身の程を知らなかった彼女
授業が終わり、生徒会と仕事をしていたら、ガンドルフ様とルインが何やら話しているのに気がついた。
「………あら?」
ガンドルフ様が可愛らしい手のひらサイズのくまさんを持っていた。可愛い。しかも、ドレスを着た素敵なくまさんだ。
「可愛いですわ……」
「そうだね。アリスそっくりで可愛いだろう?」
「…………え?」
よく見たら、くまさんはわたくしと同じ。フサフサの毛はプラチナブロンドで翡翠色の瞳をしていた。さらに、くまのドレスは先日に着たドレスを忠実に再現している。小物や靴まで。完璧だ。
「このくまは、リーリアの作品だよ。なんでも、御守りなんだそうだ。アルスリーアだと思って常に持ち歩くよう言われたんだ。なんだか、アルスリーアがいつもいるみたいで穏やかになれるのさ。あげたいけど、私専用だから誰にも絶対に渡すなとしつこくリーリアから言われたしなぁ………。そうだ!リーリアに揃いで作ってもらえばいいのか!アルスリーアのためにプレゼントするよ!」
「で、ですが……」
くまさんは欲しい。ものすごく欲しい。しかも、ガンドルフ様とお揃いの、ガンドルフ様からのプレゼントなくまさん………。わたくしは、己の欲望に負けた。だってだって、くまさんが欲しかったんですもの!本当に可愛かったんですもの!!しかも、ガンドルフ様からのお揃いプレゼントなんですもの!!ほしくないわけがありませんわ!!
そんなわけで、ガンドルフ様がリーリアに依頼した。わたくしはくまさんの件で話があるとリーリアに呼び出された。ガンドルフ様も一緒に。
「アルスリーア様、くまもりさんを気に入ったんですか?」
あの御守りはクマモリサンと言うらしい。素直に頷いた。
「そうよ、だからわたくしにも作って欲しいのよ。なんなら、わたくしが追加料金を出してもいいわ」
「アルスリーア様のために、作る………。承りました。つきましては、こちらをご覧ください。最高の品をお作りします!!」
小さな鞄から出るわ出るわ……ドレスのデザイン画に、布地にレース。どれも綺麗で、くまさん製作についてかなりの時間熱く語らった。多分……三時間は軽く語ったわね。どれも素敵ですと絞り込みに時間がかかってしまったのだ。今まで着たドレスのレプリカから、リーリアオリジナルデザインまで。どれも素敵で、全部作らせたいぐらいだった。異国の服もよかったわ。どこで知ったのかしら?キモノなんて見たことがなかったが、とても素敵だった。ワフウドレスは、わたくしも同じ意匠で着てみたいわね。
ガンドルフ様とルインが待ちくたびれてぐったりしていたけれど、完成が楽しみだわ。わたくしのくまさんは着せ替えもできる素敵なくまさんになる予定。くまさんのためにベッドや椅子、クローゼットも用意しなくてはなりませんわ!さっそく職人を手配しなくては!
それにしても、リーリアの裁縫技術と知識は素晴らしいわ。わたくしはかなり目が肥えているのに、一流の職人に勝るとも劣らない。それこそ、縫術師みたいだわ。
縫術師とは、我が国特有の付与魔術師のこと。特に、縫術師の最高峰であるイヌイル家は神の針子と呼ばれるほど。今、イヌイル家は没落してしまったが……イヌイルの縫術師が作った作品は、我が家にもある。我が家を災厄から守る祈りが籠ったタペストリーは
我が家の家宝で……わたくしも大好きな品だった。
リーリアのくまさんは、何故かそれを思い出させた。
あれから三日。
リーリアが、学校に、来ません。
今まで風邪をひいても休まなかったのに!高熱だろうがなんだろうが、授業をぶっ倒れるまで受けていたのに!そんなリーリアが、学校に来ません。
「何かあったに違いありませんわ!!」
「とりあえず調べたんですけどね、バイト先にも行ってないみたいだから……お見舞いに行きますかー」
そんなわけで見舞いに行ったのですが、リーリアの家は森の中の洋館だった。もっと貧乏なイメージだったので、ちょっと意外。手入れは最低限といった感じだが、かつては伯爵あたりの所有物だったのでは?という感じの古いが品のある建物だった。
馬車を家の前に停めると、愛らしい子どもたちが出てきた。
「わあ、お姫様だー!」
「キラキラ、きれい」
「ちゃんとごあいさつしなきゃだめよ。こんにちは、綺麗なお姫様。何かご用ですか?」
双子と思われる幼い五歳ぐらいの男女の子供と、十歳ぐらいの女の子が家から出てきた。年上の女の子は、丁寧なカーテシーで出迎えてくれた。
「わたくしは、アルスリーア。貴方達のお姉様の友人よ」
「ええと、姉は二人いるのですが……性格の悪い方ですか?頭が良くて働き者な方ですか?」
「ふぁ」
その選択肢はひどすぎやしないかしら??そういえば、リーリアの姉はこの子達の学費を使い込んだんでしたっけ……。リーリアの性格は悪くないし、頭が良くて働き者だとは思うけど……?
「ええと……リーリアの友人ですの」
「やっぱり!リーリア姉様は優しくて頭も良くて料理上手な自慢の姉なんです!リーリア姉様のご友人でしたら、歓待せねば姉に叱られます!中にどうぞ!」
「おきゃくさまー」
「ごあんないー」
子供達に案内され、リーリアの家にお邪魔することになった。この様子だと、リーリアは具合が悪いわけではないのかしら?首を傾げつつも洋館に入るのだった。