親友
若干(?)グロ注意です。
ライツは駆ける。
エヌスを翻弄するかのように、その周囲を囲むような円軌道で駆け回る。
「聖剣を失って速度が落ちていないか?」
エヌスが言う。
「間に合わせの剣だからね、仕方ないでしょ。けど――」
ライツはエヌスの側方から水平に切り結ぶ。
ガキン、と綺麗な金属音がして、剣は弾かれた。
「エヌス、これは近付かれ過ぎじゃない? 剣士を懐に入れてはいけないって習ったじゃん」
ライツは言いながら、弾かれて流された剣の重みすらも遠心力へ変えて加速する。
足元は昨日の大雨によってぬかるみだらけであるにも拘らずそれを全くと言っていいほど感じさせないその足取りは、傍から見れば芸術であった。
「言ってろ」
エヌスは言って、構えを取る。
今の踏み込みを見逃したのは一種の誘いである。
後はお前が乗るかだが……。
エヌスが考えていると、ライツが再び仕掛けてきた。
移動による遠心力に加え、身体の捻りによる遠心力までもを加えた足元への斬撃。
――一瞬、互いの目が合った気がした。
ニヤリと笑う二人。
これは、子供の頃から幾度となく繰り返してきた型の一つであった。
言うなれば、演武である。
開始の合図などない。
しかし、共に歩んできた時間が、努力が、この刹那の間に二人の心をたった一瞬だけ通じさせた。
エヌスは地に刺した槍の腹で足元の斬撃を受けると、次なる攻撃へと備えて槍を手元へ引き戻した。
予定調和な胴への突き。
ほんの少し身体を逸らすことで回避するエヌス。
次の手は……。
大振りの真向斬りである。
エヌスは見え見えの攻撃を横へ飛んで回避した。
この幾度となく繰り返されてきた型においては、ここで攻守が入れ替わる。
槍を突き出すエヌス。
これをスライディングの要領で躱すライツ。
「意外だね。まさか乗ってくるとは思わなかったよ」
「そうか? オレにはお前が乗ってきたように見えたが」
「そうかも、ねッ!」
言って、捌き切った槍の懐へ入るライツ。
しかし、その疾走はエヌスの放った蹴りによって止められる。
いずれも型通り。
「オレとしては、時間を稼げればそれで勝ちだからな」
「ん……? あぁ、もしかして彼が帰ってくるのかな」
言いながら、ライツは真横に振り回された槍による斬撃を回避する。
やはり型通り。
「そうだ。じきに勇者さまがやってくるぞ。バケモノみたいな強さの大天使さまのオマケ付きだ」
「それは困った、ねッ!」
袈裟斬りを放つライツ。
エヌスはそれを槍の先端で受け流して地面へ突き刺すと、そのままの流れで再び水平に切り結ぶ。
ライツは前宙で回避しながら剣を回収して再びの真向斬りを放つ。
その斬撃をエヌスは後ろ飛びで回避し、そのまま突きを放った。
いずれも型通り。
「やっぱり時間稼がれると面倒だなぁ。こうするしかないかぁ……」
ライツは放たれた突きを横跳びで回避――
「――は?」
しなかった。
グチャ、と嫌な音がして、心の臓を槍に貫かれたライツが吐血する。
「なぜ横に飛ばなかった! こんな……、こんな……!」
ライツから溢れ出た血液が槍を伝い、エヌスの手を汚す。
強張り切ったエヌスの手は槍に張り付いたようになっていて、手を放したくても放せなかったのだ。
「エヌス様……、これは一体……?」
騒ぎを聞き駆けつけた村長が後ろから声を掛ける。
「ち、違う、違うんだ……! こ、こいつは教団の構成員で……!」
言い訳がましく村長の方へと向き直るエヌス。
実際のところ、何ら問題はないのだ。
騎士団員であるエヌスが、今や犯罪者集団と成り果てた教団の構成員であるところのライツを殺害したとて、法的な問題など何もない。
「うしろ、うしろ、です!」
しかし目の前で起きた親友の死という衝撃的な出来事が、エヌスの判断を、行動を鈍らせた。
「やっぱりね、エヌスならそういう顔をしてくれると信じていたよ」
エヌスが振り返ると、そこには左胸を槍が貫通した状態で飄々と喋るライツがいた。
完全に固まるエヌスの思考。
ガシ、と槍の持ち手を掴みかかるライツ。
「ま、待て、そんなことをしては傷が広がって――」
グリグリグリ。
エヌスの手に、ライツの身体を貫き進む槍の感触が伝わってくる。
わずかに伝わる振動の中には、ライツの脈動が、息遣いが、そして滴る血液の粘り気がないまぜになっている。
エヌスは全身を襲う悪寒に最早何も出来なくなっていた。
「この手はあんまり使いたくなかったんだよ。なんたって、痛いものは痛いからね」
そう言って、ライツは更に槍を身体の奥へ奥へと捻じ込んでいく。
今や二人は目と鼻の先の距離に立っていた。
「でも、この手は絶対キミに効くだろうからね」
ライツはぐい、と大きく振りかぶり、エヌスを殴打した。
完全に気を失った状態で吹き飛んでいくエヌス。
「エヌスさん……!」
リリーが叫ぶが、その声に反応する者はいない。
ライツはそのまま槍を身体に貫通させ切ると、胸に空いた大穴を手で押さえた。
途端に場違いなほど神聖な光が射して、皮膚がうねうねとうねったかと思うと、次の瞬間にはそこから綺麗になった皮膚が現れた。
「いってぇ~……。まぁいいや、じゃ、いこうか」
ライツはそう言って目にも止まらぬ速度でミーノの下へ行くと、そのまま抱きかかえる形で走り出した。
後にはなぜ二人が争っていたのかすら理解していない村人たちとあたふたするリリー、そして気を失ったエヌスのみが残されていた。




