身の程を教えてあげました
どれぐらいリーリアと話し合っていただろう。可愛らしいお腹の音が聞こえてきて、お互いに固まった。
「あ」
「ふぁ」
「……ごめんなさい。おなかすいた……」
末っ子のリルルちゃんのお腹の音だった。わたくしったら、夢中になってしまったわ!リーリアと目線で通じあった。
「ご飯にしましょう!運んで!」
わたくしが手を叩くと、使用人がテーブルにところ狭しと料理を並べた。フルコースなどよりいいだろうという配慮からだ。
「ごちそう……アルスリーアおねえちゃん、ありがとう!たくさんたくさんありがとう!あのね、リーリアおねえちゃんはしゅーちゅーするとダメダメなの!おねえちゃんにゅーいんしないでよかった!」
「またロゼねえのびみょーなスープたべなくてすんだ!ありがとう!それからね、ルイアおねえちゃんもね、やさしくてね。たくさんたくさんありがとう!」
「わ、私も!このご恩は忘れません!」
「本当に、ありがとうございます」
「………どういたしまして」
わたくしは、善意だけでしたわけではない。少しだけ罪悪感があった。皆笑顔で食事をし始める。
「……アルスリーア様、本当にありがとうございます。くまもりさん達は……今の私にできる最高の出来だと思います。依頼を……いいえ、これまでも本当に本当にありがとうございます。あの!私に何か出来ることはありませんか!?」
純粋な瞳に、胸がきしむ。それでも、わたくしは彼女に告げた。
「なら、貴女………わたくしのものにおなり」
「はい!かしこまりました!!」
「ふぁ?」
「何をすればいいですか!?護衛ですか!?針仕事ですか!?なんでもやります!お任せください!!このリーリア、誠心誠意全身全霊でアルスリーア様のためとあらばいくらでも働きます!!」
いやもう………なんでそうなるのかしら。だけど、貴女がわたくしに仕えてくれると言うなら……わたくしは貴女をわたくしの部下にするわ。
「貴女をわたくしの専属針子に……いえ、専属縫術師になって欲しいの。貴女なら、きっとこの国一いいえ、世界一の縫術師になれるわ。あのイヌイルの始祖すら越える縫術師になるわ!」
「アルスリーア、様………わ、私……」
「わたくしのためならなんでもするのでしょう」
「な、なります!世界一の縫術師に、なります!!絶対なります!私、アルスリーア様のためなら祈れます!」
リーリアは泣きながら笑った。それは、何かを吹っ切ったような……清々しい笑顔だった。
「では、縫術師として学べる環境を用意するわ。ふふふ、楽しみにしていてね」
「はい!頑張ります!!」
それから、皆でパーティを楽しんだ。やはり疲労していたのか、小さな弟妹より先にリーリアが寝落ちしてパーティはお開きとなった。
リーリアの家を出ようとしたら、姉のロゼッタが声をかけてきた。
「あ、あの!少しだけでいいのでお時間いただけませんか!?」
「……かまわないけれど……」
すると、いきなりロゼッタが頭を下げた。
「ふぁ!?」
「ありがとう、ございます。あの子は……あの子は天才なんです。本当に縫術師の才能があるんです!でも、ある事件から祈れなくなりました。大切な人を救えなかった事が、あの子の傷になった。そこからは………色々ありました。さらに、貴族を嫌悪して、祈れなくなりました。だから、ありがとうございます。それでもあの子はずっと針仕事をしていたんです。あの子を……導いてくれてありがとう、ございます……!」
ロゼッタは泣いていた。わたくしの手にすがるようにして泣いていた。いや、わたくしはただ……自分の都合でリーリアを縫術師にしたかっただけだ。
縫術は我が国において特別な産業だった。縫術を施された服は鎧より丈夫で着用者を守ったり、下手な魔法より所持者を守ってくれる。縫術師とは、我が国独自の魔法使いだ。
縫術師は今でもまだ、いるにはいる。しかし最高峰だったイヌイル家を越えるものはおらず、近年技術は下降の一途。ゆるやかに廃れていく事が予測されている。リーリアはわたくしから見ても天才だ。くまさんに籠められた祈りは、どこまでも純粋で強い。
ロゼッタによるとリーリアには素地があったようだが、縫術自体はほぼ我流。見よう見まねなのだとか。しかし、彼女の縫術はわたくしが知る誰より強い。彼女が正しい知識と技術を得れば……間違いなく世界一の縫術師になるだろう。抜きん出て優れた縫術師を専属で囲ったとなれば、間違いなくわたくしの地位は磐石となる。
「わたくしは、自分の都合で……」
「それでも!貴女は救いです!あの子にとって、私達にとっても!」
ロゼッタの手は、あかぎれてガサガサだった。苦労している人間の手だった。どれほど苦労したのだろうか。
「わたくしは……」
「ありがとうございます……私も、何か出来ることがあるなら言ってください。妹みたいな賢さも特技もありませんが、少しでもご恩に報いたいと思います」
「その時は、お願いするわ」
わたくしは、振り返らずに進んだ。そして、翌朝リーリアが斜め上であったことを思い知る。
次の話で連続更新をやめてローテーション更新にします。
次が書きたかったのですよ!!楽しみー!




