その価値を知らしめた
それからというもの、大変だった。エルとガルの存在は発表まで秘匿にせねばならないのだが…………。
「くまぁ……」
「くまも……」
彼らはわたくしについてきたがるのだ。目を潤ませながら連れていってとお願いされたら断れず、結局毎日鞄に隠れてもらうはめになった。リーリアによれば、あくまでも『持ち歩くことで効果を発揮する縫術具』なので本能的にもわたくしと離れたがらないのだろうとのこと。
幸い、何度か見つかりそうになったけれどなんとか大丈夫だった。
今夜はついに、夜会。今宵、わたくしとガンドルフ様の結婚が周知される。わたくしは今、王宮の控え室に待機していた。
「戦闘準備は完璧ですわね!」
わたくしは金地をベースに紫の刺繍を施したキモノドレスを着ていた。もちろんリーリアが作成したものだ。胸元やスカートの一部が別布で、美しい花模様に染められている。エル、ガル、ガンドルフ様も揃いの意匠だ。ガンドルフ様の服は銀地をベースに翡翠色の刺繍……つまり、互いの色をまとうのは、互いがいかに親密かを示す。わたくし達の仲が良好であるといういいアピールにもなるだろう。
さらに、今日はいつもよりも時間をかけて念入りに肌も髪もケアをした。完璧な仕上がりだ。
「あ、アルスリーア様……私も行くんですかぁ?」
「エルとガルの制作者としてのお披露目ですもの。言うなれば、リーリアはもう一人の主役ですわ」
リーリアは可愛らしくピンクのふんわりしたドレスを着ている。最初はこの国で一番人気のある仕立て屋に依頼したドレスだったのだが、なんでも姉が酔っぱらってワインをこぼしてしまい、洗っても落ちなかったそうで姉がデザインし、リーリアが作ったドレスを着ている。
「うう……頑張ります……」
「ふふ、いざとなればわたくしがフォローするわ。それにしても、ドレスはそちらで正解でしたわね。とてもよく似合っていましてよ」
仕立て屋で頼んだドレスも良かったが、こちらの方がリーリアによく似合っている。リーリアの姉には、デザイナーとしての才能があるのかもしれない。
「でへへ、お姉……姉がワインを溢したときは絶対許さない!と思ったんですけど、凄く嬉しい言葉をくれたのでチャラかなって」
「あら、どんな言葉を?」
「……実はその……今回ドレス作成を頼んだエカルラートは、姉がお金を使い込んだ店だったんです。でも、エカルラートより私のドレスが好きだって。私のドレスは着る人を気遣っていて、良さを引き立ててくれてる。自分が間違っていたってちゃんと謝ってくれたんです」
リーリアは本当に嬉しそうだ。そして、リーリアのドレスを着ているわたくしも、リーリアの姉と同意見だった。
「そう。わたくしもリーリアのドレスが好きよ。貴女さえよければ、ずっとわたくしのドレスを仕立ててほしいぐらいに」
「アルスリーア様………や、やりたいです!ずっと仕立てたい!」
「まあ、貴女の腕を望む人間はこれから増えるでしょうね。さあ、貴女は真っ直ぐに前を見ていればよいのよ。わたくしの部下なのですから!」
「はい!」
迷いない返事が心地いい。丁度、誰かが呼びに来たようだ。
「アリス、いつも愛らしくて綺麗だが、今日はまた一段と美しいな。私と対の衣装なんだね。よく似合っているよ。早く君と結婚したいなあ。正式な婚約者になるわけだし、もう結婚式まで城に住んでくれないかなぁ?」
驚きすぎて何も言葉が出てこない。まさかのガンドルフ様。今、何かとんでもないことを言われていたような?
「そうですよね!世界一可愛くて綺麗ですよね!ガンドルフ様は世界一の幸せ者ですよ……こんなに素敵なアルスリーア様と結婚できるなんて!」
「うんうん。私は幸せ者だなぁ」
「だから、少しぐらい我慢しなきゃですよ。アルスリーア様だって、急に言われたら困っちゃいます。それに、あのビッチの魅了にあてられてた時期があるんだから溝を埋めてからがいいですよ」
「そうか……そうだな!可愛いアリスの信頼を取り戻せるように頑張るよ!」
「ふぇ?」
今何か、さらっと重要な発言があったような?思考を回転させる間もなく、わたくしはガンドルフ様にひざまずかれて手を取られている。
「私のアリス……是非会場までエスコートさせてほしい」
「ふぇ!?よ、喜んで……お願いいたしますわ」
手が腰に!?な、なんだか密着しすぎているのでは!?しかし、ガンドルフ様は気にした様子もなくスムーズに歩いている。
「リーリアはルインがエスコートな」
「はい、リーリアちゃん。おっさんで申し訳ないけど、ちゃーんとエスコートするよー」
「へ!?ルインさんはおっさんなんかじゃないですよ!超かっこよくて優しくて素敵なお兄さんです!」
「………いやその、あんまりストレートに誉められちゃうと、お兄さんお世辞とわかってても照れちゃうわー」
あのルインが照れている!?案外お似合いというか………アリだわ。あの二人が結ばれれば、リーリアが嫁入りしてもわたくしの配下でいられる!いいえ、ルインは子爵家の次男で跡取りじゃないから、リーリアの家に婿入りもできるわ!アリね!
「……アリス」
「はい?」
「………他の男性を見ないでほしいな。君は私のパートナーだろう?」
「そそそそうでしたわね!もちろんですわ!」
近い上に、せつなげな表情をなさるなんて反則!と思ったら、おでこにキスをされてしまった。リーリアがキャーとか言っている。
「ありがとう。行こうか」
「ふぇい……」
ガンドルフ様の素敵さで腰砕けになったわたくしは、しっかりと支えられて夜会の会場までエスコートされました。密着しすぎていると思ったけれど、腰砕けになった状態だと合理的だわと納得してしまった。
一昨日熱だして死んでました。久々の体調不良……休みで良かったです。




