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共闘

「――なさい! 起きなさい! 起きろ!! あぁもう、こいつもか!!!」


 スコーンと気持ちの良いハリセンの音がして、俺は目を覚ました。


「む、朝か」


 俺は目をこすりながら立ち上がり、野宿によって鈍った身体を伸ばす。


 早朝の森は湿度が高く、むわっとした空気から感じられる独特な木々の香りが俺の覚醒を促した。


「まさかアンタまで朝が弱いなんてね」


「その口ぶりからして、創世神もそうだったのか?」


「えぇ。まぁアイツの場合は眠るの規模が違うんだけどね。数年眠ったままなんてのはザラなわけだし」


 ルージュは心底呆れた顔でそう言うと、どうやら朝早くからかき集めていたらしき枯草やら薪やらに魔力で以て火をつけた。


「ここまではやってあげたわ。で、どうせ食材か何か持ち歩いてるんでしょ?」


「あるにはあるが……」


「一人で食べる気?」


 ……仕方あるまい。


 俺は四次元収納から適当に小ぶりな鍋と飯盒2つ、そして水と米を取り出す。他の食材はまた後で取り出せば良いだろう。


「思ったよりちゃんとしたサバイバルセットが出たわね……」


「まぁな。食への拘りは文明の第一歩だ。これに拘らぬほど貧しいこともあるまい」


 俺は米を研ぎ終えると、枝を駆使して鍋と飯盒を吊るすことができるような支えを作った。


「だからってアンタねぇ……」


 鍋に水と昆布を入れて支えに吊るし、飯盒には水と米を入れて一旦その場に置く。


「飯盒で米を炊くときにはこの浸水させる工程が最も重要なのだ。しかしまぁ、今日のところは簡易的に済ませるとしよう」


 今何より優先すべきなのは、行方不明者の捜索と犯人捜しなのだから。


 俺は魔力で飯盒内の空気を掻き出して内圧を操作し、適度に水を浸透させる。


「もうなんでもアリね……」


 ついでに鍋も無理矢理気圧の低い状態を作り出し、出汁が素早くとれるよう工夫する。


「これも本当は時間をかけたほうが良いのだ。本来であれば15分程度だろうか。残念だが仕方あるまい」


「贅沢は言わないわ」


 ルージュはそう言って肩を竦めると、そこにあった岩にぺたりと座り込んだ。


 俺は手を動かしながらも口を開く。


「それで、お前は今どういう立ち位置なのだ?」


「立ち位置って?」


「創世神とやらにスパイとして送られてきたのだろう? そして、それを隠す気もない」


「だから、スパイってわけじゃないけど……。まぁ大体そんな感じね」


「暇なら手伝えと言っている」


「働かざる者食うべからずってこと?」


 ルージュは俺に向けて手を伸ばすと、俺が行っている人参の皮むきを引き継ごうとした。


「違う。確かにそれはその通りだが、俺が手伝えと言ったのは料理の方ではない」


「人探しの方?」


「それもそうだが、それだけではない」


 ルージュは心底面倒そうな顔をして、嫌々にその言葉を口にした。


「……魔王討伐?」


「そうだ」


 俺は鷹揚にそう言って、料理を再開する。


 俺たちの旅の目的をこの天使に話したことはなかったはずだが、勇者を名乗るくらいだ、その目的は容易に想像がついたのだろう。


「それ、アタシに何のメリットがあるワケ? そもそもアタシじゃアンタにも勝てそうにないってのに、魔王討伐なんて無理に決まってるじゃない」


「だが、今のお前は少なくとも俺たちのそばにいなければならぬ立場なのだろう? 魔族領に入れば周り全てが敵になるぞ。()()()()俺たちの放った流れ弾が当たってしまうやもしれぬな」


「……脅してるつもり?」


 俺は微かに笑いながら、否定を口にする。


「いや? そうは言っていない。しかしどちらにせよ付いて来るつもりであるなら、あらかじめ共闘の契りを結んでおくというのはお互いにとってメリットのある話だと思ったまでだ」


 ルージュは肺が萎むかと思えるほど大きなため息をつく。


「あぁもう、分かったわよ! 魔王討伐、手伝ってやればいいんでしょ!? その代わり、貸し一つだからね」


「仕方あるまい」


 俺はそう言って飯盒を火にかけ、朝食の準備を進めるのだった。




 俺はまぁまぁな出来栄えとなった昆布だしの味噌汁をすする。


「――しかしな、実際のところ、戦力的にも時間的にもかなり厳しいというのが現実なのだ」


「戦力的に厳しい……? それ本気で言ってる?」


 ルージュは猜疑的な目つきで俺を見つめる。


 なぜ俺はここまで踏み込んだ内容をつい昨日出会ったばかりのこの天使に話しているのかとふと疑問に思ったが、まぁ世の中には色々と相性の良い者というのもいるのだろう、これ以上気にするのはやめることにした。


「あぁ、本気だ。俺は確かに魔族の中でも強い部類には入るだろうが、五将会集(サンク・デモネ)、奴らは真の化け物だ」


「五将会集? 幹部的なことかしら」


「そうだ。全員化け物であることに変わりはないが、特に第一席次は化け物だと聞く」


「詳しくは知らないワケ?」


「あぁ。第一席次以外は会ったことがあるのだがな。いずれにせよ、全員俺がタイマンで勝てるような相手ではない」


 これはいずれも嘘ではない。

 俺は実のところ、五将会集についてよく知らぬのだ。

 そして奴らの強さは俺を軽く凌駕している、これもまた現実なのである。


「……前々から聞こうと思ってたんだけどさ、魔王軍幹部と面識があるとか、その異常な強さとか、アンタ一体何者なのよ」


 ルージュは少し考え込む素振りを見せながら、残りの米を口に含み味噌汁で一気に流し込もうとした。


「ん……? あぁ、お前に隠す意味もないか。俺の名はデュリック・ゼーレ・デンハイト。魔王の実子にあたる」


 非常に勿体ないことに、その味噌汁は宙を舞うこととなった。

そこはかとなく違和感を感じていただけると……。

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