アイドルの話
オペラの舞台のような華やかで大きなステージで、アイドルグループのコンサートが催されていた。
アイドルグループの一員である彼女はヒラヒラキラキラしたステージ衣装を身にまとい、眩しいスポットライトを浴びながら歌い踊る。国民的人気を誇る彼女たちのコンサートは何万人ものファンで埋め尽くされ、関係者席には大物有名人や著名人達が見に来ているほどだった。
大いに盛り上がったコンサートも終わりが近付く。最後の曲を見事に歌い上げた彼女たちは客席の通路を手を振りながら駆け抜け、幕の中へと捌けていった。大勢の観客達が、ざわざわと帰り支度を始め、ぞくぞくと会場の外へと向かう。母親とコンサートを見に来ていた幼い僕は、人波の中で母とはぐれ関係者用の通路へと迷いこんでしまった。
途方に暮れていた僕を見つけてくれたのは、彼女だった。公演が終わったばかりなのに、衣装を着たまま彼女は僕の手を引き母を探してくれた。いっせいに帰途へつこうとする人でごったがえした会場では、なかなか母は見つからない。
「警備員さんに助けてもらおう」と彼女は言い、僕たちは会場の裏へ歩き始めた。警備事務所へ着くまでの間、彼女はずっと僕の手を握ってくれていた。
目が覚めた。このエピソード、SNSに投稿すれば彼女の人気と好感度はだだ上がりすることだろう。彼女が人気アイドルだったなら。