うちの護衛は身の程をわきまえてない
リーリアが走り去ってから、護衛のルインが入ってきた。震えている……のではなく笑っているのだろう。
「リーリアちゃんは面白いですよねー!」
「……否定はしませんわ」
あのくるくる変わる表情や、微妙にズレた言動はとても面白い。というか、もしやわたくしは、わたくしのために怒ってくれたリーリアを疑ってしまったのね。最低だわ、と落ち込みかけた瞬間、ルインが爆弾を投げてきた。
「そういえば、私もリーリアちゃんが殿下にぶちキレた現場にたまたまいたんですよねー」
「………詳しく話しなさい」
ルインはわたくしの護衛だが、たまたま殿下にわたくしからの手紙を届けに行った際、遭遇したそうだ。
「ええと……確か……」
ルインによれば、殿下に話しかけようとしたら妙な気配に気がついたそうだ。何者かがかなり精度の高い隠蔽結界を使っている。それも人気のない裏庭で。魔力探知が得意なルインでなければ気がつけないレベルのものだ。
ちなみに殿下はたまに護衛をまいて息抜きで人気のない裏庭に行くそうだ。基本、護衛を連れているが、学園内は警備がしっかりしているし、一人になりたい事もあるらしい。
「殿下、確認してまいります」
何か良からぬことをしているのでは、と警戒しつつルインが結界を破ったら……中にいたのは泣きながら串焼きを貪り食べるリーリアだった。これにはルインも殿下も驚愕した。意味がわからない。わたくしも意味がわからない。
「ふん!」
「むぐっ!?」
「うっ!?」
そして、リーリアは容赦なくルインと殿下の口に串焼きを放り込んだ。公爵令嬢であるわたくしの護衛……つまりかなりの実力者であるルインの隙をつくとか、無駄に能力が高い。
「これでお二人も同罪です!!」
泣きながら笑うリーリアに、男二人は固まった。
「ええと……リーリアちゃんはどうしたのかな?お兄さんに話してみないかい?ホラホラ、同罪だから内緒にするよー。こんなとこで串焼き食べてるのがばれたら、お兄さんも困るし」
「ふええ………」
そして、リーリアはルインに抱きつくと泣きながら洗いざらい話してくれた。ことの顛末は、リーリアの姉が弟妹の授業料をドレス代にしてしまったこと。有名な裁縫師に流行りのドレスを注文するのはいいが、弟妹の授業料を使っていいはずはない。
どうにかへそくりや母の遺品を質入れしてお金を工面し授業料を支払った……まではよかったのだが、有り金全部を支払ってしまい所持金ゼロ。午後からは実技訓練なのに昼食を用意する暇も金もなかった。ちなみに家族の分はなんとか作れたが、リーリアの分は材料もなく作れなかったそうだ。
「リーリアちゃん……言ってくれたらお兄さん、お昼ぐらいおごったよ?」
「ルインさんにそんなこと言えませんん!お姉のばかあああああ!!」
空腹で実技訓練はキツいと思ったリーリアは、学園から許可をもらっていた串焼き(売り物)を思い出したそうだ。
リーリアは早朝学園の依頼で倒した魔物を捌いて血抜きし、タレにつけ、帰りに肉屋に売っていたのだが、ある意味運よく前日は売りにいけなかったので裏庭の小屋に焼くだけで食べれる状態の串肉があったのだ。それを焼いて食べていたら見つかったわけだ。
「この串焼き、うまいな。これで足りるか?」
殿下はマイペースに串焼きを食べ、マイペースに金貨を払おうとした。その様子が脳裏に浮かぶ。さすがは殿下……大物ですわ。
「払いすぎです!金貨なんてお釣り出せませんよ!確かにお金は欲しいですけどね!?これは血税の塊ですよ!?もう、この機会ですから言わせていただきます!!」
そして、そこからリーリアによるお説教がスタートした。庶民目線からの指摘はかなり的確で、殿下も感心した様子だった。さらにはお嬢の仕打ちへの不満。さっきほぼ語っていたので割愛するが、ルイン的にはもっと言ってやって!と思ったらしい。
「リーリアだったか!君の話は興味深い!特に、アルスリーアの話を聞かせてくれ!」
殿下は殿下で斜め上な反応だった。その日から、殿下はリーリアと話をする対価に、アルスリーアがいかに可愛いかを語るようになったという。
話が衝撃的すぎて頭がついていかない。なんでそうなりますの??
「………………ふぁ?」
「まぁ、そうなりますよね。実はリーリアちゃん、お嬢の熱烈なファンなんですよ」
「ふぁ?」
「ほら、お嬢ってば、ちっちゃくて可愛いのが好きじゃないですか」
「……………そうね」
似合わない自覚があるから公言していないけれども、わたくしは小さくて可愛らしいものが大好きだ。つまり、リーリアはそういう意味で好みである。わたくしと違って、とても小柄で愛らしい。見ていると和む。
「だから、リーリアちゃんに優しかったじゃないですか」
「それは……そうね。でも、それだけではなくあの子の能力も評価していたからよ。優秀な人材は国の宝ですわ。だからこそ、わたくしはあの子に援助したの」
リーリアに限らず、見込みがある者には学用品なんかを援助したりしていた。奨学生の中には教科書やノートを買うお金がない者達もいるのだ。それは貴族として当然だと思うし、先行投資というやつだ。
「だからね、リーリアちゃんはお嬢に心酔してるの」
「ふぁ」
何故そうなるの??わたくしは普通にしていただけよ??
「実は私、それからずっと密会もどきに参加してたんですよー。ほら、変に噂になってもリーリアちゃんがかわいそーでしょ?だから、リーリアちゃんと殿下、実は二人きりになったことなんてなかったりします。私は気配を消していたから、お嬢ったら気がつかなかったんですねー」
「ルイン?」
「あ、あれ??お嬢??綺麗なお顔が怖いですよー?」
「お前、わたくしの勘違いに、気がついていたわね?」
腰から魔法の杖を取り出す。ルインは瞬時に逃げ出した。
「お待ちなさい!!お前のことだから面白がって誤解を解かなかったわね!?」
「ちょっとした茶目っ気じゃないですかー!」
「お黙り!!許しませんわぁ!!!」
こうして、わたくしの体力が尽きるまでルインを追いかけ回したのでした。
もう一話ぐらい更新したらローテーション更新に戻します。
書いてて楽しくなってきました!