十三話 ミキ、マコトに歩み寄る
詰所までやってくると、私とマコトに入り口で少し待つようにと声をかけてシュートさんは中へと入っていった。きっと仲間たちに旅獅子さんのことを聞くのだろう。その間、入り口で私はマコトと二人で待っているわけだけど……黙って待っているという選択肢は私にはない。せっかくなんだもん、お喋りさせてもらいます。
「ね、マコトはどんな魔法が使えるの?」
まさか話しかけられるとは思ってなかったのか、マコトはその大きなつり目を見開いて驚いたように私を見た。青紫の瞳はやっぱり綺麗だなぁ。思わず見惚れちゃう。
「どんなって……色々ですよ」
「色々って? 私のいたところでは、魔法なんてなかったから気になる!」
私の勢いが良すぎたのか、マコトはウッと後ろに仰け反った。それから目をサッと斜め下に逸らす。嫌がられちゃったかな、と心配になったけど答えてはくれるらしく、マコトは目を逸らしたまま口を開いた。
「い、色々は色々ですよ! 水や火や風なんかの自然を扱うものもあれば、結界や治療、身体強化など補助の魔法とか……上げてたらキリがねぇです」
「すごい! そんなに色んな魔法が使えるなんて、楽しそうでいいなぁ」
「楽しそう……?」
もはや出来ないことなんてないのでは、というほど多才に思えるよ。素直にすごいと思ったし、羨ましかったからそう伝えたんだけど、マコトは私の反応に意外だと言わんばかりの表情を見せた。
「便利なだけですよ。オレは何でも出来ますから、お前も旅の間はオレを利用しやがればいいんですよ」
それから、その表情に影を落としてそう言った。……もしかして、そう言われたことがあるのかな。あるんだろうな。きっと傷付いてる。でも、私にはそれを慰められるような言葉をかけることなんて出来ない。圧倒的に人生経験が足りてないもの。そういう人間関係のいざこざとも無縁だったから。知識では知ってるよ? 主にドラマやドキュメンタリーといったテレビや本からの知識だけど。それだけだから。
「……ところで、その話し方ってわざとなの?」
「……話題を唐突に変えやがりますね、お前は」
だって、慰め方とかわからないんだもん。私はマコトを利用しようとは思ってないけど、魔法が便利なのはきっと事実で、その能力に甘えることはあるだろうから。それはある意味で利用と言えるし、そんなんでいくら「そんなこと思ってない!」って主張したって説得力ないでしょ?
だから私に出来ること、それは話題の転換である! 暗い話は止め止め!
「だって気になるんだもん。口は悪いのに丁寧に喋ろうとするのが不思議で」
「お前はほんっと無自覚に煽ってきやがりますね!?」
煽る? なんのこと? 何か気に障ったかな? 首を捻ってマコトを見ると、ヒクヒクと口元を引きつらせていた。あれー?
「口が悪いのは否定しねぇですよ。オレは元々、もっと口が悪かったですし、その自覚はありますからね」
あ、自覚はあったんだ。今よりもっと悪かったのかぁ。それは、また……生意気小僧だったんだろうなぁ。じゃあ、変わるきっかけがあったってこと? と尋ねると、マコトは首を縦に振った。
「師匠が散々、丁寧に話しなさいって言いやがりましたから。唯一、尊敬の出来る人ですからね。意見は聞こうと思っただけです」
続けて、そんなにおかしな喋り方してますかね、とブツブツ言い始めるマコトを見つめながら、私は意外に思っていた。尊敬出来る人がいるんだ、って。
や、だって、誰の言うことも聞かない! 唯我独尊! みたいな雰囲気があるから、つい。
でもそっか。そういう人がいたから、今のマコトがあるんだね。確かに、語尾だけでも丁寧だとちょっとはその口の悪さが半減するかも。悪化する場合もあるけど、自分で意識しようとするのがえらい! ちゃんと、反省したり意見を聞き入れたり出来る子なんだってことがわかったよ。
「というか、さっきからなんでオレのことを聞いてきやがるんですか。そしてオレはなぜ律儀に返事をしてやがるんですかぁぁぁ」
キッと一瞬、私を睨んでそう言ったかと思えば、次の瞬間には自ら頭を抱えて叫び始めてしまった。忙しい人だなぁ。
「なんで、って……マコトのことが知りたいからに決まってるでしょ?」
「は……」
当然のことじゃないか。知りたいから聞く。ほら、当たり前でしょ? それ以外にないのに、何を呆気にとられたような顔をしているんだろう。
「し、知ってどーする気ですか」
「そんなの、仲良くなりたいだけだよ。マコトこそ、さっきから何を聞いてるの? 当たり前のことだよね?」
何か調査をしてる、ってわけでもないんだから。これからマコトとは一緒に旅をするわけだし、親交を深めるのは普通だよね? どうにもさっきから、それが普通じゃない、みたいに思われている気がしてならないんだけど。
「なっ、え、な……っ!!」
私の言葉を聞いて数秒ほど固まったマコトは、それから一気に顔を真っ赤に染めた。それから腕でバッと顔を隠し、後退りしながら言葉にならない声を発し始める。……え? 照れて、る? なんで!?
「二人ともお待たせ……って、なんだ? なんかあったのか?」
そこへ、シュートさんが戻ってきた。片や顔を真っ赤にして狼狽るマコト、片や戸惑いを隠せず困った顔をしているだろう私。何かあったのかとシュートさんが聞くのも自然のことだった。うーん、なんと答えたらいいものか。
「べっ! 別に! なんにもねぇですよ!」
返事を考えていたら、先にマコトがそう叫んだので答えるタイミングを逃してしまった。触れられたくないのかな? 目線でシュートさんが私に問いかけてきたので軽く肩を竦めておいた。私にもよくわかりませーん。
「そんなことより、どうだったんですか! 旅獅子の情報はっ」
まだ私たちの様子が気になるものの、本来の目的を優先してくれたのだろう、シュートさんはふっと短いため息を吐いてから教えてくれた。そうそう、大した話でもなかったし、本題に戻らないとね!
「やっぱり、旅獅子はこの町には寄ってねぇみたいだ。だが、何人かその姿は確認してる。隣町に向かったか、この先の森に入ったか……」
この町にはいなかったかー。残念。でも姿を見かけたってことは私が出会ったのもその旅獅子さんで間違いはなさそう。ちゃんと確認が出来ただけでも十分かな。
「周辺の町や村の自警団やザムラー組合には見かけたら足止めしとくように連絡しとくから。もし連絡がなけりゃ森か山に入ってるだろうし、旅獅子だって人なんだからいつかはどっかの町に立ち寄るはずだ。すぐ見つかるさ」
色々と必要なものを調達するには町に入るほかないもんね。足止めまでしてもらえるなんて本当に助かる。こんなにお世話になっていいのかな? ただの小娘相手なのに。
「それなら、この町にもう用はねぇです。お前、さっさと出発しますよ」
「え、ええっ、そんな突然!?」
だというのにマコトはあっさりしたものだった。この世界で初めてお世話になった人や町と、ほんの数時間だけの滞在で立ち去るなんてぇ。というか、旅の準備は? ここが死後の世界じゃない以上、着替えやら食事やら日用品やらあれこれ必要になるはずなのに。今の私は手ぶらで軽装。せめてマントくらいは用意したかったのに!
あ、でも……お金もないんだった。さっきザムラーになったばっかりだし仕事もしてないから当然、収入だってない。旅をしながら仕事をして稼いでいかなきゃいけないのに、ちょっと呑気過ぎたかも。
「……あー、なるほど。言いてぇことはわかりましたよ。その格好ですもんね」
不安そうに自分を見下ろしていた私を見て、マコトが腰に下げていた杖をサッと取り出した。短剣かと思っていたけど違ったみたい。持ち手の形が不思議だなぁとは思ってたよ。なるほど、魔法の杖とかそういうやつかな?
何をするんだろう、と興味津々で様子を見ていると、マコトはその杖を軽く一振り。すると、キラキラとした紫色の光が優しく私を囲むように飛んできた。え、なになに?
「え、あ、わぁっ……!」
次の瞬間、私はさっきの軽装の上にマントを羽織っており、斜めがけのショルダーバッグまで身に付けているではありませんかー! 靴も丈夫になってる!
「オレの持ち物をお前用のサイズに合わせてやりました。しばらくはこれで凌げるでしょ。今はさっさと先に……ってうわっ!?」
マコトの説明を聞いていたら、気持ちが抑えられなくなっちゃった。つまり、感動したのである! こんなにも早く魔法が目の前で見られるなんてー! だから思わずマコトに抱きついてしまった。
「すごいすごい、マコト! ありがとー!!」
「な、なんっ、は、離れ、離しやがれっ!!」
突然のことに丁寧に話すのを忘れているマコトにも気付かず、私は抱きつきながらピョンピョンと飛び跳ね、大興奮するのでした! 魔法ってすごぉぉぉい!!




