百五十話ミキ、スタートラインに立つ
リペルは饒舌に、でも語尾にギュゲギュゲ言いながら報告してくれた。
これからも私と一緒にいたいってこと、出来れば喋れるようになりたい、ってことを女神さまにお願いしたんだって。
うっ、かわいいっ! リペル大好き!!
それにしても女神さまって、ゴブリンの言葉もわかるんだなぁ。いや、それよりもなによりも。
「だから突然喋れるようになれたんだ……? す、すごい。すごいよ、リペルー! 嬉しいっ!」
「ギュオーっ! オイラも嬉しいギュゲっ!」
ギューッと抱き締めると、リペルも抱き締め返してくれる。このモフモフはこれからもずーっと私の相棒だーっ!
「今まで以上にうるさくなるじゃねーですか……」
「これからはもっと文句を言ってやるギュゲ! 覚悟するギュ!」
「あー、すでにうるせーです」
しまったな、ここの二人の喧嘩はこれまで以上にヒートアップしそう。
これは定期的に注意することになりそうだねぇ。まったくもう。
しかし……マコトがポノフィグフォルムだったら、喋るリペルと言い合う姿はまんま魔法少女とマスコットキャラになりそうだよね。
それを想像したら思わず噴き出して笑いそうになっちゃった。耐えたけど!
「さ、目的も達成したことですし。ユウラ様。今日は近くの町で一泊しても構いませんが、明日からは屋敷に戻っていただきますからそのつもりで」
「わ、わかっていますわよっ! うう、それでもお別れは寂しいですわ。ミキ、今夜も一緒に眠りましょう?」
「ふふっ、もちろんいいよ!」
こうして私たちはココラの町に向かった。マコトに出会った町で、私にとっての始まりの町。
久しぶりにシュートさんとミト組長に会って、お土産を渡しながら旅の話をたっくさんしたよ!
二人にも、ずっと連絡がなかったから気になっていた、って心配されちゃった。それについてはごめんなさい。
ダメだね、お世話になった人たちには定期的にお手紙を書くようにしなきゃなぁ。
旅を長く続ければ続けるほど、そういう人が増えるから大変ではあるけど……楽しみでもある。
さて、女神さまに会うという目的を達成した私たち。今後は、他のザムラーと同じようにお金を稼ぎながら旅を続けることになる。
「あ、あの。一つ、頼みがありまして……」
そのためには、どうしても言っておかなくてはならないことがある。
それは、私たちが女神さまに会えたことを内緒にしてほしいということだ。
お世話になった人にはこっそり伝えるけれど、世間に公表はしないでほしいって。
最初に反応をしてくれたのはシュートさんだ。目を丸くして驚いている。
「つまり、女神さまに会えたことは誰にも言わないってことか? もったいねえなぁ。国から褒章を与えられるかもしれねぇぞ?」
えっ、そうなの? ビックリして今度はミト組長の方に目を向ける。
「君たちは一躍、英雄になるよ。もはや夢物語だと笑っていたザムラーたちにも、再び夢を与えられるだろうね」
ミト組長にも、穏やかに微笑みながらそんなことを言われた。
英雄、ねぇ……。
私たちは互いに顔を見合わせる。その表情を見るに、たぶん同じ意見だよね。私は苦笑しながら二人に告げた。
「私たちは別に、英雄になりたくて探していたわけじゃないので。それに、なんとなく……女神さまにはこれまで通り静かに過ごしてほしいなって。宝玉の化身たちも、しばらくは私たちと一緒にいてくれるみたいですし」
公表すれば、事情をあまり知らない人たちがマナストール探しをするかもしれない。そうなったら組合や町は活気づくかもだけど……。
願いを叶えてもらえるならばと、それこそ世界中の人たちが探し出したら、私たちと共にいる宝玉が狙われるかもしれないもんね。
女神さまのことは、人々に夢を与えるかもしれない。
でも、せっかくの平和が脅かされるのは嫌だ。
「私利私欲のためだけに探したのでは、絶対に宝玉はついて行かない。無駄な闘いは避けたい」
「撃退は出来ますけどね。面倒なのはごめんです」
コオやマコトも私が考えていたことと同じようなことを言ってくれた。
「わたくしたちも同意見ですわ。何より、ミキが人に狙われるようなことになったら許せませんもの!」
ユウラも同意してくれた。バクトもユウラの側で小さく頷いている。
よ、良かった。やっぱりみんなも同じ気持ちだったんだね。英雄になりたいって思ってたらどうしようかと。そんなタイプじゃないとはわかってたけどね。
私も、改めてミトさんとシュートさんを見つめて口を開く。
「私たちは願いを叶えてもらったからそんなことが言えるんだ、って思われるかもしれないけど……女神さまや、宝玉の化身たちを大切にしたいって思うんです。だから」
ギュッと拳を握りしめると、モフッとしたリペルの手が上に重ねられた。ふふ、勇気付けてくれたのかな? ありがとうね。
「自分勝手だってことはわかってます。でも、そもそも私たちは平穏に生きたくて女神さまを探していたから」
これは、女神さまと会えた私たちのワガママだ。自分たちだけおいしい思いをしたことを、内緒にするってことだもん。
それを、ザムラー組合に反対されたって仕方ないと思う。元々は、女神さまに会うために活動する人たちを援助する組織なんだから。
そりゃあさ、いくら私たちが黙っていたところで、どこでどんな噂が漏れるかなんてわからないってこともわかってるよ。
旅の様子を見ていた人たちはたくさんいるわけだし、そこから尾ひれがついた妙な噂が流れる可能性だってあるし。
それでも、出来る限り秘密にしたいたいって思うんだ。
「ふふ、やっぱり君たちを応援して良かったよ」
「え、ミト組長?」
暫く黙っていたミトさんが、相変わらずの柔和な笑顔でそう言った。シュートさんは困惑した様子だ。
「そういう君たちだから、女神さまに会えたのだろうさ。安心してね。君たちの意見には全面的に賛成だ。だから安心して、これからも好きに旅をするといい」
「あ、ありがとうございますっ!」
「……なんか、試された気がしますね」
「おや、マコトくん。人聞きが悪いね。否定はしないけど」
あれっ、つまり試されていたのかな? 最初から、公表はしないつもりだった……?
わぁ、ミトさんは相変わらずだなぁ。マコトが半眼で睨んでる。あ、あはは……。
「ま、その方がいいか。英雄だなんだった持て囃されたって、厄介ごとに巻き込まれるもんな! お前たちが平和で、幸せに過ごせるのが一番だ」
シュートさんも朗らかに笑いながら、私たちのことを秘密にすることを約束してくれた。わかってくれると思ってた!
「さ! ひとまず旅は一区切りってことだな。今夜はこの町に泊まるんだろ? 宿を紹介してやるよ」
「ありがとうございます、シュートさん!」
こうして、私たちは紹介された宿で一泊し、旅の最後の夜を過ごした。
ユウラが名残惜しむから夜更かししちゃったけどね!
そんなユウラだったけど、翌日にはバクトとともにお屋敷に戻っていった。私もちょっと寂しいけど、また会いに行けるから大丈夫!
夜更かししたのもあるし、長旅の疲れを癒すためにも、残った私たちは数日ほどここでのんびりしてから出発することにした。
「行先はどうする?」
そう、次の行先も決めなきゃいけないしね! そう思ってマコトに聞いてみたんだけど。
「さぁ。気の向くまま、行きたい方向に進めばいいんじゃねーですか?」
もう道標は必要ない、とマコトは笑う。
そっか。これからはもっと自由な旅になるんだもんね。
行先の決め方は「なんとなく」くらいがちょうどいいかも。
コオも異論はないと笑ってくれている。私も、異論はないでーす!
あ、それから。
健康体のギフトがなくなってしまった私だけど、どうやら全てがなくなったわけではないみたいなんだ。
それがわかったのは、ユウラが帰ってから二日後のこと。
「オーラが、見える。相変わらずみんなのオーラが見えるよ!」
色のついたオーラ。あれもギフトがなくなったから見えないかなって思ったんだけど、ポノフィグフォルムになるとちゃんと見えたのだ。
それと、前みたいなスーパーなパワーはなくなったけど、一般的な成人男性よりは力持ちのままってことがわかった。体力も普通よりある方みたい。
女神さまは、健康体のギフトは弟に渡してくれたけど、ポノフィグフォルムによる力は残してくれたんだなぁ。おかげで、これからも占いの仕事を続けられそう!
ああっ、またお礼を言いに行きたくなっちゃうよ、もう!
「ねぇ、ねぇ! 私、たぶんマコトのこともお姫様抱っこ出来るよ!」
「すんな」
「コオはどうかなぁ? さすがに重いかな?」
「や、やめてくれ……」
相変わらず照れ屋な旅の仲間たち。でも、私のかけがえのない大切な仲間。
「オイラは? オイラは?」
「リペルはいつも抱っこしてるでしょーっ!」
そして、可愛い私の相棒!
これからも、みんなで旅をして回ろう。いつか疲れたら、どこかの町に住むのも良い。その時も、一緒にいられたらいいなぁ、なんて思う。
女神さまを探す旅はこれで終わったけど、気分としてはようやくスタートラインに立ったって気がしてるんだ。
これまでは、日本に住んでいた私って感覚が強かったからかな?
パパやママ、そして弟のことを考えるとやっぱりちょっとだけ寂しい気持ちもあるけど……でも今はそれよりも、みんなと一緒にいたいって思えるようになったから。
私はようやく、本当の意味でこの世界の住人になれたんだ。
よぉし! この世界のミキとしての人生は、まだまだこれからです!!
これにて完結です!
連載開始から約三年……お付き合いいただきありがとうございました!
また他の作品でもお会いできますように……(*´∀`*)
阿井りいあ




