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帰省の話
突然彼女が実家へ帰ると言い出した。大学の図書館で一緒にレポート用の資料を探している時だ。何でも友人と喧嘩をしたらしい。顔も合わせたくないからもう帰る、と僕の意見も聞かずに部屋を飛び出していった。
図書館のロビーに、偶然にも件の友人がいた。彼女は姿を見られないよう必死に階段の陰に隠れながら図書館を出た。「誰にも会いたくない」と彼女は大通りを通って駅に行くのを避け、住宅街の路地へ駆けていった。
彼女の荷物をまとめて後から追いかけると、彼女は隣町の路地裏で迷子になっていた。狭い家々の隙間を通るうち、駅を通り過ぎどんどん離れていってしまったらしい。
帰ろう、と僕が言うと、彼女はうずくまったまま小さくうなずいた。
目が覚めた。彼女が誰かと喧嘩をするのも、頑固に「帰る」なんて言うのも珍しい。いつかちゃんと仲直り出来るといいな、と少し思った。