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リーリアの事情

 最近、アルスリーア様は我が家で夕食を食べるかうちの家族を招待してノーチェス家で食べるかである。今日は珍しく私だけがノーチェス家に招待された。姉や弟妹にはルイアさんがご飯を作ってくださるそうだ。


 今日もノーチェス家のご飯は美味しい。何故かルイアさんが我が家の住みこみになってしまっており、ここ最近は三食きっちり食べているからお肌もぷるつや、生理も定期的に来るようになった。あばらが浮いていたのだが、だいぶ目立たなくなり健康的な体型になっている。まだ細いのだが、まあギリギリ許容範囲だと思う。姉や弟妹も健康的になった。アルスリーア様には感謝してもしきれない。

 そして、美しいアルスリーア様とカッコいいルインさんを眺めながらご飯が食べられるだなんて、最高の贅沢だと思う。


「そうですわ、リーリア。貴女の家の借金は全額返済しました」


「………ふぁ?」


 アナタノイエノシャッキンハゼンガクヘンサイシマシタ……。





 借金!?全額!??





 一瞬アルスリーア様が何を言ったかわからなかったが、一気に理解した。あの借金を!?だいぶ地道に返済したとはいえ、まだかなりの額があったはず!


「リーリア、貴女は自分の価値を正しく理解するべきよ」


 美しいご主人様が、優しく諭す。だって、私は役立たずなのだ。借金も私のせい。天才だなんて言われて、天狗になった私の自業自得。


「いいえ。私は身の程をわきまえています」


 もう間違えない。私は、傲らない。


「仕方がない子ですこと。まあいいわ。リーリア、貴女の家の借金を盾に、スカーレットが介入してくる危険性が高いのです。貴女はわたくし専属の縫術師。わたくしが庇護するのは当たり前ですわ。それに、わたくしのエルとガルに無理矢理値段をつけるとしたら……貴女の家の借金程度では到底足りなくてよ」


「くまぁ!」

「くーまも!」


 エルとガルが楽しげに走り回る。確かに、意思を持つ縫術具は……いくらになるのか見当もつかない。


「それから、借金が無くなった事でスカーレット家やわたくしの家の対抗勢力が強硬手段に出てくる危険があるわ。貴女、家族ごとうちに引っ越すつもりはなくて?」


 とてもありがたいけれど、両親の姿が頭をよぎる。父は、けっして頷かないだろう。母を動かせばどうなるかわからないからだ。


「……ごめんなさい」


「かまわなくてよ、わたくしの都合ですもの。では、ルイアとルイン、それから数名の護衛をつけさせてちょうだい」


「ふぁ?」


 なんでそうなるの?間抜けな声が出てしまった。というか、ルイアさんはともかく、ルインさんも!??


「わたくしの縫術師とその家族を守るためですもの。あの屋敷なら護衛数名も住めるわよね?あまり考えたくはないけれど、リーリアの家族に危険が及ぶ可能性は捨てきれないわ。貴女、家族を人質に取られたら従わざるをえないでしょう。これは当然の措置。自分の価値を認めなさい。貴女は、わたくしが認めた大事な部下なのよ」


「は、はい!」


 やはり、私のご主人様最高!美人で頭もよくて性格もいいとか、完璧すぎないか!?とりあえず拝んでおこう。そして、借金は給料から少しずつ返済したいと伝えたけれど断られた。


「それよりも、事情を話してくれないかしら?何故貴女の家に借金があったのか。リーリアの縫術は自己流と言っていたけれど、基礎はどこかで習ったのでしょう?無理に聞き出すつもりはなかったけれど、状況からして知っているかいないかで対策が変わってくるわ」


 手が震えていた。覚悟を決めなくてはいけない。アルスリーア様は、充分待ってくれた。


「……私は、リーリア=イヌイル。没落したイヌイルの娘です」


「ふぁ?」


 え?アルスリーア様はそこ予測してなかったの??とりあえず、話を続けさせてもらうことにした。


 流石に前世の話は説明が難しいから割愛するとして……三歳には前世の記憶に目覚めた私。あの頃の愚かな私は、なんでもできると信じていた。

 優しい両親、縫術のお弟子さん達。幸せな時間は、ある日あっという間になくなってしまった。


 始まりは、私が神器を継承したこと。隠し場所をゲーム知識で知っていた私は、神器を継承してしまった。そのため、父が神器を使えなくなってしまったのだ。天才だと誉められた私はいい気になって下手くそながら縫術を使っていた。そこまではよかった。

 それから数年、私が十歳になると母が病気になった。父があらゆる縫術を試したが母は目覚めなかった。私も神器を使ったが、結果は同じ。父が神器を使えたなら、母は助かったかもしれない。安易にストーリーを変えた罰なのではないか。そう思ったら、縫えなくなった。今までどうやって縫術を使っていたかが思い出せない。普通の縫い物はかろうじてできたが、それでは意味がないのだ。

 どんな風に縫術を使っていたかもわからなくなった。


 父は母につきっきりになり、工房に来なくなった。さらに、スカーレット家が縫術師を引き抜いてどんどん人がいなくなっていく。弟子だった縫術師達も指導できる者がいないからと出ていってしまった。


 最後に残ったのは、家族と達成できなかった依頼の莫大な違約金。家財も貴族としての権利も売り払ってなお、完済できなかった。姉と二人で働き、どうにか少しずつ借金を返しながら生活していて……アルスリーア様に出会えた。




「そんなわけで、私のせいでイヌイルは没落したんです」


「え?どの辺りがですの?」


 首を傾げるアルスリーア様、可愛い。いや、私が調子こいて神器を得たから起きてしまった事なのだと思う。全部私のせいだ。神器の持ち主が父だったら母を救えただろうし、イヌイルも没落しなかった。


「リーリアちゃん、よく頑張ったね。リーリアちゃんは悪くないよ」


 ルインさんが優しく涙をぬぐってくれた。


「そうね。ルイン、イヌイル家の没落について調べなさい。なるべく詳しくね。リーリア、恐らく何者かによってイヌイルは没落させられたのよ。貴女のせいじゃないわ」


「かしこまりました」


 アルスリーア様の言葉に、再び涙が溢れた。本当にそうだったなら、どんなにいいだろう。


「……ありがとう、ございます」


 月並みな台詞だけれど、それしか言えなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 良い子だな
[一言] よっしゃ!ルインじっくりがっつりとほっくり返せ!きっとリーリアのせいではないコトが証明されるハズだ!( ・`д・´)←キリリッ(笑) こんな美しくも可愛らしいご主人様が目の前に居たらワタシ…
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