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先代勇者

 リリーとエヌスは顔を見合わせる。


 ラント村と言えば、かの有名な辺境の土地である。

 そして、デュリックの生まれらしき土地である。


 エヌスはそんなに遠くまで歩いてきていたのか、と思うと同時に、デュリックの過去について何か知ることが出来るのではないかという淡い期待をおぼえていた。


「そうだが……」


 やや困惑気味にエヌスは言う。


「……! やはりそうでしたか! 唐突にすごく厚かましいのですが……」


 そうして、やや遠慮気味に、ただしはっきりと、そのミーノと名乗る少女は言った。


「私たちを助けてほしいのです……!」


 長く伸ばしたその前髪と、季節の割に厚着なその出で立ちが、その少女の健気な不安と期待を程よく体現しているようだった。

 恐らくは十歳程度だろうか、年齢にそぐわないその物言いが、村での厳しい生活を思わせるのだった。


 二人は再度顔を見合わせる。

 そして、同時に首を縦に振った。

 この場にデュリックがいた場合の行動を思えば、考えるまでもないことだったからだ。


「いいだろう。しかし、助けると言っても事情が分からないことには何を手伝えるのかも分からない。話してもらえるかな」


 エヌスはそう優しく尋ねる。


「……ありがとうございます! でも……、これは私が言うべきことじゃないかもなんですけど……」


 ミーノは困ったように言う。


「安請け合いして大丈夫か、かな」


 エヌスがその先を引き継いだ。


「大丈夫、です! なんといってもわたしたち、勇者一行、なのです!」


 リリーはデュリックに助けられたときのことを思い出しながら、そう元気に宣言した。



「――ところで、お二人のどちらが勇者さまなのでしょうか……?」


 ミーノが尋ねる。


「あぁ、今その勇者さまは不在なんだ。ちょうど今さっき、あいつは女の子を追いかけて森の中に入って行ってしまったんだよ。オレはエヌスという。エヌス・アドラシオンだ」


「わたしはリリー、です。リリー・エスピリテ。エルフ、です!」


 リリーが美しい白髪に隠れた長耳を見せる。


 ミーノはやや驚いた様子で応えた。


「よろしくお願いします、エヌスさん、リリーさん。それでは、今勇者さまは森の中にいらっしゃるということなんですね」


「そうなんだよ。オレたちも何をしに行ったのか分からないんだ。まぁ、あいつのことだから特に心配はしていないんだが……」


 エヌスが困惑気味に語る。


「此度の勇者さまもお強いのですか?」


「そうだな、もしかすると……」


「先代勇者さまより強い、です!」


 リリーが胸を張って言う。


「それはそれは……! 大変心強いです! しかし、先代勇者さまよりお強いというのは流石に盛りすぎでは……?」


 ミーノが期待と困惑の入り混じった顔で問うた。


「オレは一時期先代の弟子をやらせてもらっていてな。あいつの剣術は先代をも越えているかもしれないとオレは思っているよ」


 エヌスは少し嬉しそうにそう応える。


 シャリテ流剣術を間近で見てきたエヌスにとってさえ、あの無刀取りは美しいものであった。

 標的の即時無力化と半強制的な対話を目的としたシャリテ流に勝るとも劣らない何かを感じさせる、素晴らしい剣裁きに思えたのだった。


「……それは……、つまり、此度の勇者さまは先代勇者さまと戦って勝利されたことがあると……?」


「いや、あいつ、デュリックというんだが、あいつは今18だよ」


 その言葉を聞いて、ミーノはより深く困惑した顔を見せた。


「……? 勇者さまのお年が何か関係あるのですか……?」


「いや、関係はあるだろう。先代が亡くなったのはもう20年も前だってのは有名な話だぞ。18歳のあいつが先代と手合わせできるはずがないじゃないか」


 ミーノはその言葉を受け、更に怪訝な顔をする。


「……えっと、先代勇者さまというのはシャリテさまのことですよね……?」


「あぁ、偉大なるレクシウス王を父に持つ、かの先代勇者シャリテ様のことだ」


「シャリテさまが20年も前に亡くなった……? それは絶対おかしいです! だって、だってシャリテさまはついこの前も……!」


 続く言葉に、二人は困惑するしかなかった。



 ――ついこの前も、食糧を分けにいらっしゃったのですから。

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