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続・身の程を知らなかった彼女

 リーリアの家は、どうも庶民と言うにはおかしかった。没落貴族なのだろうか。子供達が用意してくれた椅子も古いが一級品だ。クッションやテーブルカバーも、素晴らしい逸品だった。え?これはリーリアが?彼女の裁縫の腕は一流の職人レベルということね。


「おねえちゃん、どうしよ。おひめさまってなにをたべるの?」

「リーリア姉のクッキーはおいしいけど、おひめさまにはにあわないよ」


 子供達は案内したもののお茶をどうしようとオロオロしている。


「ふっ、抜かりはなくてよ!」


 わたくしがパチンと指を鳴らすと乳姉妹のルイアがテキパキとお茶とお菓子をセッティングした。そう、わたくしは敏腕メイドとお茶とお茶菓子持参でお見舞いに来たのだ!用意しておいてよかったわ!


「お嬢様方もこちらへ。皆様全員が食べる分をお持ちしております」


「ぜいたくのあじ……」

「おひめさまのおかし……」

「えっと…ありがとうございます」


「かまわなくてよ。それで、リーリアは?」

「あら、お客……!??は!?なんでここに公爵令嬢様が!??い、妹が何かしでかしましたか!?」


 タイミング悪く、リーリアの事を聞こうとしたらローズレッドの髪を持つ美女が二階から降りてきた。どうやら起きたばかりのようね。急な訪問だったもの。仕方ないわ。年齢からしてリーリアのお姉様かしら?


「わたくし、アルスリーア=ノーチェスと申します。急な来訪、失礼いたしました。学友であるリーリアさんが心配でお見舞いに来たのですが、彼女は無事なのですか?」


「申し遅れました。わたくしはリーリアの姉でロゼッタ……と申します。妹は数日前から工房にこもって何かを作っておりまして、完成したら出てくると思います」


「まあ……」


 つまり、くまさんのために!?リーリアったら……!それにしても、やはりリーリアのお姉様、所作が貴族令嬢のようだ。服こそ平民だが、貴族令嬢のお忍びと言われたほうがしっくりくるぐらい。


「無駄とは思いますが、呼んでまいりま……きゃあ!?」

「きゃああああああああああああ!??」


 悲鳴をあげたロゼッタ嬢の視線の先を見ると、ゾンビ!??地獄の底から聞こえるような音が響く。ゾンビが床をはっている。

 瞬時にわたくしの前に出たルインだが、何かに気がついたらしく警戒を解いてゾンビに近寄った。


「リーリアちゃーん、大丈夫?」

「おなか……すいた……」


 ゾンビと思ったのは、異常にやつれたリーリアだった。地獄の底から響いていたのはお腹の音だった。


「ルイア!」

「かしこまりました」


 わたくしが指を鳴らすとルインとルイアがリーリアをテーブルにつかせ、念のために持参していたサンドイッチとミルクティを出した。


「野菜が足りませんのでスープを作ります。どなたか厨房へ案内をお願いします」


「はーい!おてつだいする」


 ルイアはリーリアの妹と厨房へ。リーリアは泣きながら勢いよくサンドイッチを食べている。


「はぐはぐもぐもぐむしゃむしゃむしゃ」


「リーリア、無事……でよかったけどあまり無理をしてはだめよ?」


「んぐんぐんぐ………ぷはー!あれ?!アルスリーア様!?」


 リーリアは三日三晩飲まず食わずで、ひたすらくまさんとくまさんの服を作っていたそうで、極度の飢餓状態だったようだ。完成品のドレスはどれも見事な物だが、まだ半分ほどドレス製作があるらしい。この調子では間違いなく倒れるだろう。


「ルイア」


「お嬢様の命とあらば。リーリアお嬢様」


「お嬢様!?」


「製作の間、このルイアがお嬢様とご家族のお世話をさせていただきます」


 リーリアだけでなく、リーリアの家族も慌てていた。


「そりゃあ助かりますけど、そこまでしていただくわけにはいきません!」

「ええと……家族でフォローするではだめですか?」

「私達がおてつだいがんばります!」


「よろしくて?いいものを作るには、最高の環境ですべきだわ!このわたくしのくまさん製作に、リーリアの全力をぶつけてもらうため……つまりわたくしのためなのです!!」


 ルイアがリーリアにひざまずいた。


「お嬢様の審美眼は確かです。私の目から見ても、リーリアお嬢様のくまさんは芸術品です。私を仕えさせるだけの価値がある品です。私も微力ながらリーリアお嬢様のお手伝いをさせていただきたく思います。どうか、お嬢様のお世話をさせていただけないでしょうか?けっして邪魔はいたしません。炊事洗濯掃除もいたします。経費はアルスリーアお嬢様持ちですから、この家に経済的負担がかかることもございません。短い間ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします」


 リーリアに話す隙を与えず、ルイアはにっこりと笑った。ルイアはルイアでリーリアが気に入ったようだ。彼女の笑顔は珍しい。


「えっと、その……」


「リーリアちゃん、諦めて。そのうちこいつのことだから、家に置いてもらえないなら野営するとか言い出すから」

「短い間ではございますが、よろしくお願いいたします」


 わたくしのメイドに野営させるわけにはいかないと思ったのか、リーリアはアッサリとルイアを受け入れた。


「はい。今後もよろしくお願いいたします。とりあえず、リーリアお嬢様。スープを作りましたのでお飲みください」


 ルイアはリーリアにスープをよそい、夕飯の支度をするからと退室した。とりあえずルイアに任せれば、リーリアの健康維持と負担軽減は問題ないだろう。

 わたくしは満足してリーリアの家を去ったのだった。

実は割とまともなリーリアの姉ロゼッタさん(笑)

使い込みの理由なんかはロゼッタ編で明らかになります。

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― 新着の感想 ―
[一言] お家の中にゾンビがいる日常……日曜日のワタシのやう…(´-ω-`)←腰をギックリとやっちまいました、移動は正にリーリアゾンビのよう いやー久々にコルセット装着生活!……ヤだ暑い!!( ゜皿゜…
[一言] リーリアのお姉ちゃん満を持して登場! そんな待ってないけど 職人だなぁ
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