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夢現  作者: mine
2/7

第二夜

私は内心驚いていた。

私は確かに夢を顕現できるけど、戦闘向きではないし、夢での力の30%が出せたら良い方だ。だからインカムでもうすぐ着くと言われた救援が来るまで近隣住民の方々の救助にまわっていた。


しかし、その途中であの怪物、巨大なカエルがこちらに来てしまった。


あの時私は確かに終わったと思った。

カエルの存在に気づいた時には一人が怪物に飲み込まれる瞬間、さらにもう一人は何かを叫んだ後、足を震わせて放心状態。


次はこっちに向かってくるだろう。でも私が今救助しようとしてるお婆ちゃんの足が挟まれた瓦礫が重すぎてなかなか動かすことができない。


私は弱いなぁ。

確かに夢の中なら魔法を使って多少重いものを持ち上げられたり、回復することはできる。でも、あの化け物を倒せる魔法はない。だからすでに飲み込まれた人もあそこで放心した人も助けられない。


「お、お嬢ちゃん、私のことはいいから早く逃げなさい」


思わず身体が震えてしまった私の様子に気づいたのか、お婆ちゃんがそう言ってくれる。



そう私は怖かった。それは今まで基本的に私は救援にまわっていた。だから、直接怪物を見たことなんてなかったのだ。

それでも諦めるわけにはいかない、せめてこのお婆ちゃんだけは助けないと‼︎


「い、嫌です。あの人は無理だけどせめてあなただけでも助けて見せます」


私はあの男の人から目を逸らして瓦礫をどかすことに集中する。


(早く…早くどかさないと間に合わない)


不安で胸がいっぱいになる。


そんな時声が聞こえた。


「俺ならやれる。救える。雷牙に出来るんだ。なら、やれない方がおかしいだろ!」


威勢だけで怪物を倒せるならどれほど楽か。彼でも時間を稼げたらいいほうだろう。

そう判断した私は瓦礫をどかしつつ心の中でカエルに食べられそうになってる彼に謝る。


(ごめんなさい。でも私にはこれしかできないの)


集中して瓦礫をどかしていたら、早めにお婆ちゃんを救出できた。そのまますぐにお婆ちゃんの足に回復魔法をかける。


「さあ、お婆ちゃんこっちです。回復魔法をかけたので歩くことも出来るはずですが大丈夫ですか?」


「ありがとね、お嬢ちゃん。なんとか歩けるよ」


「では早くこの場から離れましょう」


そのまま私はお婆ちゃんと逃げようとする。ただ、ふとおかしなことに気づいた。

そうカエルがまだ襲いに来てないのだ。


どうして?……まさか彼が戦ってる⁉︎


お婆ちゃんに簡易避難所への道を教えてから、彼の元へ向かう。


普通の人には夢の顕現は無理なはず、でももし…もし彼が戦っているとするなら早く助けにいかないと。

例え戦闘ができないとしても援護くらいは出来るはず。


そう思い彼の元へ向かう、そうして彼がいた場所に着いた瞬間私が見たものは。

血飛沫を上げて倒れるカエルとそんなカエルの返り血がついた刀を払っている彼の姿だった。


それを見た私は、顕現できるならもっと早く顕現して助けてくれれば良かったのに。そうすれば絶対あの人が飲み込まれることなんてなかった。

それに彼はあの怪物を倒せる程の顕現率を持っていたのだ。


(なんで…なんで直ぐに顕現しなかったの?もしもっと早く顕現していたらもう一人の彼が飲み込まれることなんてなかったのに。さらにいえばもっと多くの人を助けられたはずなのに)


たぶん通信で言っていた救援はきっと彼だろう。あの人のような力があったら今まで私は何人の人を救えたか。そう思うとなんでもっと早く助けてくれなかったのかと、怒りが湧いてくる。


ただ、一つ疑問点があった。それは飲み込まれたあの人は彼の友達のはず、なのに何故それでも顕現していなかったのかと、いうことだ。


「あ、あの…」


だから私は彼に話しかけてみた。

単純に彼がどんな人なのか気になったからだ。思い返してみれば彼は友達が飲み込まれた時、何かを叫んでいた。おそらく飲み込まれた友達の名前を叫んでいたのだろう。だから彼は顕現しないではなく、出来なかったのかもしれない。


「すまないな、この異形の中から大切な友を助けなければならない。だからお主に構ってる余裕はないのだ」


私が彼について考えていると、彼はこう言ってきた。


もしかして悪夢が消えることを知らない?

普通学校で習ってるはずなのに、まさか本当に今日初めて顕現したのかな?でもそんな話って…


「それについてはそろそろ消えると思いますよ」


だから私はそう言って彼を安心させようとする。そのあと飲み込まれた彼の友達について言っていないことに気づき、すぐに


「ちなみに中にいた人は出てくるので安心してください」


と言った。その瞬間カエルが消え始める。その様子を見た彼は、


「そうか、貴重な情報感謝する。なにぶん初めてこの空間で異形を倒したからな」


と少し微笑んで言ってきた。

その言葉を聞いた私は動揺した。

やっぱりそうだったのかとも思うが、まさか本当に初めて顕現したとは思わなかったからだ。

その理由は


(初めて⁈そんな嘘でしょ。今の話が本当なら初めてなのに夢の力の顕現率が高すぎる。)


そう初めてにしては顕現率が高すぎるのだ。


それにあんな怪物を相手にするなんて初めてだったら相当怖いはず、実際あの時彼は足を震わせていた。

なのに…なのに彼はあの時叫んで、自分を鼓舞して夢の力をなんとか顕現させた。

そうして友達を私達を助けてくれたんだ。


たぶん救援をよこせなかったから組織の彼女あたりが近くの強い顕現の力を持った一般の人に頼んだのだろう。


「こちらこそ助けていただきありがとうございます。私魔法は使えるけど戦闘向きではないから助かりました。」


私はそんな彼に対して怒りを抱いていたのが恥ずかしかった。

なぜなら先程彼を犠牲にしてでも逃げようとしたからだ。確かに怪物を生で見たのは初めてだけど、それでも出ること自体は知っていた。

それでも怖かった、だからどうしても彼を助けようとは思えなかった。やっぱり私は戦えない役立たずなんだなぁ…

そうやって私の気持ちが沈んでいるとき、彼はお礼を言った私に対して


「別に礼を言われるようなことはしていない。俺は異形を倒せる存在。それを倒して人を助けるのは当然だろう?」


彼はそう言ったあと、続けて


「君はあの時瓦礫に挟まっていた人を助けていた。そうやって自分のできることをやる事が大切だ。だから、あの人を助けてくれてありがとう。おかげで後ろを気にしないで戦えた」


終始笑顔でそう言ってくれた。

私はそんな彼の笑顔がとても眩しく見えた。

格好いいなぁ、私もいつかこんなひとになりたいなぁ……


一方、彼はそんな少女の気持ちは露知らず、自分の発言について恥ずかしくて心の中で悶絶していたのだった……


ーーーーーーーーーーーーーーーーー

しばらく自分に対して悶絶していたら雷牙がカエルの消えた場所から出てきた。それと同時に自分の姿も戻る。

後ろにいた少女も同じようで魔法少女の姿から制服の姿になっていた。見た事ない制服だな……とか考えてる場合じゃないな。


「雷牙!大丈夫か?」


呼びかけながら、体を揺する。


「ああ、大丈夫だ。ただあれだな、結構カエルの喉通るときヌメヌメするんだな。あいつに喰われる虫の気持ちがわかったわ、アハハッ」


と、すぐに起きて笑いながら雷牙が言う。


「お前なぁ、めっちゃ心配したんだぞ」


全く何を気楽に、虫の気持ちが分かっただ。こっちの気持ちも察してくれよ。


「知ってるよ。飲まれてるとき聞こえたからな」


と、ニコニコ……いやニヤニヤしながら言ってくる。

え、嘘だろ。


「じゃ、じゃあ俺が言ったこと全部聞こえてたのか」


「いやぁお前例の力使うと性格変わるんだなぁぁあっぶな!」


俺は全力で雷牙に殴りかかる。


「忘れろ、今すぐ。それが無理なら俺が記憶を消してやる」


「いや待て待てこっちはお前の命の恩人だろう?なら殴るのはやめようや」


「それは今関係ねぇ!」


こいつの記憶を抹消しなければ……絶対学校でいじられる‼︎


「許せ、雷牙!そして死ねぇ‼︎」


「アハハッ、なんだっけ?別に礼を言われるようなことはしていない(イケボ)だったか、ひゅ〜悠木かっこいい〜」


こいつ…なんとしてでも潰す‼︎


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そんな悪ふざけをしていたが、しばらくして近くにいた人に気づいた。


「にしてもこの人たちはどうするか……」


そう雷牙が言った。雷牙以外にも二人カエルに飲まれた人が居たのだ。その中にはあの時、悲鳴をあげたと思われる女の人がいた。その二人は時が遅かったのか、すでに植物状態だった。


「あの女の人俺がもっと早く能力のことを知ってれば助けられた。それに俺、悲鳴が聞こえたから助けに行ったのに、カエルを見て怖くなって逃げちまった。雷牙にあの時人を助けられる人になるって話したのに、自分が自分で情けねぇよ……」


それに力に気づいてなくても女の人が食べられる前に雷牙みたいに自分に引きつけて逃げることもできたはずなのに。


「情けなくなんかねぇよ。お前が助けに来なかったら、俺もそのうち死んでたしそこの女の子も死んでただろう。

なあ、そうだろ?」


そう雷牙が少女に聞いたら、少女は


「そうです。貴方が助けに来なかったら私も瓦礫に挟まっていたあの人もきっと食べられてました。それに初めてなのに頑張って戦ってくれたんですよね。改めてありがとうございました」


そう言って少女は頭を下げる。


「いや、そんな俺は」


「確かにお前はこの人を助けられなかったかもしれない。でもお前のおかげで助かった人も大勢いる。だから、俺からもありがとな、悠木」


雷牙もそう言ってくれた。

……それでも救えなかった事実は


「救えなかった事実は変わらない、か?人を助けられる、それだけでも相当すごいんだ。胸張れよ。それでも納得できないなら次は全部救えよ」


雷牙がそう言ってくれる。確かにそうなんだろう、今回助けられなかった人には悪いが、その分次の人を助けてみせる。そう振り切るしかない。これ以上今日みたいな犠牲者が出ないように……


「ああ、そうだな。次は全部救えばいいな」


雷牙はやっぱりすごい。人の気持ちをよく考えてくれている。


「ありがとう、やっぱり雷牙には敵わないな」


「当たり前だろ、お前の親友だからな」


そう笑顔で雷牙は言う。


「あ、そういうのはちょっと」


「いやお前励ましてやったのに……」


「ガァァァァァァァァァ⁉︎」

ドサッ‼︎


雷牙と話してる途中、俺は全身に痛みが走り倒れてしまう。


「大丈夫か悠木⁉︎」


「大丈夫ですか、いつのまにか怪我とかされてましたか?」


二人がすぐに駆け寄り心配する。唐突なことだったので二人はかなり動揺してる。つかたぶんこれって……


「クソッ!悠木、しっかりしろ‼︎」


雷牙が俺にそう呼びかけてくる。

ところでなぜ俺が倒れたのか、それは俺は元々極度の運動音痴であり、そのせいで運動を普段の生活以外でしたことがない。体育も毎回休むし、持久走も運動会ももちろん休む。つまりどういうことかというと、


「体が……痛い……全身つったかも」


痛みのせいで若干涙目になりながら俺は雷牙にそう言った。当然だ、今まではたぶんアドレナリンが効いていたのだろうが、戦闘が終わって夢の世界も解けたからその効果が切れたのだろう。普段運動しないくせに調子乗って走った挙句、カエルを倒すのに夢を顕現して全身の力を使って切ったのだ。その結果全身つってしまった。確実に次の日は全身が筋肉痛になるだろう。


「やばい…肺もめっちゃ痛い……」


呼吸をするのが結構きつい。最悪の気分だが、普段運動していない俺の自業自得だな。


「全くそんなことで心配させんなよ……」


と、雷牙は呆れたように言ってくる。

確かに自業自得だが、


「そんなことってこっちからしたら一大事なんだよ、馬鹿野郎‼︎」


「おや〜悠木くんそんなこと言って良いのかな?」


俺が叫ぶと雷牙が口元をニヤリと歪ませながら近づいてきた。待ってすごく嫌な予感がする。


「おい、やめろ馬鹿」


「ほらここか?ここが痛いのか?」


雷牙が指でふくらはぎを突いてくる。


「痛い痛い‼︎やめろ一番そこが痛いんだから、ちょっと待って本気だからやめてくださいお願いしますーーー!」


「あ、あはは……」


さっきの重い空気は何処へ行ったのやら、暗くなった道路で少年の叫び声と少女の乾いた笑い声が響いた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あのあと放心状態の人はあの力のことを俺に教えたあの女の人達の組織が回収していった。ちなみに少女はその組織が運営してる学校に所属しているらしい。去り際、


「すぐ会えると思うので、また会った時はよろしくお願いしますね」


と、言っていた。え、また俺あの怪物と戦うの?まあ人を助けるために戦ってもいいけどやっぱり怖いものは怖いからなぁ……


あと瓦礫に挟まっていた人の傷は擦り傷程度になったらしい。あくまであの世界は夢の世界だからそこで負った怪我は現実では軽減されるらしい。そのおかげで俺の夢での負担も筋肉痛ですんでいるのかもしれないな、痛くて死ぬかと思ったけど。


そして雷牙については検査されたが、特に異常はなかったらしい。本人曰く


「いや喉通ってる途中でいきなり外に出れたからびっくりしたけど、そのおかげで消化はされなかったわ」


ということらしい。ちなみに今回夢の中で死んだ人は二人だけだが、まだ放心状態で見つかったから良かったらしい。下手したら行方不明、つまり本当に死んでしまっていたかもしれなかったからだ。だとしてもやっぱり救えなかったのは心苦しい。ただ放心状態や植物状態でも時間をかければ治せるらしいから、それで助かることを祈るしかないだろう。

なんにせよ。組織の戦闘員が居なかったのに大きな被害者が二名だけだったのはかなりいい結果だったらしい。


ところで今は五月、つまり学校の新生活に慣れ始めてクラス内によくつるむグループが出来て、そのメンバー達と遊びに出かけたりする時期だ。

そんな友人関係が確立する時期に俺は


「はい、みんな席に座ってね。HRを始める前になんと今日は転校生が来てます。というわけで守城くん、どうぞ!」


「えーと、いきなり引っ越す事になって転校して来た守城(かみしろ) 悠木(ゆうき)です。よろしくお願いします。」


転校していた。この高校は悪夢対策課という警察の中の組織が運営してる学校らしい。普通の科目の他に戦闘訓練や基礎体力の増加なども行う。ちなみにあの夢の世界は悪夢の顕現<ナイトメアシィアファニィー> <nightmare theophany> と言われていて、例の結界が顕現して、ある一定の人を巻き込みその結界内の主である悪夢はそれらの人間を襲ってしまうと、言っていた。恐ろしいことだが、俺は別のことも考えていた。


いやなんで英語にするの?

ただでさえ苦手なのにすごく発音しづらいし、最初英語を見せられた時(ないとめあざおふぁん?)と心の中で読んでしまった。phaでふぁと読めたのは褒めて欲しい。


先生に紹介されたので自己紹介をして軽くお辞儀をする。ちなみに先生の名前は黒澤(くろさわ)実里(みのり)という名前らしい。

そして顔を上げた瞬間、様々な目線が飛んで来る。

多くは俺を見定めるようなそんな目だ。

普通、転校生に対しては興味深そうな目線が多いはずだが、まあそんな目線が多いわな。

なぜなら新しい高校に入学してから1カ月しか経ってないのにもう転校だからね☆


………ざけんな‼︎もう嫌だこの人達の目線。俺はただでさえ人見知りなのに、その睨むような目線やめてくれよ!というかよく見たら男からの目線が厳しい気がする。女からの目線は本当に見定めてる感じっぽい。あとこの高校は例の対策課が運営してる学校、つまり戦闘訓練とかしないといけないんだろう?

人を救うって宣言したよ?したけど、

この間まで雷牙や雷牙とは別に中学の時に頑張って仲良くなった奴と馬鹿な話でもしながら高校生活を送ってたのにどうしてこうなったんだ⁉︎


まああの時買い物に出かけた時点でこうなることは決まってたんだろうな……


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