三十九話 ミキ、吸収の魔石を手に入れたい
「ごちそうさまー! 女将さん、すっごくおいしかったよ!」
「あらあら、ありがとうねぇ。よく食べるし、作りがいがあるってもんだよ! 明日の朝食もサービスしようかねぇ」
「本当!? ありがとう、楽しみ!」
スパゲツ亭の食事はスパゲッティではなかった。宿の名前は単なる偶然だったのか、と思うとちょっぴり残念な気もする。でもでも、鶏肉っぽいお肉の入ったトマト風煮込みはとっても美味しかったよ! お肉は柔らかいし、野菜もたくさん入ってて食べ応え抜群だったしね。それにお値段もお手頃。教えてくれたおばちゃんたちには感謝だよー。ここを選んで大正解!
ただ、胃もたれ気味なマコトには辛かったみたいだけどね。もちろん、マコトの残した分は私がぺろっと食べちゃいました。
「お前の食べっぷりを見てるだけで胃もたれすんですけど……」
「はは、食べ方も綺麗だよな、ミキは。色んな人がもっと食わそうとあれこれ持ってきたがる気持ちもわからなくはない」
見てるだけではお腹にたまらないよ? マコトはおかしなことを言うなぁ。食べ方が綺麗っていうのは嬉しいな。前までの私は、運動はまず出来なかったし、勉強も寝込む時間の方が多かったから遅れがちで……。そんな私に、マナーくらいは人よりも出来るようにってしっかりと教えてもらったからね。そのおかげで今、色んな人がおいしいものを食べさせてくれるんだったら、身についておいてよかったってすごく思うよ!
「明日の朝もいっぱい食べちゃうぞ!」
生きる楽しみは食べること、にもなりつつある私は、グッと拳に力を入れて空に突き上げた。たくさん食べた後だから、人や物に当てないようにしなきゃだからね。……だけど、私が拳を突き上げたその瞬間、ブワァッという大きな音と風を感じた。
「キャーッ、なんの音!?」
「ビックリしたぁ。突風かな?」
まさか、風圧で天井に衝撃が当たり、窓や床がガタガタいうとは思わなかったよね。え、私の力ってそんなになの!?
「……これは、早急に対策を練る必要がありそうですね」
「そうだな。うーん、吸収の魔石があればいいんだが」
それを見た二人は、呆れたような表情を見せながらも真剣に相談し始めた。なんか、ごめん。迷惑をかけてばっかりだなーって申し訳なく思うのとともに、対策を考えてくれるのが嬉しくもある。
ところで、コオの言った吸収の魔石ってなんだろう。魔石はなんとなくわかる。言葉の印象で。たぶん、魔法が使えるとかの不思議な石でしょ。知らないけど。
ボーッとしながらその話を聞いていると、私があまり理解してないことに気付いたのか、コオがさらに説明してくれた。
「吸収の魔石っていうのは、文字通り力を吸収してくれる魔石だ。それだけでなく、吸収した力を再利用も出来るらしい」
「へぇ、力のエコだね!」
エコ? とコオもマコトも首を傾げている。伝わらなかったらしい。まあいいや。つまり、私の持て余した力をその魔石が吸収すれば、必要な時のその力を使用できるってことでしょ?
それだけではなく、衝撃として使う以外に、その魔石はエネルギーを魔力に変えることが出来るらしい、とマコトが教えてくれた。えー、すごい! それはぜひほしいね! マコトはいろんな魔道具を持っているから、その道具に魔力を補充出来るってことだ。マコトの負担が減りそう! ウキウキしながら聞いていると、はぁぁぁと大きなため息と共にマコトが腕を組んだ。
「そう簡単には手に入らねーですよ。基本的に魔石は高価なものなんで。鉱山か洞窟にでも行って、自分で見つけて来ない限り無理です」
「自分で見つけるのも難易度が高すぎるがな。俺も一時期それを求めてありそうな場所を探したが、まったく見つけられなかった」
そっか、すでに力を持て余していたコオは探したことがあったんだ。魔道具も高価なものだって言ってたし、魔石も高価なのはわかる。口ぶりからして今の私たちでは手が出せないほどなんだろうな。はぁ、残念。でも、一応聞いておきたい!
「それって、どんな形なの? 魔石っていうくらいだから、石なのかな。宝石みたいな? 色は?」
「……やけに食いつきやがりますね。どうせ手に入らねーのに」
「いいじゃん! 万が一でも見かけることがあった時、それと知らなかったらそのまま素通りしちゃうでしょ? 減るもんじゃないんだし、教えてよー」
どんなものかを知っておくくらいいいではないか。絶対に見つからないなんて言い切れないもん。私たちはこれから旅を続けて色んな場所に行くんだから、どこで見つかるかもしれないし、やっぱり見つからないかもしれない。それは誰にもわからないんだから!
「一理あるな。教えない理由もないだろ。魔石は持っている魔力の効果によって色が違うって聞いたことがあるんだが。どうだ、マコト? お前の方が詳しいだろう」
コオに言われたマコトは、仕方ねーですね、とブツブツ文句を言いながらもマジックバッグから魔道具を取り出しながら説明してくれた。
「たとえばこの水筒には、青い魔石がついてます。これは水と相性のいい魔力が宿っているので、水を出すことが出来る。マジックコンロには赤い、火の魔石がついてんですよ。で、このマジックバッグ自体には黒い魔石がここに。黒は空間に関する魔力が宿ってるんです」
マコトが教えてくれた場所をよく見ると、たしかに小さな宝石のようなものが埋め込まれている。目立たないような場所にあることから、普通の道具のようにみせかけているんだなってことがわかったよ。魔道具はこうして、一見してそれとわからないように作るのが基本なんだって。へぇー。
それと、魔石の大きさによって性能が変わるという。もちろんそれだけではなく、道具の作り手次第で、その魔石の効果を十分に発揮出来なかったりもするみたいだけど。魔道具作りって奥深いんだねぇ。
「で、その吸収の魔石についてですが、たぶん緑色だと思いますよ」
「緑? それは風の魔石じゃなかったか?」
「力を吸収、つまり吸引と考えると属性的に風なんですよ。ただ、もし手に入ったとしてもかなり大きい石じゃないとあまり意味はねーですよ。溜めておける量は大きさに比例しますからね」
「余計手に入れるのは不可能に近いってことか……」
マコトの説明とコオの話をまたしても私はぼんやりと聞いていた。いやぁ、だってあんまり話題についていけないんだもん。魔石だとか言われても、ねぇ? 魔法でさえ、当たり前とは程遠い場所で生きてきたから、本当にピンとこないのだ。
私にわかったのは、吸収の魔石はすごくお金が必要ってことと、大きいものじゃなきゃあまり意味がないってことと、緑色ってことくらい。
緑色の、大きな魔石かー。……あれ? それって。
「ねぇ。緑の宝玉は、その風の魔石になるの?」
「……」
「……」
ふと、思いついたことを口にしたら、いまだにあれこれと意見を出し合っていた二人がピタリと止まってこちらを見た。二人とも目を丸くして間抜けな顔になってる。あれ、おかしなことを言っちゃったかな。宝玉と魔石を一緒にしたらダメだった? そう思ってたんだけど。
「そ、それは、考えたことがなかったですね……。でも、可能性は高ぇですよ」
「盲点、だったな。宝玉がなんなのかはわからねぇが、少なくとも魔力を宿した石に変わりはねぇんだから」
お、的外れな意見ではなかったっぽい?
「じゃあ、緑の宝玉を手に入れたら試してみよう! どうせ宝玉は集めるんだし、ついでに!」
もしこれで、緑の宝玉が吸収の魔石と同じ効果を持っていたら、私の馬鹿力問題も一気に解決じゃない? これはなんとしてでも手に入れないとね! そもそも、女神さまに会いに行くんだから、絶対手に入れるつもりだったし。
「お、お前、宝玉をついでって」
「というか、手に入れる魔石の中で最も難易度の高いものが宝玉なんだがな……」
脱力したように二人には言われたけど、気持ちはわからない。実際ついでだし、宝玉を集めることが難しいのは最初からわかってたことなのに、何をいまさら? ねぇ?




