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真犯人

 椅子に腰かけてしばらく部屋で待っていると、静かに扉を開けてリストが入ってきた。


 しかしこの男、見れば見るほど読めんな。


 口元には常に笑顔を浮かべ、目元は細く緩んでいる。

 身長は高いが威圧感を感じることはなく、かといって頼りなさは欠片もない。

 無造作にかけられた黒縁のメガネはかなり度が強いようで、余計に奴の顔を歪ませ表情に蓋をしてしまう。

 一見軽薄そうな顔をしているが、何かを見据えたその目つきはこの男の中に何かしら一本の筋が通っていることをほのめかす。


 年の頃は40かそこらといったところだろうか。

 少し白髪の混ざるその頭は、それはそれで映えている。


「お待たせしました」


 椅子を引きながら奴が言う。

 考えてみれば、度が強いメガネで歪んだ結果がこの細い目なのだ。

 実際にはどれほど細いのか、想像もつかぬ。


「いや、大したことはない」


 俺は答える。


「さて、今後のことなのですが……」


 そう言ってポケットからメモを取り出すと、奴は指の腹でくいとメガネの位置をなおした。


「聡明なデュリックさんであれば既にお気づきかと思いますが、今回の王命は選定の続きです。陛下もおっしゃっていましたが、現状我が国には武力がありません。そういった意味ではあなただけが頼りなのですが……」


「たった一度の選定、その上おこぼれを貰うような形での勝者を全面的に信用できぬ、或いは対内、対外的によくない、そんなところか」


 奴は頷く。


「まぁ、大体そんなところでしょうか。私はデュリックさんの魔法の腕をお見せいただきましたし、どのような顛末で手に入れられたにせよ、その手に聖剣が握られていることもまた事実です。ですから、今デュリックさんに求められているのは事件解決力という実績なのです」


 奴は一度居直ると、改めて口を開いた。


「そのことは抜きにしても、ライツ様をはじめとする大勢の方を殺害した真犯人を一刻も早く拘束し厳罰に処すこと、これは第一兵団長としての責務でもあります。ぜひデュリックさんにはこの偉業を成していただきたいのです」


「言われずともそのつもりだ」


「ところで、先ほどから何やら考え込まれているご様子。何か新たな発見をされたのでしょうか?」


 メガネに蝋燭の火が反射して光る。


 やはりこの男、油断できぬ。


「いやなに、洞窟の脱出に召喚という手段もあったと思い出してな」


「と言いますと?」


 奴が興味深そうに顔を近づけてくる。


「先までは能動的に魔法を使用して脱出する方法ばかり考えていたが、逆に呼び出されて脱出するということも可能ではあるのだ」


「なるほど、自分ではしごを上るか、縄につかまって引っ張り上げてもらうかの違いみたいな感じでしょうか」


「大方それで間違いない。ここまで計画的な犯行であれば、外に協力者がいてもおかしくはないと思ったのだが……。召喚魔法も次元魔法の一種なのだ。結局のところ、俺に感知されず召喚される方法などないと思いなおしてな」


「召喚魔法というものについて詳しくお聞きしても?」


「あぁ。召喚魔法は二種類に大別される。一つは物体の召喚、もう一つは生命体の召喚だ。原理は四次元移動(モマ・ヴァリティタ)などと大差ないが、発動させる地点が発動者からかなり遠いという点から難易度が大きく異なる」


 リストは顎に手を当てて何やら考えている。


「そして、物体の召喚と生命体の召喚、これらの本質はあまり変わらない。いや、生命体の召喚が物体の召喚の応用というのが正確だな。物体を召喚するためには事前にその物体に対して”座標”を登録する必要があるのだが、その座標を登録した物体を所持することでそれを持つ者にも座標を付与できるのだ」


「つまり、召喚できる物体を持つ者も同時に召喚できるということですかね」


 俺は首を縦に振る。


「そういうことだ。事前に座標を登録せずとも召喚を行う方法はあるのだが、ただでさえ魔力効率の悪い次元魔法、それに加えて無駄に魔力を食う。事実上これは考慮に入れずともよい。

 いずれにせよ、先に見せた穴を通じて干渉を行う魔法である以上、この手法では洞窟から足跡を残さずに脱出するのは不可能なわけだ」


「なるほどなるほど。……つまるところ、進展なしというわけですか……」


「残念なことに、そうなるな」


 リストは落胆した様子で肩を落とした。


「まぁ仕方がないです。それより今日はもう遅いですから、一度お休みください。宿はこちらで手配させていただきますので」


 リストは立ち上がって部屋の扉を開けようとする。


 俺はそれを手で呼び止めた。


「その前に、一つだけいいか?」


「何でしょう」


「リリーとエヌスの身柄は保障されるのだろうな?」


「その点に関してはご心配なく。と言いますか、エヌス様の周辺はこの国で三番目に安全な場所ですよ。何人たりとも手を出すことはかなわないでしょうね」


 にこりと笑い、じっとりとした目つきで俺を見つめてくる。


 ……一番安全なのは俺の周辺だと言いたいのだろうか。

 本当にこの国は切羽詰まっているというかなんというか……。




 その後リストに道を教わり、一度宿へ向かうことにした。



 ――実のところ、真犯人は既に分かっている。

 というより、他に可能性がない。

 だが、その断定方法に問題がある。

 今の段階で俺が犯人を言い当ててしまうと色々と問題が生じる。

 奴には自ら名乗り出てもらわねばなるまい。


 リストには召喚魔法についてご高説を垂れて誤魔化したが、本当にあの男は油断ならぬ。

 今後出自を隠すにあたって、可能な限り関わりを避ける必要がありそうだ。

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