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プロローグ 堕天

 月が出て、一人死んだ。

 扉が開いて、もう一人死んだ。

 別の扉が開いて、また一人死んだ。

 その扉に巻き込まれて、ついでに一人死んだ。

 慈悲深き母は父に刺されて死んでいた。

 気の狂った父は僕に刺されて死んだ。


 その日から、世界は一変した――。




「――ください! ――てください!」


 僕の嫌いな声が聞こえる。

 僕はいつだって休んでいたいのに。

 いつだって、この声にたたき起こされる。


「――きてください! 起きてください! あぁもう、いい加減起きなさいよこのダメ神さま!」


 殺意の籠った蹴りが顔面にヒットしてようやく、僕は体を起こした。


 頭が痛い。いや、確かに今さっき頭を蹴られたばかりだけれども、そういうことじゃなくて。


「何年寝てた?」


 僕は尋ねる。

 今さっき僕の顔面を蹴り飛ばした、目の前の彼女に向かって。


「はぁ~~~……。……そうね、大体()()くらいかしらね」


 心底あきれた様子の応えが返ってきた。


 千年か。

 まぁ、少し寝すぎたかもしれない。

 いくら諸々の処理を自動化しているとはいえ、いささか職務怠慢気味なのはいただけないかもな、うん。


 彼女は腕を組むと踵を返し、数歩歩くと何かを拾い上げた。


 どうやら紙のようだった。

 蹴りの助走をつけるためにわざわざ置いたものらしい。


 彼女の赤い髪がなびく。

 純白の翼とのコントラストが美しかった。


「で、何の用だ」


 彼女は待ってましたとばかりに紙をこちらへ押し付ける。


「あぁそう、そうなのよ! 非常事態なの! こんなときまで寝てる神様のせいで今さっきまで忘れてたじゃない!」


 腹いせのつもりだろうか、嫌味ったらしく紙を促す彼女にのせられ、僕はそちらへと目を向ける。


「緊急、ダフェロスの杖盗難に関する報告書……?」


「そうなのよ! 倉庫で管理してあったはずの杖がいつの間にか無くなってたの! どうも人間が持ち去ったみたいなんだけど……」


「人間ごときが……?」


 僕は寝起きの頭で考えを巡らせる。


 人間があの杖を盗んだ……? わざわざ未完成のあれを……?

 そいつの目的は何だ……? 今どこにいる……?

 そして、今、杖はどこにある……?


「さっぱりわからん!」


 僕は一通り考えるフリをし切ると、もう一度ベッドへとうつ伏せにダイブした。


「寝る!」


「寝るな!」


 スコーンと頭をハリセンで叩かれた。

 ……どこから取り出したんだよそれ……。


「まったく、神様に向かってなんだねその態度は?」


「そういうことは神様らしい行動をしてから言いなさいよ! この暇人!」


 神に向かって暇人とはなんだ。


 まぁ、そういうことならいいさ。

 こちらにも考えがある。


「神様権限を行使させてもらう! お前が探して来~~い!」


 僕はうつ伏せのまま足を上げ、そのまま横に振ってバイバイのジェスチャーをする。


「なっ……、何てことするのよこの暇人! ダメ人間! ろくでなし! あ、ちょ、待っ……」


 彼女は僕に一通り罵詈雑言を浴びせ終える前に、空間に空いた赤色の穴へと吸い込まれていった。

 神様の命令は絶対なのである。


 そんなわけで、僕はもう少しばかり惰眠をむさぼることにした。


 ――しかしアイツ、わかってんのかね。

 ()が暇じゃなくなる、その言葉の意味を。

 たまにはラノベ然としたプロローグでも書いてみようかと……。

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