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奪われた聖剣

 お待たせしました!!

 エヌスが口を開く。


「リリーちゃんのこともいいんだが……。その前に一つだけ聞かせてくれ」


「何だ」


 俺は応える。


「デュリック、君はどうやってその聖剣を手に入れたんだ? その聖剣は聖剣自身に認められた者が呼び出して初めて帯刀できる代物のはずだ。ましてやその聖剣はほんの数時間前までライツという正式な所有者がいた」


 その疑問はもっともだ。


「百歩譲って、君が聖剣に認められし第二の勇者候補筆頭であったということは考えられるだろう。しかし、洞窟でオレと別れたとき、君は選定における勝ちを確信したような顔をしていた。偶然呼んでみたら来たなどということはあるまい」


 ふむ。

 先ほどは適当にはぐらかしたが、エヌス相手に嘘を()く理由もないだろう。


「お前は俺とライツの戦闘を見ていたよな」


 エヌスは不思議そうな顔をしながら首を縦に振った。


「あの戦闘の顛末を見て、何か疑問に思わなかったか」


 しばらく考えた後、エヌスは口を開く。


「特に思い当たる節は……。いやあれは……、……わからない」


「あのとき俺は、目の前で対峙しているライツに勝つことより、選定で勝つことを考えていた。俺と勇者候補筆頭の差は何か。部外者の田舎者と騎士団長の差は何か。そこに出来レースのタネが眠っていると考えた」


 そう、そして、それは結論から言ってしまえば聖剣であった。

 野次馬が言っていた。

 聖剣は選ばれし者にしか使えぬと。

 であるならば、選定で勝利する最低条件として聖剣の帯刀が必要である可能性が高い。


「それで、君は聖剣を手に入れようと考えたのか」


「そうだ。そしてそれは、俺にとっては朝飯前なわけだ」


 そう言って、俺は腰に差した二本目の剣を指す。


「簒奪剣リトフィウス……」


 エヌスが唖然とした顔で言う。


「あのとき俺は、ライツをこの剣で()()斬った。一度目は意識を『奪う』ために。そして二度目は、聖剣を『奪う』ために」


 一撃目は逆袈裟に、二撃目は袈裟斬りに。



 そのとき、エヌスは何かに気が付いたように顔を上げた。


「そうか、オレが感じていた違和感の正体はそれか……。あのとき、斬られたライツは()()()()()()()んだ。あれは鞘がなければ1時間経たないと何があっても手から離れないというのに」


 蹴り飛ばされた聖剣に引っ張られるかのように吹き飛んでいったライツを思い出す。

 能力によって手から離れぬようになった聖剣の頑固さは筋金入りだ。

 それは、たとえ所有者の意識が失われようともである。


 つまり。

 ライツの手から時間経過以外で聖剣が落ちるということは、その所有権の失効を意味する。


「まぁそういう訳だ。俺がライツを斬った時点でこの聖剣は既に俺の物になっていた。故に、俺が呼べば現れるし、問題なく扱うことができる」


 聖剣を持ち去らなかったのは極力穏便に済ませるためだ。

 聖剣が消えたと言って選定を延期されても困る。

 そもそも1時間手放せなくなるじゃじゃ馬をわざわざ手元に置くメリットも少ない。


 それに。

 所有権を奪った時、聖剣と何かが繋がったのを感じた。

 呼べば来るという確信があった。

 故に、俺はそれ以上のことは何もしなかった。


「盗みはダメって、言ってた、です……」


 今まで黙って俺たちの話を聞いていたリリーが、唐突に困った顔で口を開く。


 そういえば、選定の勝利条件の説明でついでにそんな話を聞いたような気もする。


「確かに、()()()()盗みはよくないな。だが、選定が始まる前の時点で既に聖剣は俺のものだったのだ。ルール上は問題あるまい」


「聖剣がなければ勝利できないとは言え……。君は無茶苦茶するな……」


 とは言え、聖剣の所有権と帯刀の可否は別物らしい。

 所有権を持つ者は聖剣を呼び出すことができるが、聖剣に認められてさえいれば抜くことは可能だと思われる。


 俺は今まで多くの剣を握ってきた。

 だからこそ、今の自分に扱える剣か否かは感覚で理解できる。

 聖剣を初めて見たとき、これは俺にも振れる剣だと確信した。


 逆に言えば、ライツは俺に所有権を盗まれた後でも聖剣を扱うことができたというわけだ。

 聖剣に認められる者が同時に二人存在するという非常に稀な状況だからこそ発生した、聖剣のルールのバグのようなものだろう。


 しかしそうなると――。


「相当強いな」


「何のことだ?」


 エヌスが首をかしげる。


「選定での大量殺人犯の話だ。当時のライツは聖剣の所有権こそなかったものの、俺が呼び出さなければ通常通り聖剣を振えたはずだ。それをものともせず背後から暗殺するとは、相当な実力者だろう」


「君からすればどうだか……」


 エヌスは肩をすくめる。


「いや、恐らくは俺より強い」


 二人が目を丸くするのが見えた。



 王国で最も強いであろう騎士団長を暗殺するなど、並の人間ではない。

 俺からすればライツは弱かったが、それでも暗殺となると骨が折れる。

 相手に悟られず、或いは悟られたとしても防御できないほどの俊敏性と攻撃力。

 事実、エヌスは相手の姿すら見ることが出来なかったようだ。


 ――それは本当に人間か……?


 そんな考えが脳裏をよぎる。


 或いはとてつもなく強い人間だったとして、今この状況下で魔王と対峙する王国を妨害する利が何かあるのか……?


 わからぬことが余計に増えてしまった。


 謎解きパートその1です。

 謎が増えた気もします。

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