身の程を知らぬ女
ルインを捕獲してお仕置きしたら喉が乾いたので、再びカフェテリアでお茶をすることにした。気持ちが落ち着いてきたと思ったら、不愉快な声が聞こえてきた。
「もう、カル様ったら~」
甘ったるい猫なで声。品位の欠片もない。
「………お嬢、場所を変えますか?」
「かまわないわ。わたくしはお茶を飲んでいるだけだもの」
それに、アレ程度をあしらえぬようでは王妃になんてなれないわ。不愉快ではあるけれど、アレの意図をはかるいい機会ね。それにカフェテリアといっても、ここは特別な部屋。上位貴族のみが使える個室席までは入ってこれないでしょう。あまりにも不愉快ならば、ドアを閉めれば声も遮断できる。
「えー?空いてないんですかぁ?特別なお部屋を楽しみにしてたのにぃ!」
なんと間が悪い……アレはこの部屋を使いたいわけね。
「ルイン」
閉めろ、と言わなくても理解してくれた。流石はわたくしの乳姉妹の兄だわ。伊達に長く付き合っていない。しかし、扉を閉めようとしたら侵入者がきてしまった。
「おやめください!」
「うるさい!僕は次期公爵だぞ!」
せっかく閉めかけた扉は、開けられてしまった。カフェテリアの店員が必死で止めようとするが乱暴もできず押されてきたようだ。いや、どう考えてもマナー違反でしょう。
「何かわたくしにご用事かしら?」
首をかしげてそ知らぬふりをしてみた。公爵以上の爵位はない。つまり、室内には彼より下位の貴族がいると思ったのだろう。しかし残念ながら侵入者と私の家格は同格の公爵。同格と言ったが、実際のところ我が家は父が宰相で歴史も古いのでこちらが格上である。
それを理解しているらしく、侵入者であるブローレット公爵子息は先程までのような高圧的態度ではなくなった。
「………ここを使いたいのだ。一人で使うには広かろう?君は一般席に行けばいい」
いや、意味がわからないわ。
「あ、おかわりをいただける?」
「は、はい!ただいま!」
意味がわからなすぎたので、とりあえず紅茶のおかわりを頼んだ。店員は慌てて部屋から出ていく。わたくしの意図を察したようね。いやあ、意味がわからないわ。私が先に使っていたのに一人だから出ていけとか、本当に意味がわからないわ。
「人の話を聞いているのか!?」
「聞いてはおりましたが、あまりにも礼儀がなってらっしゃらないから聞かなかったことにしてあげましたのよ」
「そんな……無視するなんて酷いです!」
「は?無視なんかしてないじゃないですか。頭おかしいんですか?アルスリーア様の優しさを無下にするなんて酷いです!」
面倒くさいと思っていたら、リーリアが戻ってきた。貴女……このタイミングで戻ってきますの!?ガンドルフ様と!?
「そうだな。リーリアの言う通りだ」
「ふぁ?」
またしても頭がおいつきませんわ。あら、さっきの店員さん……もしや先生ではなくガンドルフ様を呼んできちゃいましたの??あ、おかわりありがとう。
「そうですよ!ここは『なんと慈悲深く美しく気品のあるお方ですの!?下品な我が身が恥ずかしいわ!ビッチですいません!出直してきます!』と言うべきです!」
「いや、それもおかしいですわ」
流石に頭が仕事をした。それはおかしいというか、元平民男爵令嬢の頭が正常かを問うレベルの発言だと思う。それと、びっちって何なのかしら。元平民男爵令嬢の反応からして、いい意味ではなさそうね。
「またアンタなの!?」
「ふっ……アルスリーア様あるところ、リーリアあり!アルスリーア様のファンをなめないでほしいわね!」
「ふぁ?」
ええと……どういうことですの??確かにリーリアは同じクラスですからよく一緒にはいるけど………ファン??
「いつもいつもわけわからないことを言って邪魔しないでよ!そもそも、アンタだって殿下を狙ってるんでしょう!?」
「はっ!わかってないわね!ファンは、推しの幸せを見ることに全力をそそぐのよ!アルスリーア様の幸せのために全力で働くのが喜びなの!!それに………こんなちんちくりんの子猿に王子様の相手がつとまるとでも!?胸も色気も気品も美貌もない!私は帝王学ナニソレおいしいの?とか言っちゃう野生の子猿よ!無理して隣に立っても破綻する未来しか見えないわ!そもそも、私は、殿下みたいな男はタイプじゃないわ!!」
「ふぁ」
どうしよう、最後は地味にガンドルフ様を落としている気がするわ。いや、それよりリーリアは可愛い女の子であって、猿ではないと言うべき?
「あなただってそうよ、ビッチ」
「誰がビッチよ!私はマチルダだって言ってるでしょ!」
「別にビッチでもニッチでもいいじゃん。とーにーかーく!地位と金目当てで男を捕まえたって、自分が無理を強いられて辛いだけだよ?」
リーリアがマチなんとかの肩に触れたが、叩き落とされた。
「うるさい!私の邪魔をするな!!」
「被ってた猫が脱げてるけどいいの?」
そうね。彼女の取り巻きがドン引きしているわ。わたくしも驚いているけど。普段は清楚可憐系だったけど、内面はかなり激しかったのね。
瞬時に切り換えるあたりはなかなか。本性を出した直後だからわざとらしすぎてしらけちゃうけれど、お馬鹿な取り巻き達は納得したらしい。
「ごめんなさい、カル様ぁ、この子ったらいつもマチに嫌がらせするから……怒っちゃった」
「そ、そうか」
「ガル様ぁ、ガル様も一緒にお茶をしましょ」
「そうですね!殿下も一緒にいかがですか?」
ガンドルフ様がわたくしを隠すように前へ出た。
「ごめんね、私はリーリアと話があるんだ。君達とお茶はできない」
「えー、次は一緒にお茶してくださいねぇ」
元平民男爵令嬢がガンドルフ様の腕に抱きつこうとした。しかし、ガンドルフ様はひらりとかわした。そして無様に床に倒れた元平民男爵令嬢。
「あー、ごめんね。でも、私の婚約者に不愉快な思いをさせたくないから、触らないでくれる?ふふ、やきもちを妬いてもらいたい気もするけど、それで嫌われたら本末転倒だし……あ、ガル様呼びもやめてね。そう呼んでいいのは私の可愛いアリスだけだから!」
「そんな!今までは許してくださっていたではないですか!」
「そうだね、それが『平民の普通』だって君が嘘を吐いたからね。平民の暮らしを知りたかったからちょっと我慢していたけど、アリス以外に触られるのって気持ち悪いんだよ。君、香水臭いから君といたあとは臭くなってアリスに近寄れなくなるし。アリスに臭いとか言われたら引きこもるしかないよ」
これこそ酷いですと泣くべきではないかしら。しかし、元平民男爵令嬢は呆然としている。んん?そういえば、香水くさくなるから??あ、だから元平民男爵令嬢といた頃はわたくしを避けていたの!??えええええ!??
「アリスぅ、消毒して!」
「ふぁ!?」
ガンドルフ様が無邪気に抱きついてきた。ふぁ!?ふぁわわわをわわわ!?く、くすぐったい!はっ!?に、匂いを首筋を嗅がれている!??
「んん……いい匂い……癒されるなぁ」
「ふぁわわわわ!が、ガンドルフ様!こにょような人目のある場所でにゃにを!??」
逃れようともがくが、がっちり腰をホールドされていて逃げられない。ルインに目線で助けを求めたが………グッ!じゃない!お前、わたくしを見捨てる気ね!?リーリアは……!?
「はう……殿下✕アルスリーア様………尊い………」
駄目だわ!うっとりしていて助けてくれそうもない……!というか、むしろリーリアはわたくしとガンドルフ様の仲を応援していたのね!本当に申し訳な……なんか触られてますわ!ちょ!スリスリはやめてぇぇ!!
「二人きりならいいだなんて……二人きりでこんなことしたら、大変なことになるよ?はぁ……早く結婚したいなぁ」
背中をペチペチ叩いても、ガンドルフ様はびくともしない。そして、誰も助けてくれない。ガンドルフ様ったら意外にたくまし……いやいや!いくらなんでもこれはよくない!
「お、覚えてらっしゃい!」
よくわからないが、元平民男爵令嬢は悪役みたいなセリフを叫んで取り巻きを連れて立ち去ったのだが、逃げる前に助けてほしかった!わたくし、このままではきっと死因は心臓破裂で死んでしまいますわ!!
結局、わたくしはガンドルフ様が満足するまで放してもらえず、ときめきすぎて気絶したのだった。
あと数回更新してからローテーションにします!
書かないと忘れそうなのでー!




