身の程を知らなかった彼女の決定
とりあえず使いを出してリーリアを屋敷に呼び出した。学校では誰が聞いているかわからないからだ。
「急に呼びつけて悪かったわね」
「いいえ。アルスリーア様がお呼びとあらば、このリーリア、どこへなりと参ります」
「とりあえず、貴女はわたくしからの依頼による休暇という形にしたから出席扱いにしたわ。この間の休みもね」
奨学生は働かねば食べていけない者も少なくない。そのための制度だ。
「ありがとうございます!」
「それで、本題なのだけど………」
「くま!」
「くまも!」
「はへ?」
リーリアがわたくしのドレスから出てきたエルとガルに固まる。エルとガルはリーリアにハグしていた。それいい!わたくしにもしてくれないかしら?しゃがんで両手を広げたら、嬉しそうに抱きついてくれた。
「………なんで私の最高傑作が走り回ってるんです!?」
「今朝起きたら急に動くようになりましたの。リーリア、心当たりは?ふふ、くすぐったいですわ」
じゃれてくるエルとガルは可愛らしい。ルイアが羨ましそうだし話が進まないのでルイアにエルとガルを預かってもらった。
「心当たり……?」
ないらしく、首をかしげるリーリア。そこにルインが補足説明をした。
「リーリアちゃん、このくまは守護になってると思う。守護なんておとぎ話だと思っていたけど……イヌイルの始祖が作ったという縫術具……君だって聞いたことぐらいはあるだろう?」
「あります、けど………私の縫術はほぼ我流なんです。………イヌイルを没落させた原因である私が……私なんかにそんなすごいものを作れるはずがないです!」
リーリアは泣きそうな顔で叫んだ。
「そう。なら、それでいいわ。エルとガルが生まれたのは偶然。とはいえ、貴女がエルとガルを作ったのは事実。貴女は狙われかねないわ。だから、これを貴女に」
本当は、ずっと前から渡すつもりだった。主従の証である腕輪。己の信頼できる配下に主が与えるもの。魔力により認証され、外れなくなる魔具だ。腕輪には主の家紋が彫られ、主が誰か一目でわかるようになっている。
「あ、アルスリーア様……」
「昨日返事はもらったから、もう聞かないわ。貴女はわたくしの部下よ。末永く、よろしくね」
「は、はい!!」
「さて、このまま今日は王宮に行くわよ!せっかくのお披露目だもの。派手にいかなくてはね」
火急の用件、ということで国王への謁見は叶った。
「ひいぃ……」
「リーリア、背筋を伸ばして。貴女はわたくしの部下よ。無様な姿はわたくしへのマイナスになるわ」
「………はい!」
まだ緊張はあるようだが、いい目だ。
「その調子よ。さあ、行きましょう」
重い扉が開かれる。玉座に国王夫妻とガンドルフ様がいた。今日は公務で休む日でしたわね。
「アルスリーアよ、相変わらず美しいな。さて、火急の用件との事だが、子細を聞こう」
願わずとも目線で人払いをしてくださる辺り、流石は国王陛下である。いや、そもそも火急の用件という辺りであまり他者に聞かせたくない話であるから、当然と言えば当然か。
「お忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます。話というのはこちらの件ですの」
「くま!」
「くーまも」
元気に挨拶するガルと、優雅にカーテシーをするエル。固まる国王一家。
「………は?」
「まあ」
「それは、クマモリクンか!?」
「「くま!」」
エルとガルが同時に手をあげた。可愛い………いや、可愛さに悶えている場合ではなかった。きちんと紹介しなくてはいけない。
「この子達はわたくしの配下であるリーリア嬢が作りましたの。この子達は特殊な縫術具……魔眼持ちである我が護衛・ルインが『守護』であると断定いたしました」
「なんと!」
「彼女がいれば、緩やかに衰退している縫術師に歯止めをかける事ができるはず。次の夜会で、わたくしはこの子達を紹介するつもりですわ」
「くま?」
「くーま」
首をかしげるガルにシーッお話を聞かなきゃダメ、というそぶりをするエル。可愛い。
「なるほど。あいわかった。そこでガンドルフとアルスリーアの結婚の日取りも発表するとしよう。よいな、我が后よ」
「もちろんでございますわ。ねえ、リーリアと言ったかしら?」
「は、はい」
「わたくしも守護が欲しいわ。貴女、同じものを作れまして?」
リーリアは助けを求めるようにこちらを見た。わたくしは頷く。正直に答えるべきだ。リーリアの手を握ると、震えていた彼女は真っ直ぐに王妃様を見た。
「……恐らくは、できません。わ、私は……私が心から幸せを願えるほどに王妃様を知らないから……できません。そもそも、アルスリーア様ほど敬愛している方もいません。だから、もし心から幸せを願ったとしても動かないと思います。守護は、たまたま……偶然の産物です」
「でしょうね」
王妃様はニコニコ笑いながら頷いた。リーリアはキョトンとしている。王様は苦笑。ガンドルフ様は呆れた様子だ。
「人が悪い……」
「ま!わたくしがわざわざ嫌われ役を演じたというのに……なんて失礼な息子なのかしら!リーリア、でしたわね。ごめんなさいね、わたくし、貴女を試したの。そんな簡単にホイホイ守護が作れるなんて思ってないわ」
可愛らしくウインクまでされてしまった。リーリアが『うわ、可愛い』と呟いた。本当に可愛い方よね。
「母上が確かめる必要などない。リーリアの能力は私が保証する」
ガンドルフ様がドレスを着たクマモリサンを見せた。
「城の魔眼持ちに確認させたが、魅了無効と何かの追加効果を確認した。呪いではなく、祝福らしいな。詳細はわからない、とのことだが、なんの祝福を施した?」
「幸運、です。運気が上がるようにと。あと、正確にはその……魅了無効ではなく悪女避け……です」
「あ、あはははははは!やだ、そうなの!?珍しい効果ね!でも、うちの魔眼持ちが解析できないなんて……本当に素晴らしい縫術師ね。いいわ、アルスリーアを次期王妃として認めましょう!」
「ありがとうございます」
これで、わたくしの立場は安泰。リーリアのために動けるわ。リーリアや家族が困らないように環境を整えるのも主の役割だわ。
それにしても、悪女避けとは面白い縫術具ね。後で詳しく聞かなくては。やることが山積みだわ。でも………大変だけど未来はとても楽しくて素敵なものになると思った。
ここからローテーション更新になりますので、更新は数日おきになります。




