二十一話 ミキ、お口にチャック
どうも話が逸れてしまったのでパンッと一つ手を叩く。それにハッとなったマコトがコホンと咳払いをし、話し合いをしましょう、と持ちかけてくれたことでようやく話が進んだ。そうだよこれこれ! 話し合いがしたかったんだよ、ずっと! まずは一歩、前進出来て私は嬉しい。
「なにニヤニヤしてんですか。気持ち悪いです。あとお前はしばらく黙りやがってください」
「ひどっ」
ぷくっと頰を膨らませてマコトを睨んだけど、当の本人は知らんぷり。我関せずといった様子でマコトはコオさんの方に視線を向けて口を開いた。どうせ私は余計なことしか言いませんよーだ。コオさんにも怯えられてますよーだ。悲しい。
「オレたちはあんたを仲間にしたいと思ってます。でも、何の脈絡もなく誘ってるわけじゃねーんですよ」
「理由がある、ということか?」
おかしいな。なんでコオさんてばマコトが相手だと普通に会話出来てるんだろう。私の時はワタワタしてて、目も合わせてくれないのに、マコトとはしっかり目も合わせていてズルい。いいなぁ、私もあの金色の目を真正面からまじまじと見たいのに。
「当然でしょ。理由もなく一人を好んでそうなあんたみたいな人、誘ったりしねーですよ。出来ることなら誘いたくもなかったんですからね!」
っておーいっ! どストレートだね、マコトくーん? けど、コオさんは別に気にしてないみたい。気にしすぎてたのは私だけ? はぁ、わからない。しばらく様子を見ることに徹しよう。黙ってろって言われてるしね。
マコトは自身のギフトのことをあっさりと告げ、私と二人でコオさんを探すに至るまでの経緯を簡単に説明してくれた。マコトって説明するの上手だよね。結論から話してしまった私とは大違いである。人と関わるのが苦手そうなマコトのかわりに、交渉ごとは私がー! なんて意気込んでいたけど、思わぬところで問題に直面したなぁ。このままだと本当に私の存在価値がなくなるので声をかけるのは私、説明はマコト、に変えてもらえないかな?
「そういうことか。突然、仲間になれだなんていうから……また厄介ごとに巻き込まれるかと」
おおぅ、それは本当にすみません。でもまた、って言ったよね。それってつまり、これまでも何か厄介ごとに巻きこまれたことがあるってことかぁ。それも、口ぶりからするに一回や二回じゃない。そりゃあ、人間不信にもなるよね。……嫌な思いをしてきたんだな。
「驚かせてごめんなさい。ただ、この世界で初めて会えた人にまた会えたのが嬉しかったからつい」
「え、あ、いや……ん? この、世界?」
だからなんで私が相手だとそう言葉に詰まるのー? ってそれは置いておいて。そっか、その件についてはまだマコトも言ってなかったよね。旅の仲間に勧誘しているわけだし、信用してもらうためにも隠さずカミングアウトしちゃおうかな? マコトも好きにしろ、みたいな態度だし! いいの? お口チャックおしまい? よぉし。
「私ね、異世界からきたの! そこで一回、死んでー、生まれ変わってこの世界にいるの!」
「……は、あ?」
あんまり雰囲気が暗くなってもあれかな、と思ったので胸を張り、出来るだけ明るく教えてあげたよ! どうだ、私のこの心配り! けど、当のコオさんは困惑したように片眉だけを下げている。器用ですねー。
「お前、本当に説明すんの向いてねーですよ……」
あれ? だめだった? でもごめん。私の説明、今ので終わったんだけど。え、えへ。マコトの長ーいため息が、もう一度お前は黙ってろ、という言葉に聞こえた。お口チャック再びですね、了解でーす。
「そんなことが、あるのか……いや、あるから、ここにいるんだよな」
結局、マコトがうまいこと説明してくれたおかげでやっと理解してくれたコオさんだったけど、困惑した様子なのは変わらないからたぶん、信じ切れてはいないんだと思う。理解出来たからってその話を信じられるかっていうとそれはまた別のお話だもんね。私だってしばらくは、ここが死後の世界だって思っていたわけだし。
「じゃあ、お前たちは真のザムラーなんだな?」
真の? 偽のザムラーとかあるんだろうか。私はよくわからずに首を傾げてしまったけれど、マコトはわかったようで、当たり前だというように鼻を鳴らし、腕を組んだ。
「はっ、オレをただの職探しと一緒にされちゃ困りますよ」
相変わらずの上から目線である。まぁいいけどね!
「マコト、って呼ばれてたな。お前、標の魔導士か」
「そーですよ。知ってやがりましたか」
お、コオさんてばマコトを知ってたんだ! というか、名前を知ってたって感じだね。マコトって結構、有名人なんだなぁ。威張ってるけど、威張れるだけの実力とそう噂される実績があるってことだよね。すごい!
「二人とも、二つ名があってカッコいいね!」
「お前はまだ黙りやがってください」
はい、お口チャック継続―。いいじゃん、少しくらい会話に参加したって。マコト、厳しい。でも二つ名だなんて羨ましいーっ。
「お前は、何を望むんだ。女神に新しいギフトをもらうために真のザムラーなどという奇特な道を歩んでるんだろう?」
奇特? そんなに変なことなのかな。夢物語って言ってたし、もしかすると本気で女神様に会いに行こうとするのは、前世で言うところの「宝の島を探しに行くぞ!」って子どもが探検しに行くようなイメージを持たれてるのかもしれない。現実的じゃないっていうか、絶対見つからないからやめときなって言われるような。
でも、絶対にないなんて言えないじゃないか。特にこの世界には確かに魔法のような力があるし、ギフトというものがあるのだから、確実に女神さまは存在する。ギフトなんてない世界から来た私でさえもらってるわけだしね!
それならマナストールという宝玉もあるだろうし、会える可能性だって高いと思うもん。コオさんは、信じてないのかな? そうだとしたら悲しいな。
「奇特、ね。あんたもその奇特仲間じゃねーですか。そっちこそ、何を望んでんですかね。さっきから質問ばっかでこっちが説明し続けてんですけど。いい加減、そっちが先に答えるのが筋ってもんでしょ」
あれ? そうなの? コオさんも、私たちと目的は同じなの? 一人で旅をしてるっていうから、てっきり仕事をしながら旅してるんだろうなぁって思ってたんだけど。っていうか! マコトはそんな偉そうな態度とってていいの!? 仲間になってって頼んでるのはこっちなのに!
「……まぁ、別に構わんが」
「いいのかーいっ!」
あ、うっかり突っ込んじゃった。すごい、全力で叫びながらビシッとツッコミを入れられる、私! はぁ、健康になったんだなぁ、しみじみ。
「だーかーらー、お前は黙りやがれってんですよっ!! あと下がりやがれ! おっさんがまた怖がってんでしょーが!」
「はぁい」
またマコトに怒られちゃった。もう、ノリが悪いなぁ。ちょっとくらいーじゃん。ちぇーっ。それに、やっぱり怖がられてるの本当に解せぬ。こんなに無害なのに!
「おっさんって……俺はそんなに老けて見えるのか」
けど、コオさんはコオさんで別の部分が気になったようだ。軽く落ち込んでいる。あ、あれ? もしかして、意外と若かったりするのかな。髭もちょっと伸びてるし、髪もボサボサだから実年齢より上に見えちゃうのかも。髪は本当にキラキラで綺麗だから勿体ないよね。
……いくつなんだろう。お父さんくらいの年齢だと思ってたけどもっと若いってことだよね、きっと。ってことは、三十歳前後くらい?
「……いくつなんですか、あんた」
「……二十三だ」
ピシャーーーーーン! という音が鳴ったよね、確実に! 今! 私とマコトの頭上に雷が落ちたよね! 衝撃という名の雷がっ!
嘘でしょ? そ、そんなに若かったの? 私より八歳年上、なだけ? 親子くらいの年齢差かなと思っていたけど、むしろ兄弟の年齢差だよっ! はっ、マコトが固まっている。しっかりー!
「……もういい」
あーっ、コオさんがさらに落ち込んだーっ! 待って待って、落ち着いて二人とも! 年齢なんて気にするところじゃないから、ね? ね? あー、もうどうしたらいいのこの状況。よ、よーし、お口チャックオープンしちゃうからね!




