給食当番の話
この日は彼女と僕の班が給食当番の日だった。白い割烹着に三角巾、マスクを着けて給食室に給食を取りに行く。彼女と僕は食器かごを運ぶ係だ。クラス30人分程の皿が入った食器かごは、パンの箱やサラダのボールよりもかなり重い。僕たちの教室は三階にある。彼女と息を切らしながら、どうにか階段を登った。
教室に運び、給食を配り終えた所で箸が無いのに気が付いた。箸かごはいつも皿と一緒に入っているはずだが、今日は無かったことに全く気が付かなかった。
箸が無くては給食を食べられない。クラスメート達が「何で気が付かないの」「普通は気付くだろう」とぶつぶつ文句を言い始めた。急いで給食室へ戻って取ってこようとした時、「一生懸命運んだのに、どうしてそんなこと言うの!?」と彼女が叫んだ。驚く間もなく、彼女は泣きながら教室を飛び出していく。
慌てて追いかけると、彼女は廊下の端にあるトイレへ飛び込んでいった。来ないでよ、と叫んで彼女は奥の窓に足を掛ける。ここは三階で、窓の外は2月の冷たい海だ。飛び降りた彼女の腕を間一髪、掴んで引き戻した。
彼女の肩を抱いて教室に戻ると、教室は色とりどりの紙テープや花で飾られており、クラスメート達が拍手をして待っていた。「良かったね」「生きていて良かった」「生きているだけでいいんだよ」拍手をしながら、皆が口々に言う。
僕も良かった、と言いながら彼女の方を見ると、彼女は青い顔をして目に涙を溜め震えていた。そして僕を突き飛ばし、泣き叫んだ。「生きてるだけで良いなんて、そんな無責任な話があるか。どれだけ苦しみながら生きているのかも知らないくせに!!」
目が覚めた。