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一〇八話ミキ、糸を辿る


 流れが少し収まってきたところで、私は慌ててバッグの中をガサゴソと探る。

 マコトがいなくなったことで光の魔法も離れてしまい、あっという間に右も左も、前後左右や上下さえわからなくなりそうだったから。


「あ、あった!!」


 事前に準備していた明かりを灯す魔道具を取り出し、すぐに起動させる。マコトの魔法ほどじゃないけど、どうにか視界は確保出来た。


 うん、うん、大丈夫。ちゃんと冷静に動けたよ、私。動揺したり、泣いちゃダメだ。

 ど、どのみちあの海溝に向かう予定だったわけだし! リペルがいるんだから、マコトは絶対に大丈夫。なにせ、鉄壁の守りだからね!


「それに、私たちを繋ぐマコトの魔力の糸を辿れる。まだ切れていないってことは、マコトも無事ってことだもん!」

「その通りだな」

「うわっ! び、ビックリしたぁ。コオーっ!!」


 急に聞こえてきた声に飛び上がる勢いで驚いた。けど、声の主が誰かわかったおかげですぐに安心した私は思い切り抱きつく。

 コオはまだポノフィグフォルムの状態だったみたいで、二足歩行のモフモフ姿だ。ぽふ、と頭に手が置かれたのと毛皮のぬくもりが私を安心させてくれる。


「ミキがすぐに光を灯してくれたおかげですぐに辿れた。この糸もあったしな。取り乱さずにちゃんと行動が出来てえらかったぞ、ミキ」

「う、うわぁん! コオ! 私、頑張ったよ! っていうか、コオは大丈夫!? ケガはない!?」

「攻撃したあとすぐに離れたからな。問題ない。それよりも今はマコトを探すことを考えるぞ」


 そ、そうだ。よぉし、もう怖くないぞ! 何って一人じゃないってところが特に! その相手がコオなら百人力だし! 一人は嫌だよ、怖いもん。心細いし。


 もう誰ともはぐれないように、私はコオの手をギュッと握る。モフモフ&肉球の手は大きすぎてちゃんと握れなかったけど、絶対に離さないぞの意思でしっかりと。

 ただ、強く握り過ぎたのかさすがに痛いとコオから抗議がきたので腕に掴まり直した。ごめん。


 ゆっくりと闇に潜っていく。いやだって、本当に闇なんだもん。真っ暗を通り越して闇! そのうち自分もこの闇に同化してしまうんじゃないかって錯覚に陥る。


 だけど、目の前にある小さな明かりと魔力の糸が存在を証明してくれた。大きなシャボン玉の中にコオと二人でいることでお互いの体温も感じられる。

 僅かなことだけど、それがとてつもなく私に勇気を与えてくれていた。


 とても長い時間をかけて下りていったような気がするけど、たぶんほんの十分くらいだと思う。ついに海底に足が着いた。明かりが弱すぎて足下もまったく見えないけど、たぶん海底。


「糸が横に伸びてる。辿るぞ」

「うん!」


 そう、それも海底に着いたんだと思える理由の一つだった。コオを先頭に、私たちは糸を辿っていく。すると、少し離れた場所に明るい人工的な光が見えた。


「マコト!」


 思わず声をかけながら走り寄る。走るといっても海の中なのであんまり思うようには動けないけれど。

 近寄るにつれて、それが間違いなくマコトなのだということがわかった。しっかり立っているし、どこかを怪我した様子もない。


「ギュゲェ!!」

「リペル! 良かったぁ、二人とも無事で!!」


 マコトに近付いてシャボン玉がくっつくと、すぐにマコトの腕の中からぴょーんとリペルが飛び出して来た。グリグリと顔を胸にこすりつけるリペルがすごく可愛い。

 そうだよね、怖かったよね。マコトと一緒で良かったよぉ。


「無事なもんですか。こいつがずっとうるさくて仕方なかったです。怖いからってギャーギャー喚きやがってましたからね」

「ギュゲッ!!」

「事実じゃねーですか」


 あー、うん。元気そうだ。いつも通りの仲の悪さ。一安心だね!


「まぁ、来てくれて助かりましたよ。コイツがいたんじゃあの中に入っていけねーですから」


 肩をすくめて一つため息を吐いたマコトは、事も無げにそう言うとスッと一か所を指差す。

 その先を辿ると……これまたおどろおどろしい雰囲気の洞窟のようなものが。

 しかも入り口がめちゃくちゃ狭い。確かに人一人が入るのがやっとって感じだ。コオはまず間違いなく入れないし、リペルを抱っこしていたら潰れてしまいそう。


 マコト曰く、あの中にマナストールがあるのだという。あんな暗くて怖そうなところにぃ……? ひぃ、怖い。で、でも。マコト一人で行く気、なんだよね? そんなの危ない!


「わ、私が奥に行ってくるよ! マコトはここで休んでて!」


 本当はものすごく嫌だけど! 怖いけど! でもこの中で一番タフなのは私だもん。だから勇気を出して名乗りを上げた。でも。


「いや、オレが行きます」


 マコトがそう即答したのだ。えっ!? 飄々としているけど、怖くないの!?


「だ、だって危なそうじゃん! 私なら少しくらい攻撃を食らっても平気だし……」

「だからいいって言ってんでしょ!!」


 それでもなんとか説得を試みたんだけど、それを遮るようにやや強めに叫ばれてしまった。……マコト?


 自分でもちょっと言い過ぎた気がしたのか、マコトはバツの悪そうな顔で目を逸らす。

 それから、徐に私の持っていた明かりの魔道具に手を伸ばした。すると、あっという間に光が強くなって周囲数メートルは照らせるようになる。すごぉい。


「オレなら、こうして簡単に魔法が使えます。何かあっても一気に海面に上がれますし。魔導師の腕をなめてんですか」

「そ、そうじゃないけど……でも、万が一何かあったらと思うと」

「あーもう、だから! 黙りやがってくださいっ!!」


 なんでそんなに頑ななんだろう? どこかイライラした様子のマコトはギュッと拳を握りしめて叫ぶと、数秒の間を置いて今度は小さな声でブツブツと呟いた。


「……この奥は、確かに危険すぎるんですよ。オレがお前を旅に無理矢理巻き込んで、これまでだって散々、危険な目に遭わせてきた……たまには、安全な場所で守られていやがれ」

「え」


 そんなこと、思っていたの? 私が自分の意思で旅に参加したんだもん。マコトが罪悪感を覚えることなんてないのに。

 普段、あれだけ憎まれ口を叩くくせに……本当はこんなこと考えてたんだ。心なしか口調もいつも以上に崩れているのがなんだか不思議で、返す言葉が出てこない。


「コオ、頼みましたよ。その光が弱まってきたりこれ以上は危険だと判断したら、コイツと一緒に船に戻っていてください」

「……ああ、わかった。マコト、気を付けろよ」

「言われるまでもねーです」


 呆気に取られて何も言えないでいる間に、マコトはコオにそれだけを言い残してサッサと洞窟の方に向かってしまう。

 私はハッとなってその背に向かって声を上げた。


「ま、マコト! 絶対に、絶対に戻って来てね!! 待ってるからねっ!!」


 マコトは振り返ることなく、軽く右手を上げた。……信じてるからねっ!


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