うちの主が天使過ぎる件
教室にいたアルスリーア様をサロンに呼んで、情報のすり合わせをすることになった。王太子殿下は本日公務で不在。そもそも卒業に必要な単位はほぼ取得しているのでもう学校に来る必要はないのだが、アルスリーア様に会いたくて来ているのだろう。多分。
ルインさんが簡潔明瞭な説明をする。彼は私の護衛としてこっそりついていたそうな。彼は本当にいつから居たのだろうか。マジで気配読めなかった。これでも冒険者仲間から野生動物並みの気配察知能力だってほめられていたのに!
そんな雑念を込めてルインさんとアルスリーア様を眺めていたら、話が終わったようだ。
「……そんな事がありましたのね」
アルスリーア様は表情を曇らせて首を傾げた。美しい。うちのご主人様、超美人。
「今まで、申し訳ございませんでした!!」
唐突にビッチが土下座した。いや、五体投地?どっちでもいいか。流石のアルスリーア様も首を傾げたままキョトンとしている。うちのご主人様、超キュート!
「え?」
「本当に申し訳ありませんでした!あ、あた……わたしの家族だけでも保護してください!!どんな罰でも受けます!だから、だから弟は……あたしの家族だけはどうか助けてください!!お願いします!お願いします!!」
ビッチは靴も舐めそうな勢いだ。ビッチの危機感は正しい。ルインさんの側に小鳥が来た。それは手紙になる。
「……お。弟さんは確保したぜ。ご両親はいいのか?」
「あたしを金持ち貴族の後妻にしようとするような奴らです。あたしの家族は、あの子だけ」
「ふむ……詳しくうかがってもよろしいかしら?」
「……実は……」
ビッチによれば、ビッチと弟は今の男爵弟夫婦の子供ではないのだとか。ビッチと弟の両親は死去。ビッチ父の弟夫婦に引き取られ、爵位を継承したそうだ。男爵夫妻はビッチ達に冷たく、おそらく爵位を奪おうとしている。ビッチは金持ちの後妻にして、病弱な弟はわざと医者に見せず見殺しにする気だと語った。
ビッチはビッチだったわけではない。自分と弟、両方を養ってくれる人を探そうとしていたそうだ。攻略対象を狙ったのは、ビッチの意思ではなく、例のお守りを渡した相手からの指示。魅了された相手から、お金をもらって弟の治療費にあてていたらしい。
ビッチと自分の姉が脳裏に浮かぶ。なかなか、そんな人はいない。ビッチまたは姉一人だけならばいくらでも嫁ぎ先はあったはずだ。うう……。
身内を思い出し困惑してアルスリーア様を見ると、表情を曇らせていた。
「大変でしたのね……。ですが、もう大丈夫です!このわたくしが!きちんと!貴方達の面倒を見ますわ!」
天使じゃないだろうか。ビデオカメラ欲しい。ドヤ顔も可愛いとか、天使に違いない。
「……はい?いや、だってあたし、アルスリーア様に無礼な態度を……」
ビッチは困惑している。無理もないだろう。あれだけ挑発的な態度だったのだから。しかし、アルスリーア様は微笑んだ。
「あら、わたくしに真正面からぶつかっていたでしょう?周囲の殿方を使わず、あくまでも貴女はわたくしに一対一でぶつかっていたわ。貴女、本当はわたくしが嫌いでも悪くもないのでしょう。ただ、弟さんのため……何者かに命じられていたのですわよね?」
「…………は、い……何故それを?」
「わたくし、リーリアの件で反省しましたの。てっきり、リーリアがガンドルフ様と恋仲であると勘違いしていたのですが、実際は違いましたわ。ですから、よく見ることにしましたの。そうしたら、貴女がわたくしに敵意も害意もなく、わたくしが嫌いな演技をしていることに気が付きましたの」
私と王太子殿下が恋仲とかありえない。アルスリーア様がよく見ていれば気がついただろう。はっ!?まさか、私の片想いがバレてるなんてことは……!?
「そう、です。羨ましさや妬ましさは多少あったかもしれませんが……あた、わたしは、アルスリーア様を本気で嫌っていません」
「では、わたくしが……いえ、我が家が保護するということでよろしいですわね?」
「………お願いいたします。対価として、わたしをいかようにもお使いください」
ビッチは覚悟を決めたようだ。アルスリーア様にひざまずいた。なんとなく、私も隣でひざまずく。
「……なんでアンタもいるのよ!?」
「私だってアルスリーア様にかしづきたい!!ひざまずきたいいいい!アルスリーア様の部下で、アルスリーア様を一番心酔しているのは、私なんだからああああ!!」
「まあ……リーリアったら」
仕方ない子ね、と微笑む私のご主人様、天使。控えめに申し上げても天使。一生ついていきます!
「リーリアちゃんはお嬢が大好きだもんねー。話がなんとな~くまとまったところで、そろそろ尋問しない?」
「「「あ」」」
そういえば、捕虜がいたけど忘れていたね!アルスリーア様が尊いから仕方がない!
苦笑するルインさん。うーん。私もルインさんぐらい有能になって、アルスリーア様を支えなきゃね!