大天使
「……ぁぁぁぁああああああああ~!!!」
何かが、いや、何者かがこちらへ向かって落ちてくる。
……。
このままだと俺たちの頭上に降ってくる。
俺は大丈夫にしろ、リリーとエヌスに直撃すればかなり危険だろう。
俺はそう考え、結界術式を行使する。
「弘誓の鎧」
俺を中心に展開した鎧状の結界が俺たちを包み込む。
「へぶしっ!」
見やると、ちょうど俺の真上に何者かがぶつかり、叩かれた蝿のようになって張り付いていた。
それはもう、すごい顔だった。
「あー……、……大丈夫か?」
一応声を掛けてみる。
何者か分からぬが、なんというかいたたまれない感じな上、邪悪さは感じられない。
「アンタにはこれが大丈夫に見えるわけ?」
その何者か分からぬ者は、大変不服と言った面持ちで俺を睨みつけた。
「……お前のその大層な翼は何の為に付いているのだ?」
「あ」
奴はそう一言漏らすと、翼を広げて中空へと浮かび上がった。
俺は結界を解除する。
「アタシこそが大天使、ルージュ・アルグリースさまよ! 崇めなさい!」
大天使と名乗ったその者は、胸を張り手を広げてそれらしいポーズを取った。
と同時に、背後から何やら美しい後光のようなものが差す。
赤く腫れた顔で威張るその様は、形容し難いほどに滑稽だった。
「だ、大天使ルージュさま!?」
俺の思いとは裏腹に、エヌスは何かありがたーいものを見たかのような顔をしている。
「大天使ルージュ? 何者だそれは」
「君、知らないのか!? かの創世記に登場する大天使さまだぞ!」
リリーもあまりピンとこない様子だ。
創世記……?
『唐紅の短剣』のことだろうか。
なるほど確かに、そんな名前の天使が出てきたかもしれぬ。
言われてみれば、魔力の波長が今までに観測したことのない形状をしている。
ただ何というか、改めて見てもちゃっちいという印象しか浮かばなかった。
「あー……、いや、盛り上がってるところ悪いんだけど、たぶんその創世記のルージュとアタシは別人よ。大天使は世襲制なのよ」
「で、その大天使とやらが何用だ?」
「何用ってアンタねぇ……。というか、やけに呑み込みが早いわね。大抵アタシが天使名乗っても信じてくれないから、説得から始めるのが普段なんだけど」
ますますいたたまれぬ気持ちになってくる。
俺が哀れみの目を向けていると、何か俺の意図に気が付いたのか睨み返されてしまった。
「悪魔を見たことがあってな。悪魔が実在するならば天使も実在するのだろう」
俺は応える。
もっとも、俺はこの目で見たものしか信じぬ。
ただ、魔力波長は嘘を吐けぬのだ。
未知の波長を持つ者が天使と名乗るならば、現状はそうだと信じるしかあるまい。
……謎の後光も差していることだし。
「悪魔に出会って生き残ったわけ!? アンタこそ一体何者よ……。まぁいいわ。アタシ今、盗まれた杖を探しているのよ。これくらいの大きさで……」
「これの事か?」
俺は四次元収納を展開すると、例の怪しげな杖を先端だけ覗かせた。
「……驚いた。アンタ次元魔法なんて使えるのね。とにかく、それ、返してもらえるかしら? それがないとアタシ、天界に帰れないのよ」
「断る」
「ありが……、どうしてよ!」
ルージュは頬を膨らませ、不機嫌そうな顔をした。
そもそもこの杖は謎が多すぎる。
というより、出所からして危険なものである可能性が高い。
「見ず知らずの天使を名乗る不審者に渡せる代物ではないのでな」
「あぁもう! どうしてどいつもこいつもこうなのよ! ……仕方ない、実力行使で行かせてもらうわ」
ルージュはそう言うと、先ほど出てきた深紅の穴と同種の魔法を展開し、その中から何やら弓のようなものを取り出した。
「二人は下がっていてくれ」
俺はそう言って、聖剣を構えるのだった。




