を石にする能力などあったなら、とっくに魔王討伐など終わらせていることだろう。
「でゅ、デュリックくん、こっち見ないで、です……」
リリーが自分の手で両目を覆い、小さくなっていた。
「本気にするな……」
俺は頭を抱える。
俺は根っからの平和主義者であり、自ら暴力を振るったことなどない。
ザンピーロにしろライツにしろ、いずれもどう考えたって正当防衛だ。
「俺は殺しなどしていないし、目を合わせると石になるなんてこともない」
「ほ、ほんと、です……?」
「俺は嘘などつかぬ」
俺がそう言うと、リリーはようやく顔を上げて俺の目を見つめる。
勇者の資格を得た後に課題が残りそうだな。
求心力と言う意味においては、先代のシャリテやライツは抜きんでたものがあるのだろう。
そうこうしているうちに、俺たちはクリフィー洞窟へとたどり着いた。
俺が王都へ向かってきた道のりをそのまま逆に辿り、王都を囲む山々の一つに今俺たちはいる。
山道を少し外れた場所にならされた土地があり、その先にはぽっかりと大きな横穴があいていた。
周りを見渡すと、想像していたよりも選定の参加者は少なかった。
俺が斬り伏せた後30分ほどして復活したであろうライツたちは当然として、他にせいぜい10組弱といったところだろうか。
各々、身体を動かす準備をしている。
俺たちを先導してきた受付が前に立ち、厳粛な態度で再度説明を始める。
「さて、ただいまより勇者選定を執り行いたいと思います。選定の方法ですが、私が手を挙げて合図を出すので、一斉にあちらに見えるクリフィー洞窟へと侵入してもらいます。侵入の目的はただ一つ、洞窟内に安置された宝を発見し、持ち帰ることです。より詳細に申し上げますと、私に宝を見せること、それが勝利条件となります」
ふむ。
つまり洞窟内で宝を見つけたとしても、落とした、失くした、奪われたなどの要因で手元から無くなった場合勝利とは言えぬ訳か。
しかし、そうなると――
「なお、皆さんご存知の通り、このクリフィー洞窟が外界と接している部分はあちらの入り口一つしかありませんので、帰りもそこを通っていただくことになります。ですので、例えば待ち伏せといった行為で他人の宝を奪うなどの作戦も可能ではありますが……」
一呼吸置いて、強調するよう高々と言う。
「それは、勇者の行いではありません」
正しくその通りだろう。
どんな手を使ってでも勇者になろうとするその心意気は勇者にとってある意味必要なのかもしれぬが、同時にその者は勇者の器足りえない。
余裕を持ち、勇者然とした態度で乗り越えてこその選定なのだ。
「皆さんは未来の勇者です。いつ何時、誰に見られてもいいような行いを心掛けてください」
お月様は見ています、と彼女は締めくくった。
お月様、か。
相変わらず、灰桜の月は奇妙な輝きを放っている。
客観的に見れば美しいのだろうが、同時にあれは完璧すぎて、見ていると気分が悪くなりそうだ。
「何か質問はございますか?」
「一点、質問がある」
俺は手を挙げる。
「何でしょうか」
「宝を持ってくることが勝利条件と言っていたな。その宝については何も教えぬということか」
「その通りです。そちらも含めて選定とさせていただきます」
「そうか」
探すべき宝の情報はなし、か。
とは言え、粗方予想はつくのだがな。
この辺りが、選定が出来レースと言われる所以なのだろう。
国の騎士団を名乗る人間が宝の内容を知らぬわけがない。
ライツ一行を見やると、俺を強烈な目つきで睨んでいた。
当のライツはというと、俺が目線をやったことに気が付くやいなや、間が悪そうな顔をした。
しかし、その顔はどこか自信に満ちている。
俺に宝の内容が分かるはずはないと高をくくっているのか。
或いは、俺よりも先に宝にたどり着く自信があるのか。
いずれにせよ、負ける気はせぬがな。
そして意外なことに、宝の情報が一切明かされないことについて、周りの参加者から不満の声は上がらなかった。
「お宝の中身どころか、外身すらも教えてもらえないらしいわね」
「そうだなぁ~……。まぁ、俺たち記念参加だしなぁ~……」
「ワンチャンもねぇか、仕方ねぇな」
などと言い、あまり気にしていない様子だ。
見渡すと、ライツと俺たち以外は全員、顔に諦めに二文字が浮かんでいた。
なるほど確かに、勘違いした田舎者の剣士が実態を知らずに選定に参加すると言い出したら、親切な人間なら止めるだろうな。
そして、中途半端に障害となりそうな勢力は、国をあげて内々に処理してしまうということか。
さらに、ライツらが手に入れた宝を奪って勝利するというのは不可能であると事前に釘を刺されている。
しかし、当日になって突然対抗馬が現れるとは思っていなかったのだろう。
仕方なく、騎士団長自らが正面切って殴りに来たという訳だ。
「……この選定、わたしたちがすごく不利、です……」
落ち込んだようにリリーは言う。
「なに、多少の不利などすぐに覆すさ。それより、両親の手がかりを探さなくてはな。何か見つけたら教えてくれ」
「わかった、です……!」
一通り質問が出切ったのを確認すると、受付は手を挙げ、選定の開始を宣言した。
「よ~~い……、はじめ!!」
ライツ一行も含め、10組弱の面々が一斉に走り出す。
「うおおおおおおぉぉぉ!」
半ば諦めながらも、希望は捨てていないといった様子だ。
しかし、当の俺はというと。
リリーの手をしっかりと握り、はぐれないようにとゆっくり歩き出していた。
やっと洞窟の入り口へ差し掛かる。
「急がないと、です……!」
「いや、大丈夫だ。俺の予想が正しければ、ライツらも含め、俺以外の者は宝を見つけることなどできぬ」
「どういうこと……、です……?」
「まぁ、リリーは何も心配するな」
そう言って頭を撫でる。
ちょうどそのとき、雲間から月が顔を出した。
月から降り注いだ光は俺たちを照らし、巨大で奇妙な影を形作る。
それらは洞窟の入り口へ吸い込まれたかと思うと、暗闇に呑まれて消えてしまった。
「こ、こわい、です……」
「ゆっくり行こうか」
こうして、俺たちが洞窟へと進入した直後。
――キャアアアァァァァ…………!――
大きな叫び声が至る所から聞こえ、そして、足音一つ聞こえなくなった。
事件の香り……!
次回、名探偵デュリック!
ネクストデュリックズヒ~ント!
「槍」!




