決意
無事、一夜が明けた。
空は既に快晴である。
寄合所では村人たちがちらほらと起床し始めていた。
デュリックらが去った後、捜索が再開されることはなかった。
連日の大捜索で疲れの溜まっている村人たちを見た村長は、ミーノの無事を確認したところで一度休憩を指示したのだった。
いち早く起床した村長は、村人たちの中に新たな行方不明者がいないかを名簿と見比べながら丁寧に確認して回っていた。
「……おはようございます、です……」
寝惚け眼を擦りながら、リリーが身体を起こす。
「む、おはよう。目が覚めたか」
エヌスは村長の手伝いをしながら村人たちにパンを配っていたが、リリーが起きたのを見てそちらへと向かって行った。
「みなさん、早い、です……」
結局、昨晩床に就いたのは2時を回ってからだった。
現在朝の6時である。
「まぁ、日に日に隣人が消えていく中で熟睡するってのは逆に難しい話なんじゃないかな。オレたち以上に不安で眠れないんだろう」
エヌスは言って、同じようにパンを手渡す。
欠員のいないことを確認し終えた村長が二人の下へと歩いてきた。
「起こしてしまいましたかな? 勇者一行の皆様をこのような粗雑な環境でしかお迎え出来ないこと、本当に申し訳ありません。ましてや色々と協力までして頂いて……」
「だいじょうぶ、です。わたしたち、人だすけが大好き、です」
リリーはそう言ってはにかむと、先ほど渡されたパンを一切れ口に入れた。
「人助けが好きかはともかくとして……。とりあえず、新しく行方不明者が出なくてよかったな」
村長は大きく頷く。
「えぇ、全くです。本当にヒヤヒヤする作業なんですよ……。ところで、本日のご予定はどのようになっておられますかな?」
エヌスは少し考えると、リリーに目配せしながら口を開いた。
「そうだな、村人のキミたちの行動次第といった感じだ。一応アイツからはキミたちを守るようにと言われているから、キミたちが捜索に向かうならオレたちもそれに追従することになる」
「本当ですか! 正直なところ、ティリーばあさんがかなり心配なんです……。他の行方不明者はある程度若い者たちでしたから数日程度はまだ大丈夫かもしれませんが、ティリーばあさんの場合は80を超えてますのでそうもいきませんで……」
「昨日の行方不明者だったかな。デュリックはほぼほぼ誘拐事件だと断定していたが、まだそうだと決まったわけでもないからな。外で一人過ごしていたりなんかすると本当に危険かもしれない。本当に誘拐されていたとしても身体に間違いなく負担がかかるだろうからな」
エヌスはそう言って、窓の先に広がる雲一つない快晴を見た。
外は台風一過といった様相で、昨晩の暴風雨が如何に強力なものであったのかをより一層感じさせるのだった。
「正しくそうなのです。それに――」
村長はそう言って、未だに可愛らしい寝息を立てて眠っているミーノを見やる。
「あの子に二度も親を失わせたくないのです」
決意にも似た眼差しでそう言った。
昨晩の話によれば、10年前、ミーノの両親はデュリックによって殺されているのだ。
「本人は両親について何か知っているのか?」
「えぇ……。本当は伝えたくなかったのです。憎しみの伝搬は悲しみを産むだけですから。しかし……、多くの村人が彼の大悪魔を恨んでいる以上、どこかで耳に入ることは避けがたく……」
「そうか……」
陰鬱とした空気が流れる。
よく事情を知らないエヌスにとっては、何が最善で何が慰めとなるのか分からないのだ。
そして、これが興味本位で首を突っ込んで良いものではないという点を弁えるエヌスにとって、それ以上何かを言うことは出来なかった。
見かねて、リリーが口を開く。
「かんたん、です! 助ければいい、です!」
その大きな声に反応してか、ミーノが目を開けた。
「……朝ですか?」
すかさずリリーは駆け寄る。
「ミーノちゃん、ティリーおばさんをみんなでさがしに行く、です! ぜったいたすける、です!」
ミーノはその気迫に若干気圧されながら、支度をすることとなった。




